「ひたすらIMFチームと敵の争奪戦が展開する話はとことんシンプル。そこは好みが分かれそうです。」ミッション:インポッシブル デッドレコニング PART ONE 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
ひたすらIMFチームと敵の争奪戦が展開する話はとことんシンプル。そこは好みが分かれそうです。
観客を楽しませる。映画界を盛り上げる。そんなトム・クルーズの情熱が、これまで以上にスクリーンにほとばしります。アクションの規模とともに、尺も長くなるこのシリーズ。シリーズ7作目にして最長となる2時間43分が、あっという間に過ぎ去りました。
映画草創期のバスター・キートンから、生身のアクションは映画の最大の魅力です。コンピューターグラフィックス(CG)が進化して見かけがいくら派手になっても、体を張った躍動の危ない魅力にはかないません。トム・クルーズは年齢をものともせず、膨大な製作費と緻密な準備を重ねて限界に挑み続けています。その情熱、やみくもに高さと速さを追求した香港時代の若きジャッキー・チェンを思わせ、さらに上を行くかもしれません。
●ストーリー
数々の強大な敵に立ち向かってきた極秘諜報部隊IMFのイーサン・ハント(トム・クルーズ)。今回挑む試練は、全人類を脅かす正体不明のAI(人工知能)がイーサンの敵となって、行く手を未来予測し、阻んでくることです。
日本語字幕で「それ」と表現されるAIは一体どんな力を持つのか。映画は「それ」が人類に反旗を翻したとおぼしき場面から始まります。
その後、いくつかヒントは示されますが、真の姿は明らかにされません。不気味だ。人類がAIに乗っ取られるのではないかという恐怖が現実味を帯びつつある昨今だが、本作の撮影開始は2020年秋。その先見性にも驚かされました。
ハントの任務は、「それ」が悪の手に渡る前に見つけ出し世界を救うというもの。まずは、それを統御する2本で1組の鍵を手に入れることにありました。ハントはまず、固い絆で結ばれた技術者のルーサー(ヴィング・レイムス)、ペンシー(サイモン・ペッグ)と共に、「それ」を操る上で重要とみられる鍵の争奪戦に身を投じることになります。
しかし各国の情報機関や武器商人も、鍵の行方を追っていました。当然CIAも世界の覇権奪取につながる鍵の入手に躍起になって、それを阻止しようとするイーサンやIMFを敵視。前作では競合関係でしたが、本作ではイーサンの殺害を狙って、執拗に追跡してくるのです。
鍵の一本は元MI6エージェントのイルサ(レベッカ・ファーガソン)が所持し、世界中を逃亡。その中で中央アジアの砂漠に潜伏していたところを武器商人の手下に襲われ、ピンチのところをイーサンが救出します。
こうして手に入れた鍵の片割れでしたが、空港でベネチアを目指す途中で、女スリのグレース(ヘイリー・アトウェル)に擦られてしまうのです。しかもCIAの追っ手がイーサンを押し寄せてきます。
●ユーモアたっぷりの逃走劇、その場所の特色をいかしたアクションの見どころが満載! クルーズは還暦を超えているとは思えぬキレとスピード感を保ち、世界各地の名所旧跡で大暴れ。砂漠で銃撃戦をしたかと思えば巨大な空港で追いかけっこ。ベネチアの迷路のような路地を全力疾走し、バイクと車の曲乗りでローマの公道を爆走するのです。どれもその場所の特色をいかしたアクションの見どころが満載なのですが、特にローマでのカーチェイスが最高でした。
このハントとグレースとの逃走劇。2人を手錠で結ぶ、という発想が秀逸です。運転を交代せざるを得なくなったり、BMWのセダンが壊れて代車を探すと黄色い小型車「フィアット500」が登場。珍しくユーモアがたっぷりで、スリルも満点。思わずくすりとしてしまうような街中でのチャーミングなカーチェイスを出して、一体トムはどこを目指しているのか?と笑ってしまいました。とにかくこのシーンだけでも車やバイクを何台壊したのか心配になるほどのスケールがたまりませんでした。
●あのイーサンでも怖じ気づいた断崖絶壁からの落下シーン
そして、クルーズにとっての最大の見せ場が、ノルウェーで撮影されました。海抜1200メートルの断崖絶壁からバイクで落下し、地上約152メートルでパラシュートを開くという命がけのスタントシーンです。
はるか下を走るオリエント急行に飛び移り、悪役との決戦が繰り広げられる最終盤で、そのシーンは訪れます。何度もアプローチに失敗したあげく、列車に飛び移る最終ボイントとして、そこから飛び降りろとペンシーから指令が出るのです。しかしイーサンは、こんな低い高度からパシュートは無理だ、強風で岩壁に衝突しかねないと、珍しく弱音を吐きます。プロのエージェントのイーサンが怯むくらいですから、これは相当危険なアクションだったことでしょう。
予告動画などで何度も見てきましたが、映画館だと一味もふた味も違って見えました。飛んだ瞬間、周りの観客が息を止めて見つめるのを肌で感じたのです。大スクリーンで見る醍醐味が、短いながら凝縮されていたシーンでした。スクリーンで鑑賞するからこそ得られる喜び。これをスマモの小さい画面で倍速で見たら、興ざめでしょうね。
このスタントなしのアクションに度肝を抜かれましたが、それは序章に過ぎなかったという驚きが最後まで続くのです。危機一髪が何度も訪れる列車でのアクションシーンには数々のアイデアも含まれ、見応えたっぷりです。
目的はおよそ荒唐無稽(むけい)ですが、彼がやれば曲芸に終わらず、物語の一部として納得してしまいます。さらに宙づりになった車両の中で、重力を相手にした大立ち回りも。これだけ見せてくれたらおなかいっぱいになりました。
こんな危険なシーンを、AIではなく生身の人間ができることの可能性を彼自身が証明していくという宣言でもあるといえそうです。
物語が派手なアクションに埋没しないのは、ハントと仲間たちの関係性が浮力となっているからでしょう。常連のルーサー、ベンジー、イルサの力を借り、彼らを守るために、ハントは苦境に身を投じるのです。
●イーサンのハートウォームなところが感動を呼ぶ
ジェームズ・ボンドのファンとして悔しいのは、トムのさわやかさと健全さ。特にパリでの逃亡劇で、前作同様に女性警官を命の危険にさらしてしまう場面。007シリーズならきっと見捨てているはずです。でも、イーサンは違いました。
印象的なのは、グレースのスリの才能を評価して、みんなが口々にIMFのメンバーにならないかと勧誘するシーン。ルーサーやペンシーは、組織に加入すれば、君は守られると太鼓判を押しますが、イーサンは、いやそれは無理だと否定します。でも、イーサンは自分が命に代えてでも守るというのです。その言葉を聞いたグレースは、「肉親でもないのに、なんでアカの他人がそこまで言えるの?」と感激し、涙をこぼすのでした。
このように、イーサンが仲間の命や一般人の安全を何よりも大切にするハートウォームな人物であるところに人間ドラマが、書き加えられているのです。
前作の冒頭なんて、ルーサーひとりを助けようとして、みすみす核爆弾をテロリスト側に渡してしまい、上司やCIAから厳重な注意を受けても、信念を曲げないイーサンでしたからね。
今回は、イーサンと親しい人物が、本作の悪役であるガブリエル(イーサイ・モラレス)によって殺されてしまいます。それ以降のイーサンは、まるで自分を責めるかのような苦虫を潰した顔つきで、任務に当たっていました。
ということで、アクションばかり語られがちですが、ヒューマンドラマとしても見どころたっぷりなのです。
●最後に
“2本の鍵”をマクガフィン(物語を動かすためのアイテム)に仕立て、ひたすらIMFチームと敵の争奪戦が展開する話はとことんシンプル。そこは好みが分かれそうです。
シリーズ4作目に脚本で参加し、5作目以降は監督も手がけてきたクリストファー・マッカリーにより、物語に連続性が生まれました。新登場のキャラクターも魅力的で、謎だったハントの過去に触れたのも良いところ。結末には消化不良の感も残りましたが、故に一層、「PART TWO」への期待感が高まったといえそうです。