「スミス都へ行くみたいな話かと思ったら、ディズニーでした。」ミセス・ハリス、パリへ行く 屠殺100%さんの映画レビュー(感想・評価)
スミス都へ行くみたいな話かと思ったら、ディズニーでした。
ディオールの製品を今アマゾンでもデパートでも買えるのってハリスさんのおかげなんですねえ。この映画を観たらわかります。ディオールのプレタポルテ化?と言ったら言葉は悪いですが。
ミセス・ハリスがめちゃくちゃ可愛くて、観てて惹き込まれます。
結構つらい目にあってても、強烈な純粋さと明るさで打ち消して、そこが可愛くて、健気で愛おしい。
ディズニーアニメから抜け出してきたかのような可愛らしいキャラクターを見事に演じるレスリー・マンビルさんの演技がすごい。可愛さの説得力がすごい。
しかも、可愛い一点ものディオールのドレスが着たいという乙女な夢を強烈に叶えようとする意思がすごい。唐突な夢なのに、男の私にも、なぜか、かわいいオートクチュールのドレスが着たい乙女の気持ちがよくわかってしまい、頑張って!と応援モードに素直には入れるすばらしい演出。
当時のディオールは、パリのエレガンスとデカダンスを代表する強力な文化だったことがわかります。かわいいモデルもたくさんいて、一点もののドレスの買付お披露目会。貴族文化の名残ともいえるオートクチュールの古風でカッコいい世界がある一方で、実存主義哲学やマルクス主義や左翼学生運動の時代に突入している当時のパリでは、庶民にとっては、貴族文化は忌むべきものに。金持ち政治家や貴族は庶民の怒りをかって行政が機能せず、パリ中がゴミだらけ。
フランスの貴族文化は、それはそれでカッコいいし、当時のディオールの誇り高い感じは、憧れを誘うところがあり、高級品を扱う職人のプライドの世界をのぞかせてくれるんですが、買い手は、ディオールのドレスを虚栄心を見せびらかす道具としてしかみてない貴族だけ。ディオールの社員は、金で物言わす鼻高々な貴族にはうんざり。貴族だけしか買わないから、商売も規模が拡大しない。ミセス・ハリスのような庶民にこそディオールの魅力を知ってもらいたいと内心では、皆が思っている。だからこそのミセス・ハリスの特別扱いぶりが爆発。
ディオールのトップモデルも貴族や金持ちの飼い犬でしかない実存に嘔吐してサルトルにハマるという時代。もうディオールは貴族あいてじゃ成り立たない時代感の描き方が面白い。
そして、ほんとに真にディオールの素晴らしいドレスを着たい、純粋に憧れて愛してくれているのは、庶民だ!とディオール自身が気づくとこまでいってしまう。素晴らしい感動的な話です。ディオール高いけど、今世界中で愛されるようになったのは、真にディオールが大好きだったハリスさんのおかげなんですね。
あっ、というか、ハリスさんは、小説の人物でした。ファンタジーの世界の人じゃなくて、実在の人だったらよかったのに。