劇場公開日 2022年11月18日

「イニャリトゥ 凡人には理解出来ぬ天才の世界」バルド、偽りの記録と一握りの真実 近大さんの映画レビュー(感想・評価)

2.0イニャリトゥ 凡人には理解出来ぬ天才の世界

2022年12月25日
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鑑賞方法:VOD

知的

難しい

寝られる

大躍進のメキシコ人監督三人衆、“スリーアミーゴス”。
アルフォンソ・キュアロン、ギレルモ・デル・トロ、そしてアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ。
全員がオスカーを受賞。中でも、2年連続で監督賞を受賞したイニャリトゥは、手掛ける作品も才も他の2人とはベクトルが違う気がする。

デル・トロはダーク・ファンタジー、キュアロンは多彩なジャンルを手掛け、独自色を持ちつつ、エンタメにも徹している。
イニャリトゥは一貫して社会派やシリアスな作品。入り組んだ人間模様、物語構成。絶望と希望。時に難解でもある。
その演出の深みは、もはや巨匠の域と言っていい。
それ故、どうしても作品によって好き嫌い分かれてもしまう。
『アモーレス・ペロス』『バベル』『レヴェナント:蘇えりし者』は良かったが、『21グラム』『Beautiful/ビューティフル』『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』はハマらなかった。(←改めてみたら、自分でも驚くくらい半分ずつに分かれている!)
では、本作は…?

ズバリ結論から言うと、ダメだった。
いや、ダメダメと言った方がいいだろう。イニャリトゥの作品の中でも最もハマらなかった。
理由は明白。私が苦手とする作風であったから。

一部では本作はイニャリトゥの自伝的作品と言われているが、そうではない。そもそも本人曰く、自伝には興味が無いとか。
架空の主人公に自分やこれまでや今を投影した作品と言えよう。
アメリカで活躍するジャーナリスト兼ドキュメンタリー作家。権威ある国際的な賞を受賞する事になり、母国メキシコに帰ってくる。母国への旅路の中で、男が向き合ったもの、辿り着いたものとは…?

主人公にはイニャリトゥ本人の反映色濃い。
活動拠点はメキシコからハリウッドへ。ハリウッドでアカデミー賞を2度も受賞し、その名声は揺るぎないものに。そんな今、母国に再び戻って作品を撮り…。
半分パーソナルな作品であり、半分誰にでも投影出来る作品として作ったという。
半分自伝的作品ならば…、嫌いな作風ではない。昨今、名匠たちの自伝的作品ブーム。同郷のキュアロンの『ROMA/ローマ』やケネス・ブラナーの『ベルファスト』も良かったし、スピルバーグの『フェイブルマンズ』もメチャ期待している。
が、本作は半自伝的作品でありそうには非ず、中枢はある一人の男の心の彷徨。その中に苦悩や価値観、倫理観、哲学などが浮かび上がり、例えるなら、フェリーニの『8 1/2』を彷彿。
恥ずかしながら私、そういう作品が苦手。
つまり、天才の苦悩。凡人の私に、天才の苦悩など分かりも共感も出来ないのだから。

開幕は出産シーン。産まれてきたのだが、こんな世界より胎内に戻りたがっていると、胎児を再び母体の中へ…という奇妙な幻想シークエンス。「生まれてきてすみません」なんて言葉があるが、天才はいつもこんな事考えているのか…?
TVのトーク番組に出て、辛辣司会者から槍玉に。母国にそっぽ向き、アメリカに尾を振る。世論の声や自問自答…?
亡き父親との再会、家族との向き合い…などは分からなくもない。
パーティーでの狂騒もともかく、随所随所の幻想的なシーン。街行く人々が次々倒れ、遥か上空に彗星が落ちたり、水浸しの室内、これはリアルか、監督が反映した世界の姿か、映画の撮影か…?
意味不明と難解が入り交じり、私の頭の中はショート状態。

イニャリトゥは現実と虚構を交錯させ、個人の心の彷徨、苦悩、家族との関係、自身のアイデンティティーを織り交ぜた渾身作なのだろうが、凡人の私にゃ全く響かず。
それどころか結局ただの自己陶酔にしか思えなくて、映像美は圧巻だったが、話も監督の込めたものもちんぷんかんぷん。
しんどい2時間半だった…。

近大