ザリガニの鳴くところのレビュー・感想・評価
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美しい自然には残酷さも秘めている
湿地でひとり暮らし続けている少女の話。
美しい自然を描かれた映像を観るだけでも価値がある。
その美しさとは対照的に少女の残酷な半生を描くことが印象的だった。
殺人事件の容疑者とされ、法廷での出来事からこれまでの少女の半生を描いていく様子は、とてもテンポ良く観ることができた。
自然を教科書にして育った彼女だからこその行動には納得だった。
これは怖さではなく、はじめての感情。 「Carolina」の歌詞が、込み上げる気持ちに纏わる布のように絡んできて、震えた。どうしようもなく。
湿気を帯び躍るようなエネルギーを放つ植物たち。
樹木は壮大な時間をかけ空へ向かい、揺れる葉の隙間からやさしい光を届ける。
水面を揺らす風と鳥たちのざわめき、原生種の花々の香りが漂うなかで虫たちは賑わいを増す。
神々が鎮座する領域で安らかに繋がりゆく命。あるいはひっそりとそして時に残酷に朽ちる刹那。
深く重い摂理は、人間社会の後づけの概念やルールなど太刀打ちしようもない。
1950年代〜ノースカロライナ
巨人が両腕を広げたようなその湿地帯で、カイアは幼少期から家族と別れひとりで生きる。
たくましく純粋でのびのびとした娘に成長しやがて町に住む青年と恋をする。
1人目はカイアの兄の同級生で幼ななじみテイト。2人目は町の有力者の息子チェイス。
そんなある日、湿地で発見された遺体。事故か事件か。
町ではあれよあれよと噂が立ち犯人にされる〝湿地の娘〟カイア。
ついに拘束され陪審員裁判にかけられている法廷での様子と過去の流れを混ぜ込み展開していく。
なぜカイアはひとりになったか。
なぜ殺人容疑者としてそこにいるのか。
事件の謎、真実は…
サスペンス、ミステリーにとどまることはなく多様性をもって最後まで誘い続ける。
そう、語り手は犯人探しだけをさせたいのではなかった。
時代背景からも読み取れる、戦地から戻った軍人のストレス、貧富の差、人種的差別、権力がもたらす歪みなどに、人間の偏見、エゴ、集団意識がつくる無神経な排除の構造など、現代に至っても普遍的にある陰に密かにスポットをあてる。また、あたたかい記憶に与えられる力、数少なくも手を差し伸べようとする存在の尊さにも。
絶望と孤独の先に何があろうとたちむかったカイアの一生を通じて訴えかけてくるのだ。
そして何より、目を見張り息をのむような繊細で豊潤な自然界の描写が不可欠だったことを納得させるのは、生き物として知り尽くした自然界がカイアに授けたものを知ったあとだ。
叙情的な味わいーではいいつくせなく胸に刺さるのはなぜだろう。
確かめたくて翌日にもう一度観た。
そして、これこそは、いつもみたいに書きすぎないレビューを!と思ってだいぶ我慢中😅
〝湿地は光の世界…
〝…点在する本当の沼〟
そうだね、カイア。忘れないよ。
カイアのそばで見守ってくれた人々に私は敬意を込めたい。
その世界観に浸かり本能に触れるなにかを感じにぜひ観にいかれることをおすすめしたい。
稀有な映画だ。
(訂正済み)
独りで在ることを選択した少女
幾度か出てきた「淡い悲しみ」と言う言葉がとても印象的でした。幼い者を理不尽に縛りつける悲しみ、人が生きていく上で背負わなければならない悲哀。でも、カイアは悲しくとも、屈しなかった。
◉カイアの選択
カイアの父は自らを護るため、孤立して暮らす。ある意味、とても潔い。だが、家族は父に着いていけず湿地を去る。世間に出れば辛い思いもするだろうが、やはり孤独よりは他者との交わりを選んだ。
しかしカイアは、父さえ去った湿地で生きることを決めた。戦争から生還した父の人生は、ほぼ無色に近いようなものになってしまったと思えるのですが、カイアは孤立の中で、自然に溶け合う暮らしを続けて、自らの世界を構築していった。
◉湿地で輝く
カイアは生存のためジャンピンやメイベルとの間に人同士の触れ合いを経験し、やがて積極的な男と女の関わりにも踏み込んでいく。
デイジー・エドガー=ジョーンズ演じるヒロインの、消え入りそうなぐらい繊細なのに、簡単にはへこたれない、したたかな表情。そして少年のような雰囲気を強く漂わせるのに、思いがけず肉感的な肢体。名前の付けようのない不思議な宝石であり、湿地でのみ輝き続ける存在として描かれている彼女の姿に、観る者は惹かれていった訳です。
チェイス殺しの嫌疑をかけられても、カイアは身の潔白が晴れるかどうかより、とにかく湿地を離れずに済むことだけを切望する。
自分の意思に命をストンと預けられる。本当に強いなぁ!
それでいて恋心に身を委ねる時の、素直な欲望。頑なであるのに、デートにすぐに応じたり、男を家に招いたり、かなり奔放!
◉独りで在ること
人にとって、生涯で多少なりとも触れ合って、更に喜怒哀楽を共有できる相手は、ほんの一握り。それでも自分を大切にして生きていれば、誰かと出会えるし、おまけに残酷な運命にも出逢ってしまう。
やがてカイアの元に戻って来る恋人も、一度は彼女から離れていった。身勝手な恋人にも散々、振り回される。それでもジャンピン夫妻はカイアの生き様に優しく寄り添ってくれたし、弁護士トム・ミルトンもカイアへの偏見に怯むことなく、彼女に振りかかった疑惑を必死で解いてくれた。老いてはいたけれど、実に男前でした。
カイアの生き方が表していたものは、「独りっきりで居ること」ではなくて、「在り方として独りで生きること」だったと、私は思いました。湿地を隔てた所でカイアを思う隣人は一握りではあっても居て、そこに人同士の繋がりはあったのですからね。
カイアは自然科学の知識体系を独力で身につけた。少し超人過ぎやしないかとビックリしましたが、鳥・昆虫・魚・貝や植物の細密画に没頭する。それは「独りで在ること」を確かめて、かつ満たされるための作業も兼ねていたのだと思いました。
◉湿地は消えない
この物語の一方の骨格であった、カイアへの疑惑の謎解き。物見台周辺に足跡が無かったこと、板が1枚外れていたこと、本の打ち合わせ前後のアリバイ、そして赤い毛糸。それらの疑惑がほぐれていった道筋は、ストーリーに描かれた部分に限定すれば、論理と言うより老弁護士の熱量の結果と感じました。
ただ人の足跡は湿地の満潮で消えた……と言うのはちょっとワクワクしました。そして湿地の中の沼に溶け込むように、カイアは息を引き取った。
湿地は人々の存在を静かに呑み込んで、ずっと在り続ける。
質問!観た方に聞きたいです!
最後に遺品からネックレスが出てきたからカイアが犯人だとなっているようですが、どう考えてもテイトですよね?
証拠として扱われた繊維がテイトにもついていることもわざとらしいまでにアピール。
渋るカイアを出版社に行かせて最大のアリバイを確保させたのはテイト。
ネックレスをはぎとる理由を持っているのはむしろカイアよりテイト。
だいたい家宅捜索でネックレスは出てきていないんですよ。繊維のもと同様に『誰かが』持っていたと考えるのが自然では?
なんでこれで彼が犯人だと誰も思わないのか?
見かけるものだと
①ネックレスを彼女が持っていたことに衝撃を受けていたから
自分が持っていて、おそらくなくしたなり処分したはずのネックレスをカイアが持っていたならそりゃ驚くでしょ。
②エンディングテーマが自然そのものであるカイアが犯人だと示唆に富んでいる。
余程のアホでない限り、テイトが自分のために犯した罪だとカイアは気が付きます。それは自分が引き起こさせた犯罪。十分に歌詞に合致すると思いますが。
明記されていない以上、悪魔の証明を求めることになってはしまいますが、テイトが犯人でないことを示すものが何一つとしてないんですよね……
後半は一気に盛り上がる!
事前情報無し、予告編程度の知識で鑑賞。もちろん原作未読。
ミステリーっぽいスタートから、家庭内の不和や暴力が描かれる(この辺りが少しダレる感じw)。
雑貨屋の黒人夫婦だけが味方という過酷な環境(-_-;)
そしてせっかく良い雰囲気だった彼氏は、大学進学のために家族と同様に彼女のもとを去ってしまい、その隙間にチャラ男が入り込んでくるのだが、このチャラ男が絵に描いたようなクソ野郎で、暴力は振るうわ、二股をかけるわ、ストーキングをするわ、最低なヤツで、観客のヘイトを一身に浴びる事にww
そして後半は問題の法廷シーンへ。
あの検事のネチネチした追及がまた何とも嫌らしく、彼女の初老の弁護士とのコントラストが素晴らしい。
そして、懸命な弁護で彼女は無罪を勝ち取り、初恋の彼と結ばれて、永い年月を過ごした末に彼女の故郷でもある“沼地”で生涯を終える。
この辺りの平穏なシーンが続いたあとに、あの衝撃の結末。
だけど彼女を責める事は出来ないなぁ。
幕を閉じる
アメリカでヒットした小説の映画化、日本では全く知らない名前だったので、完全に知識ゼロの状態で鑑賞しました。
悪くはない、王道なミステリーなんですが、想像通りのことも起きないくらい普通のミステリーで驚きもなく、面白いとは言えないまでも、つまらないわけではない微妙な作品でした。
殺人容疑で疑われた沼の娘ことカイアが裁判にかけられる、それまでのお話がメインですが、基本的にはラブストーリーが展開されて、出会いと別れと暴力が付き纏う感じでした。最初の恋人のテイトは進学と留まる事で別れ、次のチェイスは町の人気者ですが、高圧的な態度でしか接して来ず、こいつが死んでも何も思わないなーと思える人間で、カイアを殴ったり家を荒らしたりとコイツなんで人気者なんだ?と思わざるを得ませんでした。しかも婚約者いるという隙のなさ。
ラブストーリー7割ミステリー3割くらいのバランスなので、物語が多くは動かず、ミステリーもあっさりめという満足度はやや低めになってしまいました。裁判終了後はカイアの人生の幕が閉じる瞬間まで描くというなかなか衝撃的な終わり方に持っていったのは少し驚きました。
役者陣はとても良くて、デイジー・エドガー=ジョーンズさんは初めて見ましたが、とても美しく、自然と一体化している煌びやかさがありました。嫌なやつを演じ切ったハリス・ディキソンもお見事です。夫妻も最高に人当たりが良くて好きです。
不思議な映画でした。アメリカの小説ってこんな感じなんだなーと思いました。原作にも触れてみようと思います。
鑑賞日 11/29
鑑賞時間 16:10〜18:25
座席 G-11
価値観
ノースカロライナの湿地を舞台に起こる、ヒューマンミステリー。地元の人から「湿地の女」と呼ばれるカイヤの逮捕から、湿地で孤独に生きてきたカイヤの物語が紡がれていく。
この話の主題は「価値観」だと思う。「価値観」とは「生きる」「善悪」に象徴された我々が培ってきたものだ。法廷という「善悪」を裁く場で「生きる」ことを望んだカイヤの話が展開されることで、観客・読み手に「価値観」を通してミスリードを発生させることが出来ていた。
結末に向かうまでのストーリーとしては一貫性があった。父親の暴力によって引き裂かれた家族。孤独に生きてきた彼女の支えとなったテイト、チェイスの裏切りと暴力。
ラストで明らかになる真実は、カイヤの人生を振り返れば合点がいく。湿地で生き、自然の摂理の中で育った彼女にすれば「生きる」ための防衛反応であり、「善悪」とは我々の尺度で測られたものでしかないのだ。
振り返れば、暴力に屈しないと決めたカイヤは、ボートの音に気付き草むらに隠れ、石を握っていた。そして一度も無実は訴えていない。ただ湿地=homeに帰りたかっただけなのだ。
クライマックスでは、カイヤが「裁くのは彼ら自身よ」と陪審員への感情を弁護士に伝える。弁護士はカイヤの思いを受けて、「我々が持ってきた偏見を捨てて、事実のみで判決を下してほしい。今一人の人間としてカイヤを見るチャンスなのだ」と訴えかける。
このシーンを含めて弁護士を我々に重ねることが出来る。これまでに救うことが出来なかった彼女の言葉を自身の「価値観」で判断して弁護する。そこには、生い立ちを知った同情や目を背けた後ろめたさが渦巻く。そして、判決でやっぱりカイヤは「無実」なのだと安堵する。
今作の小説が高く評価された部分はこの「価値観」を描く上で、自然の摂理、生物の描写が細かく、クライマックスに向けてカイヤの生き方とリンクしていくところだろう。
だが映像では描き切れているとは言えない。最後にペンダントが出てきたところで、「カイヤが殺していたんだ」という驚きで終わってしまう。時間に限りがある中で、人間模様に時間を割かざるを得ず、自然の摂理を描く時間が足りなかったように思う。
今作を通して我々はあらゆる「価値観」で生きていることを思い知らされる。ミステリー要素は薄いかもしれないが、ヒューマンドラマとしては中々の見ごたえがある作品になっている。
主演のデイジー・エドガー=ジョーンズの演技は表情も豊かで素晴らしく、生物や植物のイラスト美も一見の価値はあるだろう。
ザリガニの鳴くところは自分で作るしかない
ある日ノースカロライナの湿地帯で男性の遺体が発見され、その湿地に1人で住む女性カイアが容疑者として捕えられ、彼女の生い立ちと裁判の行方が描かれていくミステリー。
テーマの1つが、自分と立場が異なる他者への理解、なのだろうけどその他者への理解がいかに不可能であるかを描いている話っぽかった。それも、結局この映画の登場人物は誰も他者への理解なんてできてなかったように見えたから。
カイアを好奇な目で見る外部の人はもちろん、カイアの味方の人達もカイアは清廉潔白という"偏見"を持っていたし、被害者のチェイスも男を知らない従順な自分だけの湿地の娘という"偏見"を持っていた。誰もカイアを真に理解していなかったのかなと思った。
それも、裁判で全く発言をしていないように、カイアって誰の方へも歩み寄ってないんよね。カイアの置かれた孤独で辛い立場も分かるけど、異なる立場どうしの迎合は対話から始まると思っていて、カイアからの歩み寄りも少しは必要だと思う。湿地におびき寄せるみたいなナレーションであったように、自分は口をつぐみながら周りの人を動かしてた。
良いイメージも悪いイメージも全ては偏見。そもそも他者への理解自体が偏見ってことか、と最後の最後で悟った(笑)
まぁでもずっと孤独で生きてきて、幸せだと思っていた家族揃っていたあの頃が、自分も暴力を経験することで初めて最初から安心出来る場所ではなかったことがわかったら、そりゃ自分で安心出来る場所を作らなきゃってなるだろうなと思った。
湿地と共に生きた女性
映画館にて鑑賞しました。
ミステリー小説が原作ということですが、なぜ人が死んだのかという点よりも、被告人となった主人公の半生がメインで描かれていきます。
ひどい家庭環境と偏見の中で生きてきた主人公の人生は、見ている側にも辛くなります。見ているとなんとなく主人公に同情していきますね。
結果、主人公は無罪となりましたが、彼女の死後、裁判でも話題に出てきた貝のネックレスが見つかります。よくよく考えると、劇中で主人公は殺人については認否については明言しているシーンはなかったな、と思いました。(自分の記憶の中では。)
湿地で生活し、湿地の一部となった彼女にとっては、出版社の人に話したように、生きるためには善も悪もなかったのでしょう。(だからといって彼女がチェイスを殺したかどうかも分からないですが。)そう考えると、善と悪を作る生き物って人間だけなのかも、とふとよく分からないことを考えたりもしました。
羽化
導入の音楽と湿地の描写で催眠術をかけられたような感覚だ。不思議な空気の中を漂ってた。
嫌いではない。
なんか書く事が多すぎてなかなか文章がまとまらない。大前提にあるのは、1人の女性が人としての生活に馴染んでいく成長譚なんだけど、このキャラ設定が巧妙で…童話の主人公みたいなのである。
もうどんなドラマを背負わせても成り立つような設定で、彼女の半生を追っかけていく事になる。
その過程で起こる事件の犯人探しが、もう一つの柱。
冒頭は彼女の2人目の彼氏が死んでいる所から始まる。その容疑者として糾弾される主人公。
ここにも設定は強烈に活かされてて、偏見や疎外感、他人への恐怖、拒絶そして邂逅なんかが盛り込まれてる。
その弁護人への説明という形で、彼女の生い立ちが紹介されていく。
DVとか初恋とか、孤独とか帰る場所とか、開放感とか隠れ場所とか、人の温もりとか…彼女が人と交わる事で知る、全ての感情が瑞々しい。
現在の時間軸に戻る頃には彼女にゾッコンだ。
犯人探しが終わってみれば、生存戦略とか捕食とか擬態とか、おおよそ人以外の動物が当たり前のようにやっている生命維持活動なわけで、彼女の言葉を借りると「善悪ではなく、知恵」なのだと「他者から身を守る為に身につけた知恵を行使するに過ぎない」と。
そんな倫理観が根底に潜んでた。
だからなのかなんなのか、彼女は人に満たない存在のように見えてた。
だからこそ神秘的だったり、幻想的に思えてたのかもしれない。人の感性とは違う感性で動いている彼女。いずれにせよ、そんなキャラを作り上げた役者にも演出にも拍手喝采を送りたい。
タイトルの指すものが分からない。
そもそもザリガニって鳴くのかと疑問にも思う。
鳴くならその場所がどこかにはあるのだろうし、鳴かないなら現実には存在しない場所である。
ラストになって、母親の幻が現れる。
そん時になんか奇妙なSEがあった様に思えて、それがザリガニの鳴き声だとするなら、その場所は母の腕の中なのかもしれない。
もしくは考えられない程の静謐が存在する場所なのだろう。日常生活からは連想できないし、切り離さないと生まれてこない場所にも思う。
このレビューのタイトルを「羽化」にしたのはそのまま成長という意味合いなのだけれど、彼女には「羽化」の方がしっくりくるように思え…自然界で羽化する事は、弱肉強食の世界を生き抜いてきたという事で、その為に他者を殺害していった成果とも捉えられる。
幼体から成虫に変態する生命の神秘の裏側には、須くそういった行為が行われている。
人間の法を犯してはいるものの、自然界の摂理には反していないなんて言う、とても危険な感想を抱いた。
それもこれも、彼女のキャラ設定によるものなのだろう。
■ 追記
偶然「woke」という単語を見つけた。
最近のディズニー映画への批評の一つだった。
woke…簡単に言うと、社会に根強く残る偏見や先入観に目を向けて是正もしくは排除していこうとする事なんだとか。ネットのスラングらしい。
この視点が生まれた事で、なんだか輪郭がしっかりしたように感じた。
彼女単体は素敵で魅力的な女性であるが、肌の色も人種も違わないけど、そのコミュニティからしたら異質な存在として描かれてる。
まぁ、そう捉えてしまう歴史があった事は否めず、彼女に非がないとも言い切れないのだけれど、彼女が自ら招いた結果にも思えない。
人格形成の大部分を担う幼少期にある大人の存在だ。分かりやすく嫌悪感を抱きやすい人物像ではあるが、この世界に先に生まれ既存の価値観を受け入れ継承してきた存在がある。日常的に彼女に流れ込んでくる価値観は止めようがない事の象徴でもあるのだろうか。
極めて難しい事ではあるけれど、他者への理解の深度を深めるって事なのかと思う。
伝統や慣習に隷従するのではなく、ちゃんと個人として向き合える社会って事なのだろうか。
オレンジのドレスを着た彼女は、とても愛くるしい。そのドレスを纏う姿が滑稽に映るのも意図的なサインなのだろう。
その土地を離れ、彼女への偏見が無いコミュニティに参加している時の彼女は、ちゃんと受け入れられてる。
彼女に問題があるわけではなく、彼女を取り巻く環境への問題提起でもあるのだろう。
言動に違和感はあるものの「作家」としての特異性が、それらを肯定しているようにも思う。
なんか、そんなこんなでとても複合的なメッセージを含んだ作品でもあった。
ただ、そんな膨大で複雑なメッセージをミステリーという視点で束ねた本作は、やはり見事だと思える。
物語として途切れる事もないし、突出するものもない。作品を的確に表現してみせた俳優陣や演出には賞賛しかない。
■ 追記
成長譚とは書いてみたものの、彼女にとってコレは成長なのだろうかとフと思う。
妥協ないしは順応なのかもしれない。
自分が育ってきた経緯から成長と捉えはするが、彼女が認識するものは違うのかもしれない。
そう思うと、既存の価値観を覆すと言えば聞こえはいいが、破壊に等しく…多様性を重んじる風潮ではあるものの、暗黙のルールの存在は否めず、その暗黙のルールが様々な人にとって受け入れやすいものである事を願う。
Jumpin' Marsh Girl KYA
小学校高学年の頃、川縁でアメリカザリガニ獲りが流行っていた。捕まえて水槽に入れて飼う生徒もいたけど、無残に殺してしまう奴もいた。今思い出すと、小学生の残忍性しか感じられないけど、危険外来種と教えられ、戦争でアメリカに敗れた日本人の復讐心がザリガニに向けられたのかもしれない。そんな少年時代。ザリガニが食べられるものだとは知らなかった。
爆竹とともに爆破させられたザリガニ。殺した理由は少年がゴジラ映画の見過ぎだったせいかもしれません。エビラなんてエビというよりザリガニっぽかったですもんね~。大人たちもよく言ってました「ザリガニなんて汚いもの触るな!放射能に汚染されてるかもしれないんだぞ!」と。いや、それも映画の見過ぎですね・・・まぁ、とにかくザリガニに関する記憶はこんなもの。それが「鳴く」というのも驚きでしたが、「sing」だって?!
さて、そんなザリガニ。映画には登場しませんでした。せめて鳴き声だけでも・・・と思ってたけど、ストーリーにのめり込み過ぎたためラストまで忘れてしまってました。まずはmarshとswampの違いなど、英語の勉強もさせてくれたこの映画。俳優たちの発音もチェイス(ハリス・ディキンソン)聞き取りやすく、わかりやすい。そして、子役たちが皆良かった。もちろん弁護士役のデビッド・ストラザーンの演技も最高。
主人公カイアの語りから、いきなりの変死体発見シーン。女ったらしのボンボンなんだから、誰でも殺意持つやろ!的な被害者。事故死かもしれないけど、それじゃストーリーが面白くない。どうせなら『スタンド・バイ・ミー』のように子どもたちに発見させてやれ的な展開だ。湿地帯にて1人で育った少女というから、もっとオオカミ少女みたいな主人公だと思っていたのに、服装は洗濯が行き届いていて綺麗。しかも、言葉もまともだし・・・。そんな彼女を人間らしく変えたのが兄の幼なじみでもあったテイト。学校に行かない彼女に文字を教え、鳥や魚など小動物の知識を交換したりする。そして恋人同士へと発展。羽根を見ただけで鳥の名前を当てるなんて、鳥マニア必見の映画でもあったと思う。ハクガンの群れのシーンは印象的だ。と、トンビ、ワシ、タカの区別がつかないkossyが言っても説得力なし。
容疑者として捕まったカイア(本名キャサリ・ダニエル・クラーク)に接見する弁護士ミルトン。彼の前で自身の半生を語るシーンと法廷でのシーンが同時進行する。母、そして兄、姉たちが湿地帯の自宅から逃げていき、ついにDV炸裂の父までもが去ってしまう幼少期。そして、黒人夫婦のジャンピンの店の手助けを受けながら1人で生活した過去。こっそり種やガソリンを渡していたテイトとの再会から恋人へ。そして別れ・・・別れる前に、テイトは彼女の描く絵を出版社に送れとアドバイスをくれた。
数年間また湿地帯の一軒家で一人暮らしだったカイアだったが、目の前に現われたのが胡散臭いチェイス。2人の映像がメインとなるため、そんなに悪い奴じゃなさそう。2人は恋人へと発展。住み慣れた一軒家を守るため滞納していた税金を払わなければならなくなり、思い出したように出版社に描きためた絵を送り、採用される。だけど、チェイスには婚約者がいるとわかり・・・
殺人事件(単なる事故かも)が起きたのが1969年。カイアが誕生したのが1945年。そして判決後から現代にいたるまでの幸せな日々をスピーディに描き、判決の感動も収まらないまま、驚愕のエンディングを迎える。見つからなかった貝殻のネックレスがこんなところに!
それにしても犯人はてっきり生死さえ不明だったテイトかと思っていたのに、そんなラストを持ってくるか!ホタルの話が絶妙に生かされてるなぁ。本当の交尾の誘いと嘘の誘い。まだ他にも伏線になる小動物の話があったかもしれない。再鑑賞する際にはチェックしなきゃ・・・
ストーリーそのものよりも湿原地帯の暗いながらも美しい風景やカイアの描く小動物画の数々が心和ませてくれた。また、音楽も良かった。テイラー・スウィフトの曲もいいけど、エンドクレジットで気になったバンドメンバー一覧で、楽器に「Sea Shell」って項目があった。音楽も要チェックだなぁ♪
最後のどんでん返しに絶句!
タイトルの「ザリガニの鳴くところ」は、安心安全な場所だという意味でした。ヒロインにとって、いつまでも愛する場所だったということなのでしょうか。最初は、これでもこれでもかと不幸は続きます。軍隊生活のトラウマを持った父親が、家族を虐待したため、家族のみんなが出て行きます。そして本人の父親まで出て行きます。残ったヒロインは、村八分の状態の中で、湿地帯を愛し生き続けます。その少女の姿を見ているだけで涙が溢れてきます。一人暮らしの彼女は、貝を取り、生物の絵を描きながら生活していくうちに、テイトと恋をしますが、一旦裏切られます。続いて、チェイスと恋をしますが、この男は暴力を振るう男性です。この男性が亡くなったことによって、その犯人としてヒロインに嫌疑がかけられ、法廷闘争が行われるというのが、この作品のミステリーの部分です。ヒロインを守ろうと弁護士が活躍しますが、その有能さは秀逸です。そして、ヒロインがついに勝った時には、思わず小躍りしてしまいました。その後、最初の恋人のテイトと復縁し、やっと幸せの人生を歩み出すのです。それからはまるで夢のような幸せな時間なのです。ヒロインの幸せそうな顔が画面の中で溢れたときには、泣くしかなかったです。やっぱり人生は前半と後半があるのでしょうか。前半が不幸でも後半は幸せになるということは、多分セットで人生はできているのでしょう。だから、前半の不幸に見えることも、全て幸福の一部なのだと私は確信しました。ところがです、最後のどんでん返しには絶句でした。なんとも言えない終わり方に、不思議な感慨を味わいました。追記 背景の湿地帯はとても美しくてずっと癒されてました。
【良かった点】 たった一つの事件を基に、主人公の少女の人生を振り返...
【良かった点】
たった一つの事件を基に、主人公の少女の人生を振り返る作りをとっており、切り替え方によっては観づらいものになるがこの映画は切り替えが見事でとても観やすかった。過去と現在が繋がっていく快感があり、見応えも抜群。ラストシーンの真犯人の場面は、ラストまでこちらも騙された。邦画にありがちな実際に殺人を犯すシーンがなかったのもお洒落。
【良くなかった点】
特になし。
沼地の娘の湿地帯
動物学者のディリーア・オーエンズが69歳で出した処女長編フィクション小説が原作。それに惚れて、映画製作契約を申し出たのはリング・オブ・ファイヤーで有名なジョニー・キャッシュの自伝映画、ウォーク・ザ・ラインでオスカーに輝いている女優のリース・ウィーザースプーン。監督はやはり女性監督のオリヴィア・ニューマン。
おまけにエンディングテーマ曲はカントリーの歌姫、テイラー・スイフトとオール女性。
プロミシングヤングウーマンのようなズシンと重い映画でした。
1952年のノースカロライナ州の沿岸部が舞台。アメリカ大陸に初めてヨーロッパ人が上陸し、ネイティブアメリカンと対峙した土地。
原題は Where The Crawdads Sing。
ザリガニは鳴かないんじゃないの?
特定外来種ミシシッピーアカミミガメも出てきた。ワニも気持ちよさそうに半身浴。
映像がすごくキレイ。
ムール貝は海の貝。
沼地の娘?
淡水なのか塩水なのか?
気になって仕方ない。
調べたら、沼地のロケはルイジアナ州の Blue Bayou の舞台だったミシシッピー川下流の入り江。大きな塩水湖があるあたり。
Watchtower の下に町のボンボンのチェイスの死体が発見されて、沼地にひとりで住む若い女が容疑者として逮捕される。
死体に群がるザリガニの映像が見られるかと思ったが、なかった。町の老弁護士が弁護を買って出てくれて、女の過去が次第に明かされる展開。雑貨店の黒人夫婦以外、ヒトから隔絶した生活を送るカイアだったが、入り江にボートを出して、一番仲の良かった兄のジェイブの釣り仲間のテイトに再会する。テイトは学校に行かなかったカイアに読み書きを教え、図鑑を与え、自然生物の精緻な絵を評価し、出版社も紹介してくれた。その才能を開花させてゆくカイア。ワシと白鳥の羽の交換日記のような初々しい清らかなお付き合い。そして湖に飛び込んで泳ぐカイアのワイルドな美しさ。湖で抱き合う美しい男女のシーンはとてもいい。テイトのボタンダウンのシャツの匂いを嗅ぐカイア。いとおしさが溢れる。
生物学者志望のテイトは遠くの大学に進学。絶対帰ってくるといいながら帰って来なかった。約束の場所の夕陽は悲しいほどに美しかった。花火もひとりで見た。とうとう夜があける。裏切られたと思い込んだカイアにちょっかいを出してきたチェイス。マッチョのイギリス人俳優。テイトとは対照的。チェイスに湿地帯を開発されてしまうカイア。チェイスは結局父親と同じDV野郎たった。決定的なのはレイプと本の印税で綺麗にリフォームしたカイアの家をめちゃくちゃに。大事な絵や標本もぐちゃぐちゃ。ストーカー行為に怯えるカイア。カイアの縄張りに土足でズカズカ踏み込んだチェイスにバチが当たった。
出版社との打ち合わせに行った日のアリバイはかなり強力だった。
いつの間にか戻ってきていたテイトの毛糸の帽子の赤い繊維が証拠になってテイトが捕まってしまうのか?
テイトとチェイスの喧嘩の仲裁をして、毛糸の帽子を自分のデニムのオーバーオールに擦り付けていたジャンピン?
警察官になって戻ってきた兄のジェフがカイアを護るためにチェイスを殺害したのか?
陪審員たちが沼地の娘への蔑視や先入観に囚われずに正しい判断をしてくれるのか?
しかし、
細工された本に封印されていたサクラ貝のネックレス。
貝愛の秘密。
ガーン😱
カイアが最後に見た夢。去って行った母親が戻って来た儚い夢。
自然児だったカイアの女一代記。
一途で頑固なカイアへの畏敬。
カイアって名前。川崎さんちの麻世君の奥さんもカミツキガメ並みに獰猛でタフだった。
原作のディリーア・オーエンズ。長く添った同じ動物学者の夫と熟年離婚している。そして、この小説を書いた。
何があったのか劇場。
気になって仕方ない。
殺す代わりに小説を書いた?
ベストセラーになって、印税、映画契約金など全部でいくらになったのか?
元・旦那は悔しくて寝れないね。
2022.12.1 追記
二回目を昨夜観ました。気になった映画は何回も観た方が自分のためになると思います。動機は雑貨屋のジャンピンが怪しいと思ったからです。戻ってきたテイトが桟橋でカイアの痴態を友達に話し笑いものにするチェイスとつかみあいになる場面。ジャンピンが中に入り止めます。テイトの赤いニット帽を拾って自分のオーバーオールでホコリを拭く場面がありました。年取ったテイトがカイアの死んだあとにめくる日記にはサクラ貝(イタヤ貝)を首にかけたチェイスの絵があって、カイアが捕食する相手としたことが明らかにされているので、カイアが深夜の一時間の間にやったんだということになりますが、やはりカイアひとりでは難しい気がしました。テイトの驚愕した表情からはテイトは関与していないことは明らかですが、カイアを実の娘のように思っていたジャンピンと兄のジェイクがカイアのアリバイが成立する時間に合わせて共謀した可能性は充分にあると思いました。ジャンピンは墓場まで持っていったんでしょう。この映画は女性と黒人に寄った作りが明らかですが、ノースカロライナが舞台であることから、ネイティブアメリカンに対する動物学者の作者の思いも感じられました。アメリカザリガニは日本では外来種です。カイアは町の人間からすればよそ者だと弁護士のおじさんも法廷で明言していましたので、人間の都合で連れてこられたり、排除される外来種に対する同情やアメリカ大陸のネイティブアメリカンにとっては侵略者であるヨーロッパ人はまさしく外来種ということになりますから、なかなか深い暗喩がこの映画には込められていると思いました。そこのところが世界中で売れた要因だと思います。アメリカの混迷はまだまだ続きそうですね。
美しい自然とその裏にある生き抜くための知恵
ラストの展開は予想の範囲内でしたが、あそこまで引っ張ると思っていなかったので「このままではいい話で終わってしまう……」と多少焦って見ていました。
しかし、あそこまで引っ張ることで、裁判後の生活自体がテイトへの復讐であり、強きものの庇護に入る自然の掟に従った行動であることがわかります。
まさにカイヤが語る「自然に善悪はなく、生きるか死ぬかだけ」というお話でした。
一部レビューや感想で「恋愛もの」としてのみ評価してる方が多いのは、ネタバレを避けるためなのでしょうか?
ザリガニの鳴くところで生きるカイアの物語
映像も美しく、とても面白い映画でした。
サスペンス映画として裁判からの回顧シーンで物語は進行していきますが、仮にサスペンスの要素がなくても6歳の時に親に捨てられて、ただひとり湿地で生きてきたカイアの物語としてだけでもじゅうぶんに面白い。
湿地でひとりで生きてきたからといって野性的なだけでなく知性や母親譲りの絵の才能も持ち合わせ、そしてとてもオシャレなカイアはとても魅力的でした。
カイアがひとりで生き抜くうえで、文字を教えてくれた恋人のテイトと、生活のサポートをしてくれた雑貨店のシヤンピン夫妻の存在も大きかったですね。
カイアを演じたデイジー・エドガー=ジョーンズは知らない俳優でしたが、とても良かったです。
ラストシーンは衝撃的ですが、納得はできるものでした。カイアは学校や社会で学んだのではなく自然の摂理から生きる術を学んだのですから。
つまらん
キッスとエッチを連発するだけ。
安ぽいなぁと思ってしまいました。
湿地帯に住める?殺されてもおかしくない場所で昔からの家族の棲家を守っていたのか?命がけだなぁと。テンポが良くないから好みに分かれる映画。見終えた後気持ち悪いってなりました。グロい感じはないのに、レビューで楽しかった。恋愛映画ってあったから、ときめきがあるのかと思っていたら、設定に無理があり過ぎて何故恋に落ちるのか?いまいちわからない。やっぱり遊びかと納得したりして、最後は幸せを掴めて良かった。
彼女は、罪を犯したけど無罪になりました。優秀な弁護人のお陰か?謎?
最後のシーンで怖って思いました。
告白と迷ってこちら選んだけど、どっちもどっちだったかも?
湿原は観察すればどこまでも美しい自然なんだ
湿原とか沼は今までのイメージでは陰湿で暗くて怖い所だった。いや、そうではないんだ。
光、水、動物、植物。みんないきいきしていた。
ラストはやはりそうだったのか!
弁護士さんグッドジョブ。
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