宮松と山下 : 特集
【国内外で話題の映画】香川照之主演最新作
面白いのか、否か? 映画.comが観てきたら…刺激的な
“斬新”が詰まった、“超・おすすめ映画”だった!
11月18日から公開される映画「宮松と山下」。エキストラ俳優の男を主人公に据えたユニークな一作で、主演は香川照之が担っています。
……彼に関する一連の報道は私たちもよく存じ上げています。しかし、なぜこうした特集を書いているかというと、今作は海外映画祭で絶賛を受ける“注目作”だからです。
果たしてその評判は本物か? そもそも面白いのか否か? 映画.com編集部が試写会での観客の感想などを調査し、さらに実際に鑑賞したうえで、「なぜ絶賛されるのか?」を確かめてきました。
結論から言うと、「宮松と山下」は“映画的驚き”が脳をスパークさせるような、斬新かつ刺激的な良作でした。
【作品解説】新たな地平を切り拓く斬新映画…
秀逸なアイデア満載!海外映画祭も驚愕した魅力とは?
本題の前に、まずは斬新な作品概要と、海外映画祭での評価をおさらいしていきましょう。
●斬新①:“エキストラ俳優”の日常を、ユニークな視点で描出
端役専門のエキストラ俳優・宮松(香川照之)。来る日も来る日も、名もなき登場人物を生真面目に演じ、斬られ、射られ、撃たれ、画面の端に消えていく。
映画の世界で殺され続ける宮松の生活は、派手さはないけれども慎ましく静かな日々。そんな宮松だが、実は彼には過去の記憶がなかった。
なにが好きだったのか、どこで何をしていたのか、自分が何者だったのか。なにも思い出せない中、彼は毎日数ページだけ渡される「主人公ではない人生」を演じ続ける。
ある日、宮松のもとへ、彼の過去を知る男が訪ねてくる……。
これまで香川は、物語の中心で強烈な存在感を発揮する“個性的キャラ”を多く演じてきました。転じて今作では、画面の背景となることに徹する、寡黙な“エキストラ俳優”に扮する点がひときわユニーク。
87分の本編において、香川の秒ごとにその色づきを変化させる、息を呑むほどの演技力が大きな見どころとなります。
●斬新②:“3人の監督”による長編映画…新たな手法を模索した野心作
今作は「5月」の長編デビュー作です。「5月」とは、以下の3人から成る監督集団のこと。
教育番組「ピタゴラスイッチ」などで知られるメディアクリエイター・佐藤雅彦。NHKでドラマ演出を行ってきた関友太郎。多岐にわたりメディアデザインを手掛ける平瀬謙太朗。
複数人による共同監督というと、オムニバス映画でよく見られる座組ですが、非常に珍しいことに今作は1本の長編映画。映画人というよりは、クリエイターとして名を馳せる3人が目指したのは、“新しい手法が生む新しい映像体験”でした。
映画的な発想とはひと味異なるアプローチを採用し、“新たな撮り方”“新たなストーリーテリング”を志向。これによりフレッシュな野心作を構築し、観客をあっと言わせる予測不可能の映像体験へいざなっていきます。
●海外で高評価:「最も驚かされた作品」「香川照之がカリスマ的主人公に」
今作は高名なサンセバスチャン国際映画祭に正式招待され、数々の称賛を受けました。ここでは、メディアや映画祭ディレクターの声をもとに、海外の作品評価を詳らかにしていきます。
「独創的で楽しく、興味深い発見が散りばめられている。香川照之が、ある種カリスマ的な主人公を演じて見事。この映画祭で最も驚かされた作品の一つ」――No es cine todo lo que reluce
「視覚的な驚きを与えながら、感情や哲学的な考察を引き起こすようなアイデアにあふれている」――El Contraplano
「今年のサンセバスチャン国際映画祭において、もっとも驚かされた作品だった。主演の香川照之は非常に素晴らしい俳優だと思った。なかなかお目にかかれない独特な作品だ」――ホセ=ルイス・レボルディノス(サンセバスチャン国際映画祭ディレクター)
それぞれに共通するのは、“驚き”というキーワード。古今東西の作品を鑑賞し、目の肥えまくった映画人たちを唸らせたという事実……期待が沸騰してきます。
【日本の観客はどう観た?】試写会を実施、感想は?
「映画の喜びに満ちた大傑作」「息を忘れるほど没入」
作品自体の斬新さや、海外での高評価はよくわかりました。では、日本の観客は今作になにを感じるでしょうか?
調査のため、公開に先駆けて実施された試写会で“観客アンケート”を収集。より詳しく「面白いのか否か?」に迫っていきます。
●84%の観客が“満足”と回答! 香川照之の演技、物語展開に評価集中
作品への感触を浮き彫りにする“満足度”は、84%の観客が「満足した」と回答。80%以上が高評価にあたるので、上々の結果となりました。
さらに具体的な“良かったポイント”としては、全体の62%の観客が「香川照之の演技」を選択。次いで34%が「ストーリーの構成」と回答しており、演技と物語のクオリティに高評価が集中した格好です。
●率直な感想は? 「最後まで展開が読めない」「途中で『!!!』」など“予想外”の声多数
自由回答欄では、非常に熱気に満ちた感想が多く集まりました。大きくわけて「サスペンスフルな物語展開」「エキストラと映画撮影、“舞台裏”の面白さ」「芝居のすごみ」が好評で、男性だけでなく女性の観客も前のめりで楽しんだ様子がうかがえます。
<サスペンスフルな物語展開>
「地なのか撮影なのか分からない感じにまんまと翻弄される時間が、とても心地よかった」(53歳・女性/デザイナー)
「最後まで展開がよめず、ドキドキしながら拝見しました」(女性/会社員)
「なかなか主人公の心が見えぬ話法に釘付けになりました。そこでひきつけられたからこそ、中盤以降、アイデンティティにまつわるサスペンスに心を揺さぶられました」(51歳・男性/会社員)
<エキストラと映画撮影、“舞台裏”の面白さ>
「映画撮影の裏側を知ることができて面白かった」(50歳・男性/会社員)
「これからは映画を観るとき、エキストラに注目したい」(53歳・女性/主婦)
<芝居のすごみ>
「想像していた以上に静の芝居だらけで、息を忘れるほど魅入ってしまいました」(25歳・女性)
「香川照之の静かな演技が、なんだか不気味で、怖くて、よかった」(56歳・女性/主婦)
「なんだかんだ言っても香川照之の演技はうまい」(52歳・男性/会社員)
<べた褒め>
「映画の喜びに満ちた大傑作」(会社員)
「期待を裏切らない映画だった。表情と演技で魅せつつ、過剰なセリフ回しを抑えたところがよい」(45歳・女性/会社員)
「エキストラの話、とのんびり構えていたら、途中で『!!!』となり一気に引き込まれた。公開されたら初日にまた観たい」(45歳・女性/会社員)
……あくまでも“試写会での感想”ですが、今作が絶賛される理由が“演技と物語の斬新さ&品質”にあることがよくわかる結果に。海外のみならず、日本の観客もしっかりと没入できる作品だと言えそうです。
【映画.comレビュー】「インセプション」級、虚実皮膜
の危ういバランス…未体験ゾーンへ誘われる美しき良作
それでは最後に、映画.comの男性編集部員(30代前半)が今作をどう観たのかをお伝えしていきます。
実際に鑑賞して強く刺激されたのは、“エキストラのいる風景”“名もなき仕事”“現実と虚構”という3つの要素でした。
●“エキストラのいる風景”…ここまで愛おしく、美しく描くとは!
「宮松と山下」は、宮松の日常を通じて、エキストラ俳優が撮影現場でどのように働くのかを面白おかしく、映画的に描き出す。
斬られ役はそんなに大勢を用意できないので、同じ人が衣装を変えて何度も登場しては斬られたりする。だから、時代劇では「1日で4回死ぬ」ことも珍しくない。
現代劇では、宮松はビアガーデンのテーブルにいた。ジョッキを掲げて乾杯する“同僚”は、先ほど会ったばかりのエキストラのおっさんだ。声をだすとマイクに拾われてしまうため、口パクで「大声で笑っている芝居」をして、カットがかかるとスッと笑顔を引っ込めてうつむく。
このような“エキストラの撮影メカニズム自体”がエンタテインメントだと発見した「5月」は、まさに慧眼というほかない。ふだんは画面の端っこでピンボケしている人たち。彼ら“黒衣”(くろご)のひたむきさを美しいものとして見つめるその視線は、鮮やかな映画愛を僕に感じさせてくれた。
●“名もなき仕事”…ミクロな面白みも◎ これぞ「ピタゴラスイッチ」的カタルシス!
エキストラだけでなく、世のあらゆる仕事は美しい、と今作は語りかけてくる。その例のひとつが“タクシー運転手”だ。
運転手たちが「フルメタル・ジャケット」に出てくる宿舎みたいなところで寝起きする。出勤時には飲酒検査があり、小ちゃいストローで呼気を機械に吹きかける。出庫前にはタクシーを念入りに洗車する。ともすれば見逃してしかるべき、名もなき家事ならぬ“名もなき仕事”にスポットを照りつけ、これもまた美として描出する視線が非常に興味深い。
このミクロな面白みを見つけるセンスは、さすが「ピタゴラスイッチ」の佐藤雅彦、百戦錬磨の広告・メディアクリエイターならではだ。隠し味は「なるほど」と唸るような知的興奮。普通の映画には含まれないタイプのカタルシスを、骨の髄まで堪能できた。
●“現実と虚構”…「インセプション」級の虚実皮膜、特異な物語構造に唸る
ここは未鑑賞者の新鮮な驚きを損なうため、あまり詳述できないが、現実と虚構が混ざるストーリーテリングの見事さにも触れておきたい。
どういうことかと言うと、「主人公はエキストラ」がキーポイント。宮松が参加している撮影と、彼の日常の生活がシームレスに描かれ、映画的カオスが顔をのぞかせるのだ。
虚実皮膜をついた作品構造は、夢と現実の境界に挑んだクリストファー・ノーラン監督作「インセプション」を彷彿させる。「宮松と山下」は映画好きの細胞を刺激しまくるダイナミズムにあふれており、“観たことのない”新感覚をガッツリと食わせてくれた。
●結論:何度も観たい、繰り返し噛み締めたい秀逸作
ほかにも、物語には「疲れた大人の再スタート」というテーマも含まれており、これから「疲れたおっさん」になってゆく僕の人生にゆさぶりをかけてきたりもした。
人生について考えるさなか、香川照之がちょっとどうかしているくらいの演技を魅せてくれる。一連の報道について語る言葉を僕は持ち合わせていないが、種々様々な問題をひとまず抜きにした場合、海外映画祭での彼への評価は頷ける。
そして特に、物語後半のちょっぴりビターな展開は非常に好みだった。胸のどこかが疼くように切なくて、それでいてなんとなく爽やかさを湛えたラストシーン。この余韻は、何度も、繰り返し噛み締めたいとさえ思った。
……記事冒頭の問い(評判は本物か? そもそも面白いのか否か?)に対しては、「評判は本物」であり、「個人的にとても面白かった」と答えよう。「宮松と山下」を映画.comが観てきたら、刺激的な“斬新”が詰まった“超・おすすめ映画”だった。