イニシェリン島の精霊のレビュー・感想・評価
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言いたい事は解るのですが
見終わった後、素晴らしい映画、感動したとは思えない。
アイルランドの風景は美しい。
草を喰む山羊や牛を見ながら歩く岩に囲まれた小道を見るとスコットランドのアイラ島に行った時を思い出しました。
何か変な映画見ちゃったなと思うものの、色んなシーンが時間経っても思い浮かんで反芻してしまう。
登場人物のキャラが立ってて、コリンファレルの演技は素晴らしい。
鑑賞中、私もこの島の閉塞感に行き詰まりそうでした。
コルムは僕と友達をやめるって。
やめるって言ったって、桐島が部活をやめるのとは違う。唯一無二と疑うことがなかった友に、「友達をやめる」と通告された純朴な善人は、戸惑い、悩み、悲しんだ。その感情は当然だ。たしかにコルムの意志の強さは、激しいはずの痛みにさえも平然(を装っているのかも)とできるほどだ。そりゃ誰だって、このまま無駄に歳をとって死んでいくだけの人生なんてまっぴらだ。だけど、それまでの付き合いをチャラに、いや完全否定するほどに、ばっさりと切り捨てるっていうのはどうなのか。そりゃ代り映えのしない生活なのだから話題はいつも同じだ。退屈だろうよ。今の自分の周りだって、酒とパチンコと飲み屋のネエチャンの話しかしてこない同僚との会話は、とてつもなく退屈だよ。だけど、あれじゃパードリックが気の毒だ。それまで付き合ってきた義理ってもんがあるだろうよ。だけど。それさえも無慈悲にも捨て去れる決意、そんななにかを秘めたコルムの堅い表情が、どことなく痛々しかった。
アイルランドと言えば、「ライアンの娘」だな。たしかに、退屈そうで、話題がないゆえに、すぐ他人を気にしたがる。妬む。あの映画の空気と似ている。コリン・ファレルも溶け込んでいた。ふとキャストを見てみたら、メインキャスト、全員アイルランド人だった。映画の中以外の事をいろいろ考えてしまった。
コルムが言う、「時々思う、人生は死ぬまでの暇つぶしだと」。この言葉はよく聞く。仏教的死生観なのかと思っていたが、彼らもそうなのだな。みうらじゅんは「生まれてから死ぬまでが余生」だと言う。その静けさを、コラムは求めたかったのだろうか。じゃあそれは、退屈とは違うのか。たぶん、違うのだろうな。「静けさ」の中には、心の平穏や安らぎがあるが、「退屈」の中にあるのは、「つまらない」という無意味な時間だろうから。コルムは気付いたのだ、それは無駄で無意味だと。おおいなる代償と引き換えにして。
この映画、パードリックに寄り添おうとすると、絶望と悲しみに襲われてくるが、コルムに寄り添ってみると、傷つきながらも何かを残せた達成感がある。
バリー・コーガンは、間違いなくオスカー助演男優賞を受賞する。
至高の演技四重奏。
鬼才マクドナー監督の脂が乗った演出と物語は言わずもがなではあるが、それを支える役者たちの演技が至高すぎる。
人間とは理不尽な生き物だ。
一度亀裂が入り、歪んだ溝は次第に大きくなり、取り返しのつかないところまでいってしまう。
まるで彼らの関係性は、どこかの国と国の戦争のようだ。
戦争で失うものは、指どころじゃない。
イニシェリン島は、閉鎖的であり窮屈で、しがらみがいっぱいだ。
私がこの島の住民ならば、耐えられずにすぐに出て行くだろう。
そして、対岸の火事如く、案ずる気持ちを表明するだけだろう。
こんなお話をここまで面白く、ブラック且つユーモラスに描ける監督は天才マクドナーしかいない。
アカデミー好みだけど
哲学的すぎて難解。
前半部分でコルムが「下らない話で自分の残りの人生の時間を無駄にさせらるのはたまらない」と言うのはよく分かる。
コルム側からすれば「俺のことはほっといてくれ」と言っているのに、パードリックが一方的に接近しようとする、そんな構図は世の中にはよくある話であろう。
男と女が痴情のもつれで犯罪に至るケースは枚挙にいとまがない。
それが男同士の長年の友人関係の破綻でも同じじゃないだろうか。
そこを割り切れない片方がいるとこの作品のような事件が起きてしまう。
小さな島のムラ社会では、ましてや他に楽しみも無いパードリックにとってはなおの事、切実な問題として受け取ざるを得なくなってしまうのだろう。
だからこの作品の中で問題は何なのか見えなくなってしまっている。
コルムが自分の言い分をパードリックが守らないと言って、フィドラーにとって命の自分の指を詰めていく。
パードリックが自分のロバがコルムの切り落とされた指を喉に詰まらせて死んだからと言ってコルムの家を焼き打ちにする。
このような暴力的で狂気に満ちた設定はこの作品の価値を貶めているようで残念。
他の違った設定があったような気がするのだが。
敢えて理屈付けすればロシアのウクライナへの侵攻に対する抗議なのだろうか。
遠くにアイルランド内戦の砲撃の音が聞こえることもあって。
発達障害のようなドミニクが湖で溺死しているシーンは何を言わんとしているのかも不明。
今年度のアカデミー賞の主要部門にほとんどすべてにノミネートされているようで、幾つかは受賞するだろうが、監督のマーティン・マクドナーの以前の作品「スリー・ビルボード」のほうが物語性があって面白かった。
映画通好みでしょうが、自分には合わず…
予告で観た得体の知れない雰囲気に惹かれて鑑賞してきましたが、なんだかよくわからない作品でした。
ストーリーは、毎日午後はパプで親友のコルムと楽しく過ごしていたパードリックが、ある日コルムから絶縁を言い渡され、納得がいかずに関係の修復を試みるものの、さらにコルムから「次に話しかけたら自分の指を一本ずつ切る」と告げられ、二人の関係がどんどん変化していくというもの。
予告で観たとおりのやりとりからおどろおどろしい雰囲気が最後まで続きますが、結局何を伝えようとしているのかよくわからなかったというのが正直な感想です。終始漂う閉塞感と退屈さは、直前に観た「ピンク・クラウド」と同様で、この雰囲気に4時間さらされて、眠気と疲労がピークに達していたのも、本作を楽しめなかった要因の一つです。
自分はパードリック側の視点からずっと観ていたので、コルムの変化に戸惑う彼の気持ちにはとても共感できました。しかし、コルムの忠告を無視した結果が招いた悲劇的な結末を見ると、なぜコルムの思いを尊重してやれなかったのかと複雑な気持ちにもなります。海の向こうのドンパチが何かを物語り、それがこの島の争いと共通の根底を持つのではないかと推測しますが、自分の知識がなさすぎてよくわからずじまいでした。このあたりが理解できる映画通には好まれる作品なのかもしれませんが、自分にはちょっと合わなかったです。あとで他の方のレビューを読んで補完しようかと思います。
主演は、コリン・ファレルとブレンダン・グリーソンの二人で、抜群の演技を披露しています。仲のよかった親友との関係がじわじわとこわれていく感じが、切なく悲しく息苦しく伝わってきます。そんな二人を取り巻く周囲の人たちをケリー・コンドン、バリー・コーガンらが演じ、その距離感からパードリックとコルムの人柄を浮き彫りにしているのも、なかなかの描き方だと感じました。
争いはお墓まで
今までに観たことの無いスリラーでした。
印象に残ったのは、美しいアイルランドの風景、バイオリンの音色、場にそぐわない発言をするドミニク、ロバの哀しい瞳
ドアにぶつけられた切り落とされたモノです。
昨日の友は今日の敵
アイルランド内戦
独立戦争ののち英国との
間で締結された「英愛条約」
が警察権や領分といった点で
満足のいくもので
なかったために条約推進派と
自由独立を掲げる
アイルランド共和国(IRA)との
間で起こった内戦
独立戦争を
「ともに戦った仲間同士」
で突然始まった殺し合いとなり
結局独立戦争より死者が出た事
その後のIRAに端を発するテロ
有名な血の日曜日事件など
今に続く北アイルランド
問題など深く爪痕を残した
この内戦は
1922年6月からほぼ1年間行われ
この映画はそんな時代背景で
あることを前置きにすると
馴染みやすいかもしれない
そんなアイルランドの
(架空の?)孤島
イニシェリン島でおこる
人間模様
感想としては
決して時代固有のテーマでは
なく少し間をおいて意味と
考えると色々深い映画だと
思いました
島で読書好きの妹シボーンと
暮らす気のいいパードリックは
野良仕事が終わると
いつものように友人の
コルムを午後2時にパブに誘うと
いつもと様子が違い出てきません
問いただすと「お前とは口を利かない」
とコルムは言い出します
面食らったパードリックは
理由を尋ねるとバイオリンに
心得があるコルムは
「後世に残る曲を作るからお前の
退屈な話は聞いていられない」と
ハッキリ言われていまい落ち込みます
シボーンは病気に違いないと
パードリックをたしなめますが
ますます心配になります
パードリックは確かに
暮らしも凡庸だし
話のつまらなさは
読書好きの妹も認めるところ
ですが少なくともコルムに
そこまで言われるほどの
事はない優しい男
島のクズ警官の息子で
少し知的障害があり
父親にはいつも殴られ
皆に馬鹿にされている青年
ドミニクもパードリックには
よくなついています
コルムはパブにやってくる
音大の学生たちと楽しく
音楽を演奏しており他人との
付き合いも変わらないようです
エイプリルフールかというと
そうでもなく
納得できないパードリックは
周りの人や島にくる牧師にも
理由を尋ねさせますがコルムは
ついに「これ以上話しかけるごとに
自分の指を一本ずつ切り落とす」
と言い出しパードリックは
ますます困惑します
そしてパブで再び
コルムを見かけたパードリックは
スコッチをあおり酔った勢いで
友人より音楽をとって何になると
なじりだします
するとコルムは音楽は後世に残る
友人関係は死ねば消えてなくなる
モーツァルトのように語り継がれる
音楽を残したいと言います
パードリックは妹に連れられ
パブを去りますがその後
家のドアを叩く音がして
行ってみるとコルムの
切り落とされた指が落ちており
大騒ぎ
パードリックは混乱のあまり
指を返しに行くとか
事態を把握出来無くなっているので
シボーンが指の入った箱を代わりに
返しに行くとコルムは悪びれる様子も
なくこうでもしないと
わかってもらえないと言います
そこまでする必要が理解できない
シボーンは二度と関わるなと
コルムをどやしつけます
そんな折シボーンは「本土」から
図書館の仕事のお誘いの手紙が
来ておりこの島を捨てるかと
迷っているところで
パードリックのことで
絡んでくるクズ警官を無視したら
「行き遅れ」と言われ
だいぶ決意が固まっている
ところでした
この島の人間は狂っている
と割り切りだしたのです
このへんのタイミングで島の老婆が
「もうすぐ2人くらい死人が出る」
と告げに来ますがパードリックは
クソババアと追っ払います
パードリックはいい奴で
まだ心配している気持ちの方が
強かったですがパブで音大の人と
仲良くしてるコルムを見て
お前の父親が危篤だと嘘をついて
追い返すなど意地悪をしてしまいます
ドミニクにそれを話すと
あんたは優しいと思ってたのにと
予想外にドン引きされて
立ち去られてしまいます
ドミニクはその後シボーンに
思いを打ち明け断られると
行方が分からなくなってしまいます
パードリックはその後
コルムの家に押しかけその
後世に残す「曲」は出来たのかと
問いかけると今朝出来たと言い
題名は「イニシェリン島の精霊」
であると告げます
その精霊とは「バンシー」という
死を予告する死神のような養成のこと
そいつらがせせら笑っているのが
気に入らなかったとコルムは言います
いまいち意味がわからない
パードリックは
「曲が出来たのなら関係は元通りだ」
と解釈しパブで飲もうと告げます
しかしコルムはパブに来ず
妹がまたコルムに接触したのかと
連れ戻しに来ると家には
コルムの左手全部の指が
投げつけられていました
妹はもう完全に決意し
島から出ていきます
パードリックは俺はどうなると
抗議しますが兄さんも島を出ろと
言われ一人になってしまいます
そして妹を見送り家に帰ると
可愛がっていたロバのジェニーが
コルムの指をのどの詰まらせて
死んでいました
パードリックはパブのコルムの
元を訪ね
「お前のせいジェニーが死んだ」
「報復で明日お前の家を燃やす」
「止めたければ止めてみろ」
「どちらかが墓に入るまで続く」
と宣言します
完全に決裂です
コルムもジェニーの死は
予想外の事故で困惑しますが
もうパードリックは予告通り
火をつけに行きますが
コルムが飼っていた犬はよそに移し
家を燃やすと中にコルムがいました
でもお構いなしにそのまま立ち去り
家は全焼します
コルムは死んだのか?
パードリックがしばらくして
家の周りに行くとコルムは生きており
犬を世話した例を言われますが
パードリックは宣言通り憎しみは
消えないと言って立ち去ります
・・・
結局この映画の感想は
色々あると思いますが
コルムの心境の変化に与えたものが
何だったかは仲間同士が殺しあう内戦とか
島そのものの閉塞的な環境だとか
パブに音大の人間がやってきたとか色々
あるでしょうが「パードリックを拒絶
してまですることだったか?」という
ところ
確かにコルムは音楽を嗜んでいますが
モーツァルトの年代も間違えてる
レベルの知識量で音大の学生に
演奏してもらったところで
本当に後世に残る曲になったか?
作中にそこまでの演出はありません
表現としては
「指を切り落とすほどの決意で
親友を切り捨ててまでして作った
ものではなかった」と言いたげです
最後に家と一緒に
死なせてももらえなかった事が
彼がこれから背負う苦しみ
パードリックもどうか?
確かに島で一番じゃないか
というほどの優しい男ですが
コルムに指を実際に切り落とされても
まだ事態を認識できていないほど
「依存心」が強く思考停止していた
ように描写されています
実際妹が家を出ていく事態も
承服しきれていなかった
でもコルムの家を燃やしたことで
パードリックは完全に変わってしまった
恐らく今後人を信じたり優しく
接することもなくなっていったと
思います
では
コルムがパードリックに正直に
後世に残す曲を作りたいと
夢を語ってしばらく集中させてくれと
言ったら?
この映画の描き方からすると
たぶんパードリックはわかったよと
承服して出来たんじゃないでしょうか?
出来ることがあったはずなのに
コルムの家は燃え左腕は指が全部なくなり
パードリックとの関係は破壊され
パードリックはジェニーも妹も失った
なぜそうなったのでしょう?
時折出てきた魔女っぽい婆さんは
本当は現存しなかったのかもしれません
主要登場人物たちであれが見えた人々
達の周りで死が訪れたのは確かです
「壊すのは簡単
でも二度と元には戻らない」
この映画に
ふさわしいのはこの言葉だけなのかもしれません
とっつきやすいとは言えませんが
いい映画でした
ずっと不協和音が鳴り続けるような映画
なんか、ずっと耳の横で黒板に爪立てられているような居心地の悪さが続くような映画だった。
まず、コリン・ファレルをはじめとする出てくる人が全員変。そして、話も不可解。
ほぼひとネタだけで最後まで引っ張っていくけど、オチもなんか曖昧で、判ったようで判らないまま終わっていく。
指の件については、まったく理解不能。
なぜ、そんなことする?
行動とそのリターンのバランスが悪過ぎて???でした。
あー!島のイメージが!
憧れのイニシュモア島がこのようなお話の舞台になってしまうとは…。壮観な島中に張り巡らされた石垣はこの映画のためではなく貴重な土を強風で飛ばされないようにするためです。どうかケルトの精霊よお怒りにならないで下さいませ。
寒いのでアラン島のセーター着てアイリッシュコーヒー飲みます。
監督の意図は分かるものの暗過ぎる作品
タイトルにある通りです。
衝撃的なラストと広告にありましたが、私は読めました。
ダウナーな気分になりたい方は、どうぞ。
星1つは頑張って演じた出演者に対してのものです。
美しい自然をバックに衝撃的結末に向けて、人間の切なさや滑稽さをブラックに描く手法はマクドナー監督の妙技ではあると思います。でも今回はやり過ぎだ!
「お前が嫌いになった」。親友に突然、そう告げられることから幕開けとなる本作。理由も分からず、かたくなにI。何とも不条理な話ですが、才人マーティン・マクドナー監督の手にかかると、濃密な人間ドラマに変わるのです。刺激的な会話、ブラックコメディーの要素もまといつつ、人間のどうしようもない不可解さが痛烈に示されたのでした。
舞台は1923年、内戦下のアイルランド。平和な孤島・イニシェリン島に暮らすパードリック(コリン・ファレル)はある日、パブ仲間で親友のコルム(ブレンダン・グリーソン)から突然絶縁を告げられます。
コルムを親友だと信じ、妹のシボーン(ケリー・コンドン)らの力を借りて仲直りしようとするパードリックに、コルムはかたくなに拒み、「話しかけたら自分の指を切り落とす」と告げ、やがて本当に親指を切断したのでした。
これはいくら何でも、やり過ぎでしょう。驚いているうちに、物語はさらに痛ましい方へと進んで混乱に拍車がかかります。パードリックも次第に正常ではいられなっていきます。
マクドナー監督の映画で悲劇をもたらすのは、悪意や敵意ではなくて頑迷さでしょう。コルムが「残りの人生を意義あることに使いたい」と言うのは分からなくはないが、あまりに極端です。周囲の取りなしに耳を貸さず、パードリックの懇願も無視して、果ては自分を傷つけるのです。筋立ては先読みできないし、安易な感情移入も拒絶し、驚愕のラストへ突き進んでいきます。
前作「スリー・ビルボード」では、娘を殺された母親と警察、世間との対立を強烈に描きました。今作で、なぜコルムはそこまで強情なのでしょうか。対立の構図ははっきりしません。
2人の対立は、内戦の隠喩。海の向こうの本土から、砲撃の音がのどかな島にも届いてきます。アイルランドにルーツを持つマクドナー監督は、「兄弟」同士の血なまぐさい戦いの理不尽さを、親友同士の仲たがいに重ねて描いたのです。
激情が突っ走った後、お互いをつなぐ気持ちが残る。前作と本作の二つの作品に共通する展開に、不可解な人間という存在を認め、愛するマクドナー監督の思いが表れているとは思えます。
島は閉塞した社会。男たちは毎日同じパブに集い、ビールを飲み、バカ話に興じます。 パードリックがコルムから絶交宣言を突きつけられたウワサが、たちまち閉塞した村社会の島全体に広まっていきます。そんな十年一日の世界の「退屈さ」に、コルムは気づいてしまったのです。妹のシボーンも自立のため、島を離れることに。
主人公たちの対立が深刻化し、人間模様が激しくうねっていく展開には、ぐいぐい引き込まれてしまいました。お気楽なパードリック、芸術家肌のコルムというキャラクターの対比、彼らが飼っているペットのロバや犬の描き方も絶妙です。当初は男同士の単純な仲たがいに思えたストーリーが暗喩や寓話性をはらんでいき、見る者に哲学的な問いも投げかけところは、お見事といえるでしょう。
但し才ゆえに、頭でっかちな印象もあります。それを和らげるのが、ロケ地となったアイルランド・アラン諸島の美しい風景であり、俳優たちの演技です。
石を積みあげた塀が荒れ地を仕切り、その合間を家が点在。遠くまで望める草地、切り立った岸壁。荒々しい風景とそこに差し込む陽光が、物語に神話的な味わいを加えてくれました。
また、死の予言を告げる魔女のごとき老人も登場し、今作は不吉なおとぎ話のような気配もたたえてもいます。
特筆すべきは、監督の名作「ヒットマンズ・レクイエム」でも共演したアイルランド出身の俳優コンビが、うれしい再タッグ。
戸惑いとざわめく心情を伝えるファレルの八の字眉、一人歩く姿にペーソスがあります。一方、たやすくは内面に踏み込ませないグリーソンのいかめしい顔つき。その横顔に、時に少しの迷いをのぞかせるところが、またいい!ふたりの個性が存分に生かされていると思います。
はじめこそまるで痴話げんかのように思わせて、理不尽にこんがらがっていく男同士のいさかいは、本島で繰り広げられている内戦そのもの。島の風景を物寂しくも魅惑的な絵画のように切り取り、舞台となる街をもうひとりの主人公に据える監督の個性も光って見えました。
愛するロバが死んだ恨みとはいえ、結末までの展開は、やっぱりやり過ぎだ!…と思いつつも、美しい自然をバックに衝撃的結末に向けて、人間の切なさや滑稽さをブラックに描く手法はマクドナー監督の妙技ではあると思います。
憎しみの始まり
他愛も無いこと(当時者にとっては重大なこと)から諍いが起こり憎しみが生まれ争いが始まる。一旦争いが始まったら終わることはない。
戦争がいかにばかばかしいことから始まり無益なことであるかを教えてくれる。
憎しみの連鎖を断ち切るために耐え難きを耐えて矛を収め争いを終わらせた、和の国の民に生まれたことに感謝するばかりである。
妹が役の設定にしては美人すぎるが、役に合った地味なキャスティングなら誰も観に来ないか。
警官と神父で笑わせているが、あの二人が変人なだけで権力(警察)と権威(教会)の批判には至っていない。
美しい映像と音楽、退屈することはない。
理解できないことはないが共感はしづらい。
我を通すことに何の得もない。
いろいろと考えさせてくれる作品ではある。
理不尽
なぜ親友だったのに、突然絶縁宣言したのか?
並行して、本島での内戦の様子がちょこちょこっと出てくる。砲撃?の音とか、IRA?の戦闘員の処刑の様子を見守りに行く仕事の話が出てきたりとか。
思うに、仲良し同士が、突然敵味方に分かれ内戦になった事を、この親友からの突然の絶縁宣言とその後の話で、暗に表現してるのかなと感じました。
とはいえ、親友が突然絶縁宣言した理由がよくわからないし、最後、コリン・ファレル演じる主人公が、可愛がってたポニーが親友のした事が遠因で死んでしまった事から、親友の家に火をつけるとか、うーん、何か理解できないというか、共感できないというか‥
ただ、美しい島の風景には癒やされました。
23-014
アイルランドの離島で、男同士のイザコザ。
入り口はよくわからないし、結局解決もしてないようだし、色々と腑に落ちない。🤔
本土の内戦に準えて、些細なきっかけで取り返しがつかなくなったり、後戻りできないぐらい狂気じみていく姿を見せたかったのか❓
妹、ジェニーとの別れはなんとも言えない。
モヤモヤだけが残る
それぞれの幸せの道をダークに描き出した傑作
数年に1度あるかないかの傑作と感じました。見終わった後の余韻が半端ないです。
パードリックが、友人であるコルムから絶縁を突き付けられるところから始まる物語です。
パードリックにとって、退屈な話であっても、友人のコルムと話をする事に幸せを求めていたのでしょう。
一方、コルムの幸せは、音楽の趣味があり、バイオリンを演奏する事に全ての時間を割きたかったのでしょう。
やがて、求める幸せの違いは、険悪なムードへと向かうことになります。
切り落とした指に毒を仕掛けてあったのか、パードリックのロバが殺されてしまいます。
ラストに救いがあったのか、難しいところですが、壮絶な雰囲気で幕を閉じます。
本作は、それぞれの幸せの道をダークに描き出した稀に見る傑作であると感じました。
追記 考察として、実はパードリックもコルムもお互いを憎しみ合っているのではないと感じました。
パードリックが警察官に殴られる場面がありますが、その後、コルムはパードリックを救います。ここがポイントです。
パードリックのロバが殺された後、仕返しにコルムの自宅に火を放ちますが、コルムの犬を外に出して、救います。コルムを直接殺害する行為には出ません。
自宅が火事の中で佇むコルムは、パードリックの仕返しを受け入れます。
以上のことから、2人は憎しみ合っているのではなく、それぞれの気持ちを受け入れてほしいという感情の表れを読み取ることができます。
良い意味で“どうでもいいお話”
親友が突然
「お前の事が嫌いになった。顔も見たくない」
がびーん∑(゚Д゚)エッ⁉︎
何で?理由は?昨日まで仲良かったのに?
何か悪い事した⁉︎どうして⁉︎っていう話。
どんどん狂気の世界へ向かうのだが
「ここにあるのは退屈だけ」
という島の生活は
その狂気さえも島に溶け込んでしまう。
東京の慌ただしさの中で生活してる私としては
イニシェリン島には住みたくないなぁって
思ってしまいました。
ある意味、どうでもいい話を
マーティン・マクドナー監督が
良いリズムで深い映画にしてくれました。
誰が思い出してくれる?
パードリックには一緒に暮らす賢い妹がいて、
亡くなってしまったけど優しい父と母がいた。
(だからこそ彼が【善い人】に育った)
劇中のコルムには犬しかいない。
『音楽は200年後も残る』
『誰が“優しい”だけの人を思い出してくれる?』
本土では内戦が続き、自分も歳をとっていって、
いつまで生きられるのか分からない。
自分の死を悼んでくれる人はいるのか。
自分の存在を思い出してくれる人はいるのか。
閉鎖された島で、コルムは
『自分が生きていたこと』を遺したかったのかなぁと。
お前は優しかった。(でも今は違う。)と
パードリックがコルムに言うのもまた…ゥグゥ
話しかけるな!関わるな!と言っておきながら、
殴られた元友人に手を貸して、
分かれ道まで一緒に乗って、
降りる前に励ますように手を握ってたシーンは
自分勝手で不器用だけど、パードリックとの友情が
コルムの中にまだ残ってるようにみえて、
そりゃ島の誰もが『親友』だと思ってたくらい
一緒にいて、話をして、酒を飲んでたんだよなぁと
この映画の前の時間軸を想像して
胸がぎゅっとなりました。
ひとことReview!
これはヒューマン・ドラマなのかミステリーなのか、それとも、コメディなのかホラーなのか、どう捉えたらいいのか分からない作品。偏差値55以上の大卒でないと面白さが分からないのでは。
全306件中、181~200件目を表示