宮松と山下のレビュー・感想・評価
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【”お兄ちゃん、こっちへ帰って来るよね、と腹違いの妹は記憶喪失の兄に言った。”今作は、或る出来事により記憶喪失になった男の物語であり、邦画名脇役の津田寛治さんの演技に魅入られる作品である。】
■宮松(香川照之)は端役専門のエキストラ俳優として、毎日、その役を演じている。斬られ、射られ、撃たれ、画面の端に消えていく日々。
真面目に一日に何度も殺され続ける彼の生活は、単調ではあるが一定のリズムを刻んでいる。
だが、劇中で明らかになるのだが、実は彼には過去の記憶がなかったのである。
◆感想<Caution!内容に触れています。>
・普段は雄弁に喋るイメージがある香川照之氏が今作では、あくまでも控えめで抑制した演技で”過去を失くした男”宮前を演じている。
・彼が過去を失くした事情は、序盤では直接的には描かれないが、彼をTVで観た、元タクシー運転手の同僚の谷(尾美としのり)が登場する事で、彼の過去が徐々に明らかになって行く。
■宮前は、12年前まではタクシー運転手として両親を失った腹違いの妹、藍(中越典子)と共に過ごしていたのである。
だが、藍を想う同僚の健一郎(津田寛治)から、彼と藍の関係性を詰られ、宮前はタクシー会社のロッカーで昏倒し、記憶を失ったのである。
その後、彼は”記憶のないままに”京都駅で駅員に保護され、太秦撮影所で主に時代劇の端役をしながら、且つ生駒山のロープウエイの仕事もしながら、糊口を凌いでいたのである。
■これは、観れば予測が付くのであるが、宮前は自覚無き記憶喪失になったのではないかと思う。それは彼が記憶喪失になった時に診察した医者(黒田大輔)が言うように大した外傷にも関わらず、記憶喪失になったのは【精神的な理由】ではないかと言う事が分かるからである。
・詰まりは、彼 ー山下ー は健一郎に激しく糾弾された様に(映画では一切描かれない。そして、それは正解である。)両親を失った腹違いの妹、藍に対して親と思い育てていた筈が、意図せぬ恋心を抱いていたという事である。
故に、山下は健一郎に糾弾された際にその真実を突かれ、彼自身の精神バランスにより【自ら、意図せぬ記憶喪失】になったのであろう。
その事を、藍から”昔は、ホープを良く吸っていたよね。”と言われ、路上でそのホープを吸っている際に記憶を取り戻していくー 宮前 ーを演じた香川照之氏の微妙なる表情の変化は絶品である。
<今作は、香川照之氏の殆ど無表情と言っても良い抑制した演技と、邦画の名脇役である津田寛治さんの演技に魅入られる作品なのである。
そして、 実に巧い作品設定であり優れたる役者の演技を堪能する小品でもある。>
俳優の「ニン」とかけ離れている印象がとても残念
二度目の鑑賞で理解できました
WOWOWでの放送の録画を一度目に観た時は集中して観ることが出来ず星1かなーと思っていたのですが、他の方の感想を観て翌日もう一度観たら理解出来ました。主公が餃子包んでる時の「自分を捨てて作業出来るのが良いですね。」のセリフが好きです。途中途中で現実なのか、お芝居なのか分からなくなる場面がありました。
本編。
記憶を無くした男の記憶をなくしてからの生き様とその理由。
ストーリーと言うよりも、今ここのシーンはエキストラとしての仕事なのか本編のお話なのかをうまーく覆して来るあたりに面白さを感じました。
とても面白かったです。
かなりマニアックな映画・・・
面白さを見つけた喜び
映画が始まってしばらく経っても意味が解らない。これはいったい何を描いているのだろう?
「エキストラだけでは食べていけないからロープウェイの仕事もしている」主人公の「宮松」の目的とは何か?
様々なシーンが入り乱れるので、時代劇以外のシーンでは「現実」との区別が面倒くさい。
しかし、宮松を訪ねてきたかつてのタクシードライバー時代の同僚「谷」によって、宮松は山下であり、タクシー会社を失踪後の記憶がないことがわかる。
これは本人に記憶がないので、認識もないことになる。だから記憶がないことは本人にとっては、現時点で何か問題になることはないということだ。つまり彼にとっては目的など存在しない。物語は逆に、「失った記憶」に焦点が当てられることになる。
このあたりのリアルな描き方はなかなか素晴らしい。
谷は、12歳下の妹「愛」がいることを伝え、妹に連絡する。そして新横浜にやってきた「山下」を、実家傍まで送迎した。
妹を見ても、実家に戻っても記憶はよみがえってこない。
妹はそんな兄に、昔よく吸っていた煙草のことを話す。
兄は外に出かけタバコを買い、その場で吸う。
やがてじっくりと昔の出来事がよみがえってきた。
記憶を失った理由。
喧嘩の動機。
誰と喧嘩したのか。
彼が言った言葉。
実家に戻ってからもタバコを吸い続けながら、山下は過去をたどりながら自分自身どうあるべきか思案する。
その様子を帰宅した妹が見つめ、そしてベランダの隣に座る。
兄は相変わらず他人行儀な口調で話すが、妹には記憶がよみがえったことが、彼の眼つきから察知する。
兄は元の職場へと帰ってしまった。
「エキストラ」
記憶をなくした「宮松」が選択した職業がエキストラだったのは、彼が無意識ながらも「誰かの人生の良きエキストラになろうとしたからではないのか?」と、記憶が戻った「山下」は考えたのだろう。誰とは愛のこと。
そうであれば、それこそが「私」のいる場所だ。
この作品は、
両親の事故死によって、血のつながっていない12歳離れた妹の父親代わりと称しながらも妹を好きになってしまう兄。
そのことで近づく男をすべて蹴散らしてきた兄に、会社の同僚が「いつまで経っても愛ちゃんは幸せになれない」と突っかかってきたことで頭を打って記憶がなくなり、そのままどこかへ行ってしまった。
そして記憶をなくした男が無意識で始めたエキストラこそが、本当は愛に対してしなければならなかったことだったと気づく物語だ。
本心ではそれに気づかぬふりをしていた。いみじくも同僚にそれを言い当てられ、同時に頭を打ったことで記憶をなくした。
「本当はそうであってはならなかった」主人公は当時大きな悩みと葛藤していたのだろう。
記憶をなくしたからこそ、「それ」が行動に出たのだ。「エキストラ」
山下にとって、再開することになったエキストラの仕事は、きっと以前よりも素晴らしいパフォーマンスになるだろう。
タイトルには、記憶のあるなしが隠されている。同じエキストラ 山下にはきっと「夢」が芽生えたのではないだろうか?
しっかりと考えさせてくれるいい作品だった。
もう一捻りほしかった
じっくり見て下さい。
見ごたえ十分
台詞の1つ1つに意味を感じた
静かな映画でしたが、途中途中の『あ、撮影か』が心地よく、またミステリー要素もあるので一気に見終わりました。
尾美としのりさんが出てくると、つい疑った目で見てしまう(笑)
味覚嗅覚って凄い刺激なんですね。吸いなが記憶が蘇ってくる様は、記憶障害でなくとも普段誰でも体感している事だから、観ていてその感覚が伝わった。
ラストの庭先での山下が宮松のふりしている様がせつなくて泣けた。
裏『PERFECT DAYS』
監督集団「5月」という関友太郎、平瀬謙太朗、佐藤雅彦の3人の長編デビュー作だそうです。監督・脚本・編集を3人で共同でしているという珍しいタイプの映画作りですね。
面白いという噂は耳にしていたので、配信で放送されていたので早速鑑賞しました。
確かに面白かったです。私も大好きなタイプの作品でした。でも、かなりの映画好きが面白がる作品の様にも思えました。そして、面白い“だけ”の作品なのかも知れないとも思いました。
いや、否定している訳ではありません。映画は面白ければ“面白いだけ”でも十分なのです。テーマ性やらメッセージを大上段に振りかざされるよりも、なんとなく含みがある程度の方が鑑賞後感も良くあれやこれやと考える楽しみがありますしね。
私が思うに本作は基本的にはサスペンス・ミステリーのジャンル映画であるのですが、一見そんな風に感じない(もっとアート系人間ドラマ的な)雰囲気で始まり、独特のスタイルというか語り口であり、非常にトリッキーな作品作りで観客を映画内に引き込みます。それが非常に新しく巧みであり観客が惑わされる部分でもあります。
なにを言ってもネタバレになってしまうのですが簡単な粗筋を書いておくと、主人公は現在映画などの端役エキストラをしていて、他に生活の為にアルバイトもしている50代位の記憶をなくした男で、あるキッカケで過去が少しずつ明らかになって来るというのが大枠のストーリーです。なので、仕事と現実を非常に曖昧に描き観客を敢えて混乱させます。
作品の方向性としては、現在の主人公の姿を描きながら、記憶の喪失した過去に一体何があったのか?という事になるのですが、本作を見ながら私はつい最近見た『PERFECT DAYS』を思い出していました。全く目指す地平も方向性も違う作品なのに、妙に近似性を感じてしまいました。
特に『PERFECT~』と本作の主人公性格というよりも性分として、病的に几帳面で規則正しく自分の世界観を崩したくない性質が見受けられて、そこにこそ幸福や安らぎを感じるタイプの人間であり、それを崩されることを何よりも嫌うタイプであり、それは一見(建前的には)社会的にも見えるが、現実の人間社会に対しては全く適応していない種類の人間でもあり、そういう人間を表現するのに『PERFECT~』でのラストの役所広司の表情と、本作での香川照之の表情の差を見比べてみると、人間の複雑さや深遠さが垣間見れる様な気がしました。
なので、好き嫌いはあれど『PERFECT DAYS』の綺麗ごと(理想論)にも一理あるし、本作の辛辣さ(現実論)にも一理あるし、どちらにも共感できる。だからこそ映画は面白いのでしょうね。
87分間釘付け
Netflix新作。
この映画ほど、「言わぬが華」
「秘するが華」という言葉が
似合う作品はない。
だからストーリーは一切書かない。
緊張感がずっと続く脚本、映像、
主役を演じる香川照之の無言の饒舌。
以前僕の脚本で主人公を演じてもらった
津田寛治のクールな怖さ。
クリエイター3人からなる監督集団「5月」の
デビュー作だそうだが、オムニバスではなく
3人でひとつの映画を作るなど、今まで
あまり聞いたことがない。
海外の映画祭で評判なので、その評だけご紹介。
「独創的で楽しく、興味深い発見が散りばめら
れている。香川照之が、ある種カリスマ的な
主人公を演じて見事。
この映画祭で最も驚かされた作品の一つ」
――No es cine todo lo que reluce
「視覚的な驚きを与えながら、感情や哲学的な考察を
引き起こすようなアイデアにあふれている」
――El Contraplano
「今年のサンセバスチャン国際映画祭において、
もっとも驚かされた作品だった。
主演の香川照之は非常に素晴らしい俳優だと思った。
なかなかお目にかかれない独特な作品だ」
――ホセ=ルイス・レボルディノス
(サンセバスチャン国際映画祭ディレクター)
いち俳優の演技だけでここまで魅せるか。
明から陰に
演出と伏線回収が秀逸
上映時間は短いはずが長く感じられた
どこから宮松どこまで山下?
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