「理想と現実の狭間でもがく男たちを描く」キングメーカー 大統領を作った男 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)
理想と現実の狭間でもがく男たちを描く
1998年に韓国の第15代大統領に就任した金大中(キム・デジュン)と、彼がまだ若手議員だった当時の選挙参謀であった厳昌録(オム・チャンノク) をモデルにした選挙サスペンスでした。この映画を観て真っ先に頭に浮かんだのは、レイモンド・チャンドラーの小説「プレイバック」に出て来る「強くなければ生きていけない。優しくなければ生きていく資格がない。」という有名な台詞。本作に準えて言うなら「選挙に勝たなければ政治家にはなれない。正義(理想)がなければ政治家の資格がない。」というところでしょうか。
金大中をモデルにしたキム・ウンボム(ソル・ギョング)は、著しく自由が制限された1960年代から70年代にかけての韓国において、民主化、自由化を掲げて政治活動をする理想主義者なのに対して、厳昌録をモデルにしたソ・チャンデ(イ・ソンギュン)は選挙に勝つためなら手段を選ばない超現実主義者。現実の選挙は相手があることでもあり、理想だけで勝てる訳でないことは事実であり、キム・ウンボムはあらゆる手段を使って選挙戦を有利に進めるソ・チャンデを重用することで国会議員になり、やがては野党の大統領候補選挙にも勝利を収め、大統領選挙に挑戦するまでになる。
こうしたストーリーは、概ね史実に基づいた形で進められているようで、それ故に極めてリアリティが高く、現実と対比していろいろと考えさせてくれる作品でした。
日本においても、今まさに統一協会問題が政界に激震を走らせていますが、報道を見る限り、選挙に勝つためなら反社会的な団体の力を借りていたり、一人の政治家が統一協会のみならず、支持拡大のために複数の宗教に入信していたような事例もあるようです。冒頭にも言ったように、選挙に勝たなければ何も始まらないため、ソ・チャンデばりのマキャベリズムも一定程度必要であることは理解できますが、物には限度があることだし、またそもそも正義とか理想が全く見えず、選挙に勝つこと=権力を維持することだけが目的となってしまったのでは、政治家として失格であることは言うまでもないと感じたところです。
映画としては、1960年代当時の韓国の様子を再現しただけでなく、画像もレトロっぽい仕上げにしていたことで、雰囲気が一層引き立てられていたように思います。また、独裁者として描かれる朴正煕大統領をモデルにしたパク・キス(キム・ジョンス)の再現度はなかなかのものだったし、大統領側の選挙参謀であったイ・ジンピョ室長(チョ・ウジン)も、気味の悪い役柄を好演していました。
日本ではなかなか大手が作らない政治物、選挙物の映画でしたが、国を問わず普遍的な部分も多いので、今の大混乱の政治状況もあって、大変印象的な一作でした。