「もっと不明瞭な恐怖が欲しかった。」NOPE ノープ すっかんさんの映画レビュー(感想・評価)
もっと不明瞭な恐怖が欲しかった。
◯作品全体
超巨大生命体や宇宙人よりも人間の方が怖い自分にとっては、「ホラー映画」という括りには当てはまらない映画作品だった。
怖さの方向性が超巨大生命体にしか向かないからこその終盤の痛快さはあるけれど、ジージャンが最初に登場してから最後まで、怖さのベクトルは「超巨大生命体に襲われるのが怖い」という一方向しかない。どういう特性を持っていて、どうしたら助かるのかがわからない、という怖さは確かに中盤にあるけれど、シーンは少ない。やはりどのシーンでも圧倒的な暴力が怖い…ここに行き着いてしまう。それであればやっていることは『インデペンデンス・デイ』とそこまで変わんないのでは?とか思ってしまった。『インデペンデンス・デイ』であれば「物理的に超巨大なアメリカの敵」という構図であるように、「物理的に超巨大なOJ達の敵」が超人的な攻撃を仕掛けてくる、といったような。恐怖の根源があまりにも明瞭過ぎる。
物語に組み込まれた人種差別なんかはあくまで「こういう見方もあるよね」という設定であって、多層的だがそれぞれの層が接続することはあまりない。
じゃあつまらなかったのか、と言われれば、パニック物としては十分楽しめた。けれど、もっとわからない物に恐怖したかった…という感想に尽きる。タイトルのような、純粋にその存在の恐怖からくる「ありえない」という感情をもっと抱きたかったな、と感じた。
◯カメラワークとか
・「日影の怖さ」が上手だった。見通しの良い、まばらな雲と快晴の青空はすごく爽やかな色なんだけど、日影がやってくるたびに不穏な天気のように映る。存在が見えないことの恐怖として上手く演出に使われてた。
◯その他
・中盤あたりからOJがジージャンを把握し始めるのが、見ていて頼もしくもあり、かっこよくもあり。でもそのOJの頼もしさがジージャンの恐怖を半減させていたような気もする。バトルマンガとかでも相手の能力の天井がわからないと「主人公は勝てるのか…?」と手に汗握るけど、主人公が相手の能力を冷静に分析し始めた途端「あ、これはなんとかなるな」と思って手の汗が乾いていく、あの感覚に近い。
・『インデペンデンス・デイ』って書いたけど、ラストでエメラルドが「見たかクソ野郎!」とか言って喜ぶあたりとか、なんかもう人間対超巨大生命体過ぎて『インデペンデンス・デイ』を見ている気持ちになっちゃうんだよなぁ。あのラストのテンションで終わるなら、もっと爽快感あるジージャンへのトドメを描くべきだった。
・『AKIRA』の井上俊之パートみたいなバイクの止まり方してたのが印象に残った。
・なんか服従の関係だったり、人種の関係性があるだけで「作品の下地には差別の歴史が…」みたいな解釈になるの、すごく単純な構図だなあと思ってしまう。まあ差別自体が人間の単純な価値観からくるものだし、それでも良いのかもしれないけれどなんかモヤる…。