劇場公開日 2023年2月3日

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「清々しいバカ映画」FALL フォール 因果さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0清々しいバカ映画

2023年4月7日
iPhoneアプリから投稿

かなり完成度の高いバカ映画だった。

まず冒頭、ロッククライミング中にベッキーの夫が滑落事故で命を落とす。以降ベッキーは塞ぎがちになり、父親の心配も無視して酒と薬に溺れる。そんな彼女を励まそうと親友のハンターがやってくる。で、何を言い出すかと思えばここから車で6時間飛ばした先にある荒野に600メートルの鉄塔があるという。ハンターは目を輝かせながら「一緒に登ろう!」とベッキーを誘う。「毒を以て毒を制す」とは言うが、これはあんまりにも荒療治が過ぎるというか、段階を踏ませてあげようという配慮がほとんど感じられない。しかもそれに乗っちゃうベッキーも何なんだよ。

ハンターは本当にベッキーへの強い友情から彼女を鉄塔に誘い出したのか?疑念はさらに強まっていく。ハンターは終始画面の向こうの6万人のフォロワーばかりに気を取られ、しきりに「いいね」の数を気にしている。一時は脇見運転でトラックに轢かれかけもした。また鉄塔を登りはじめてからも梯子を揺らしたり登攀を急いだりと、自身の身体的スリルを優先するあまりベッキーは置いてけぼりだ。

しかし登頂してみれば荒療治は意外にも成功だったようで、ベッキーは自信と笑顔を取り戻す。上昇運動において失ったものは上昇運動によってしか取り戻せないのかもしれない。常人の我々には理解ができないが。

さてそこからはお待ちかねのシチュエーションスリラーが幕を開けるのだが、とにかくハンターの身体能力がヤバい。加えて恐怖中枢が完全に麻痺しているがゆえの八面六臂ぶり。跳んだり跳ねたりバランスを取ったり、とにかくinsaneでcrazyだ。

カメラはドローン、POV、俯瞰、仰視と変幻自在かつ縦横無尽に彼女らの窮状を映し出す。引きで見せるか寄せで見せるかの判断がかなり巧いなあと思った。やはりシチュエーションスリラーの成否を分けるカギはカメラとカッティングにある。

ハンターが実は途中で死んでいた、という展開は『シックス・センス』のしょうもなさを若干想起させるものの、ベッキーの異常な精神状態を表すものとしては割と効果を上げていたように思う。ただ、仲直り後のベッキーとハンターのやり取りがすべてベッキーの妄想だったということは、ハンターはマジで最初から最後までただの狂人だったということになる。マジハンパねえなクレイジー・D…

後半は鉄塔の先端部から電力を拝借したりドローンを飛ばしたり傷口に寄ってきたハゲタカを素手で殺して食べたりと、ありったけのサバイバルギミックが矢継ぎ早に展開していき、最後はベッキーが自分の携帯を電波の届く地上へ落とすことを考え付く。最終最後の手段だから念には念を入れたくなる気持ちもわかるのだが、死んだ親友の腹に携帯を詰めて死体ごと600メートル下の地面に落下させるというのはいくらなんでも酷すぎて笑ってしまった。

エンドロール含め本編中の至るところで幾度となく流れ、口ずさまれる「君は俺のチェリーパイ~」みたいな曲も作品のバカさに拍車をかけていた。こんなもん聴く層なら確かに後先考えずに鉄塔登っちゃうよな。

ただやっぱりすごいのは、ここまで感情移入のできない人物造形がされていながらも、作品が没入型アトラクションとして成立していることだ。ベッキーたちの窮状を自業自得だとは思いながらも握りしめた拳には汗が滲み出る。その辺はカメラや演出の功績が大きいと思う。あと高いところってやっぱ普遍的に怖いですからね。

因果