「人は山嶺を目指し続ける」神々の山嶺(いただき) 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
人は山嶺を目指し続ける
以前にも平山秀幸監督、岡田准一&阿部寛共演で映画化。
あちらは夢枕獏の原作小説の映画化だったが、こちらは小説を基にした谷口ジローのコミックを、フランスでアニメ映画化。
またまた恥ずかしい無知だが、原作コミックも谷口ジロー氏もほとんど知らず。
2017年に他界された漫画界の巨星で、代表作に松重豊主演で人気のTVドラマ『孤独のグルメ』の原作も。国内外で評価され、特にフランスからは栄えある賞も授与されたほど。
本作の原作コミックもフランスで大ヒットし、製作側が熱望。谷口氏も悲願だったとか。
生前の内には叶わなかったが、完成。フランスのセザール賞でアニメ映画賞を受賞するなど絶賛。世界中ではNetflixで配信されたが、日本では劇場公開。母国での評判は周知の通り。
劇中さながら山を登るの如く険しい道のり。
日本のコミックをフランスでアニメ映画化。
改変されているのかと思いきや、日本が舞台。キャラ名も日本人名。
ネットで原作コミックの画像を見たが、こちらにも忠実。
日本ではベテラン声優による吹替版での公開だった為か、日本のアニメを見ているよう。日本描写も全く違和感ナシ。
アニメーションと言うと日本やハリウッドが人気だが、フランスも良質のアニメーションがなかなか多い。
リアルな描写や大人向けの作風からもそれが窺い知れる。
上質さと原作リスペクト、作品の力量…製作側のこだわりと仏アニメーションのクオリティーに感嘆。
大まかな話は日本での映画化と大体同じ。
が、アプローチは全く違う。
日本版は岡田准一演じるカメラマン・深町の視点が主軸となっていたが、こちらもそう始まり、日本版以上に伝説的クライマー・羽生に迫る。
姿を消した羽生。彼に何があったのか…?
トラウマともなった後輩の山岳事故。悲劇的。
ライバルクライマーとの競い。
山岳中の自身のミス。命の危険。
ライバルクライマーの死…。
幾多の苦難。畏怖なる山嶺。
彼はもう、目指す事はないのか…?
たった一つの油断やミスが命に関わる。
危険は何度も。
その恐ろしさや手に汗握るスリル。
山には魔物が棲んでいると何かで聞いた事あるが、その一方、神々も存在している。
連峰の美しさ、雄大さ、スケール…。神々しいほど。
キャラの魅力やドラマ描写も含め、これら日本実写版より深い。
これがアニメである事を忘れてしまうくらい。
まあ、ちとキャラの見分けの区別が難しいのが玉にキズ…。
羽生は決して山を諦めていなかった。再び、目指す。
深町も彼に同行する。
山に魅せられた…いや、取り憑かれた男たちが目指した山嶺には、何があるのか…?
登山など全くしない私。
だから何故、命の危険に瀕してまでも登るのか、正直分からない。
いやひょっとしたら、登る彼らも同じかもしれない。
何故、人は山に登るのか。
有名な言葉があるが、それと同時に、その答えを目指す為に。
それは人間そのものの存在にも通じる。
何故、人は生きるのか。そこに、生があるから。
盲目的な人間本来の行動でもあり、宿命でもあり、シンプルな問いでもあり、哲学的思考でもある。
だから人は、山嶺を目指し続けるーーー。