夜、鳥たちが啼く

劇場公開日:

夜、鳥たちが啼く

解説

「アルプススタンドのはしの方」の城定秀夫監督が、作家・佐藤泰志の同名短編を映画化。同じく佐藤泰志原作の映画「そこのみにて光輝く」などの高田亮が脚本を手がけ、人生を諦めかけた作家とシングルマザーの奇妙な共同生活を描く。

売れない作家・慎一は同棲していた恋人に去られ、鬱屈とした日々を送っていた。そんな彼のもとに、友人の元妻・裕子が幼い息子を連れて引っ越してくる。恋人と暮らしていた一軒家を母子に提供し、自身は離れのプレハブで寝起きする慎一は、これまで身勝手に他者を傷つけてきた自らの無様な姿を終わりのない物語へとつづっていく。一方、裕子はアキラが眠ると町へ繰り出し、行きずりの男たちと身体を重ねる。互いに深入りしないように距離を保ちながら、表面的には穏やかな日常を送る慎一と裕子だったが……。

主人公・慎一を山田裕貴、裕子を松本まりかが演じる。

2022年製作/115分/R15+/日本
配給:クロックワークス
劇場公開日:2022年12月9日

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映画レビュー

4.0傷ついた者たちの再起の願い

2022年12月27日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

悲しい

芥川賞、三島由紀夫賞など主要文学賞の候補にたびたび挙がりながら、1990年に自ら死を選んだ作家・佐藤泰志。だが2010年に映画化された「海炭市叙景」以降は文学ファン以外にも広く名が知られるようになり、この「夜、鳥たちが啼く」で原作小説が映画になるのは実に6度目。もっと早く評価されていたら……と惜しまれるが、本作の主人公・慎一も売れない作家であり、これまでの映画化作品の中でもとりわけ原作者の心情が投影されたストーリーと言えそうだ。

原作の短編はあいにく未読だが、「夜、鳥たちが啼く」という題に関して。まず「鳴く」ではなく「啼く」が選ばれている。日本語大辞典の「啼」の項によると、「鳥などが声高く鳴く」のほかに、「涙をながし声を発して泣く」の意味もあるという。もちろん映画の中にも近所の鳥小屋の中で鶏らしき鳥が鳴く描写があるのだが、それぞれの結婚生活が破綻し挫折感を抱える慎一(山田裕貴)と裕子(松本まりか)が心の中で流す涙や声にならない叫びを示唆しているようにも思える。

題に関してもう一点。佐藤泰志は「きみの鳥はうたえる」でビートルズの楽曲『And Your Bird Can Sing』の題を借用しており、作中には主要人物の1人である静雄がこの歌を歌う場面もある。佐藤本人もビートルズ好きだったのではと推測できるし、ひょっとしたら「夜、鳥たちが啼く」の題もビートルズの『Blackbird』の冒頭、「Blackbird singing in the dead of night」への言及ではなかろうか。実質的に作詞作曲したポール・マッカートニーは、1960年代当時の米国の公民権運動をめぐり差別された黒人女性について歌った曲だと説明しているが、詞全体としては、傷ついた存在の再起を願う気持ちが伝わってくる。佐藤泰志もまた、慎一と裕子の、そして自分自身の再起を祈る想いをこのタイトルに託したのではないか。連想が飛躍しすぎかもしれないが、映画にもそれに近いメッセージが込められているように思う。

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高森 郁哉

2.0これも人生か

2024年6月24日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

寝られる

主人公(山田裕貴)は売れない作家、友人の元妻(松本まりか)のために家を貸し、自分は庭のプレハブで生活している。
この二人の過去が語られ、今の生活がその延長線上にあるらしいが、説得力が乏しい。
でも二人にとっては良かったのかな、と思ってみたり。

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いやよセブン

3.0うーん

2024年6月19日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

悲しい

怖い

幸せ

とにかく、慎一のやりたい放題感が凄かった。
あんなふうになりたいとは思わないけど、モテちゃう男はいいね。
そして松本まりか可愛いですな。

まあストーリーも普通に面白かったし、子どもにほっこりするシーンもありました。

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きよ

4.5相変わらず難しさが残る純文学作品

2024年6月15日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

難しい

主人公シンイチは作家 作家仲間たちとの団らんで話される「文学とは?」
そしてこれは、起承転結がはっきりしない純文学という部類の作品。
夜中に鳴く鳥 シンイチはそれを発情期と説明する。
タイトルに使われる漢字は「啼く」 つまり特別なこと、または耳障りの良いことを指す。
このことは表面上のことと実際との乖離があることを示しているようだ。
発情とは男女 それに関連した出来事がこの物語を作っている。
隣の奥さんはシンイチと新しく住み始めた母子が再婚したのだと思い込んでいる。
シンイチは未婚のままアヤと同居していたが、シンイチの嫉妬が原因で別れた。
シンイチの先輩と結婚していた「松本まりか」(名前は出てこない)は、息子アキラがいたが離婚してシンイチの平屋に居候する。
離婚の原因がアヤだった。喫茶店に呼び出された「まりか」は、一切しゃべることなく離婚届に印鑑を押す。
これが基本的な相関図となっている。
アキラは聞き分けがいい。放課後に公園で友達と遊ばないのは、学校でも孤立しているのだろう。ところがある時、シンイチと公園で「だるまさんが転んだ」をすると、みんなそれに参加した。
余りにも楽しかったひと時、歩きながら3人でまただるまさんが転んだを始めた。
そこに飛び込むように現れた逮捕劇。あの野球選手同士のけんか。アキラは大声でだるまさんが転んだというと、一瞬警官と選手が止まる。
それがおかしくてゲラゲラ笑う3人。
さて、
シンイチが主人公ではあるが、名前のない「まりか」こそこの作品の最重要人物なのではないかと思われる。
なぜ彼女だけに名前がないのだろう?
「声聞こえたかな?」という彼女のセリフがあるので、啼く鳥とは彼女自身を指していると思われる。
それは確かに発情的な求めだったが、人が求めるのはそれだけではない。
彼女は言う。「ずるいよね、もう男に振り回されたくない。もうアキラと仲良くしないで。期待させないで」
これと呼応するのが、3人でプレハブで寝た後、アキラがTVを見に家に戻ると、シンイチは強く彼女を求め、彼女は抵抗しつつも抱かれるのだ。
発情する時間帯の相違。男女の相違。求めるものの相違。日常の相違…
花火大会の後、お隣さんが「出ていった旦那が戻ってきた」と声を弾ませる。
アキラが家に入り、シンイチは執筆活動をしにプレハブへと戻る。まりかは、ひとりで「だるまさんが転んだ」と言ったが、シンイチはすでにプレハブの中に入っていた。これは彼女がした「かけ」だったと思われる。
余りにも楽しかった日。
シンイチとアキラの3人でこれからうまくやっていけるのかどうかを「かけ」たのだ。そして「かけ」は失敗を示した。発情の相違もあるだろう。かみ合わない。
しかしプレハブではいつになくシンイチの執筆が回りだす。
同時にさっきの花火の回想シーン 大きな花火が大輪の花を咲かせエンドロールとなる。
これはシンイチにとっては幸先のいい予感だ。
名前のない彼女、彼女だけがまだこの先のことが何も見えてない状態だ。
彼女は夜な夜な発情していた。それは満たされない気持ちの所為。
そしてケージの中の鳥。
不動産屋でもこれといった物件は見つからなかった。シンイチの都合のいい言葉。
何も決められないのは彼女自身だ。彼女はどこにも行けない。
毎晩ケージの中で啼く鳥だ。
彼女はアキラのために「校区」を変えたくないというが、それは自分が動けない口実でしかない。
この作品は、主人公を通して彼のもう一人の隣人である彼女(まりか)という夜啼く鳥を描いている。
実際にはどこへでも行けるのに、理由をつけて行こうとしない鳥の嘆き。
つまらない「かけ」をする女。
しかし、このような視点を作品にするのは恐れ入る。

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