劇場公開日 2023年3月31日

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「対話によって世界を動かしていく、というテーブルトークRPGの性質を見事に体現した一作」ダンジョンズ&ドラゴンズ アウトローたちの誇り yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5対話によって世界を動かしていく、というテーブルトークRPGの性質を見事に体現した一作

2023年4月1日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

本作は、コンピューターが一般家庭に普及する以前から存在していた、「テーブルトークRPG(TRPG)」と呼ばれるゲームの代表作を原作とした、というかその世界観を土台とした作品です。

TRPGではダンジョン・マスターという司会役がシナリオを作成し、プレイヤーはそれぞれの役になりきってゲームマスターが提示する世界や謎に挑んでいきます。そのため必然的にゲームを成立させる上で「対話」が最も重要な要素となる訳ですが、本作もまた、意外なほどにキャラクター同士が関係性を構築していく過程での言葉のやり取りが重要な役割を果たしています。

どういうことかというと、冒頭の、盗賊エドガン(クリス・パイン)が一人語りをする場面では、ファンタジーの世界とキャラクターたちの軽妙な言動が全く噛み合っておらず、かなり退屈な場面となっています。それも「こんな寒い演出をこれから2時間以上観るんですか…」とげんなりするほどに。ところが主要なキャストが出揃ったところで、急に物語が回転し始め、さっきまで上滑りしている、と思っていた軽妙なやりとりが生命力を帯び始め流のです。つまり本作は、一人語りをするような物語じゃない、ということをこの上ない形で実感させてくれるのです。

確かに本作は、メタボ気味のドラゴンとか、登場するモンスターもユニークだし、原作ファンなら涙を流して喜ぶであろう(想像ですが)、武具など小道具も豊富、さらにCGを駆使した魔法や格闘場面も迫力あります。それらを盛り込んで面白い内容に仕上げている作品ならいくらでも思いつきますが、登場人物同士のやりとりがこれほどまでに魅力的な作品は結構珍しいのでは、と思います。このように「対話」が作品の面白さの核にあるという点で、本作はまさに、TRPGの正統な映画化作品と言えるのでは、と感じました。

本作をTRPGのように味わうという点で、吹き替え版が意外にとても良い味を出していることも発見でした。吹き替えを挟むことで、作中で動いている登場人物と、声を発している人物とを切り離して認識できるため、より一層TRPGのプレイを観ているような感覚に浸れるのです。一部棒読みが目立つのですが、これももしかして演出の一部では、と思わせてくれます。

一方、ええっ、って思ったのは、劇場で売り切れなのか元々作ってないのか、パンフレットを売ってなかったこと!なんで…。

もしかしてTRPG版の『D&D』を買いなさい、ということなんでしょうか…(というか、スターター・セットを劇場で販売して欲しいんですが)。

yui