「拳ひとつで生き抜く」アウシュヴィッツのチャンピオン ゆみありさんの映画レビュー(感想・評価)
拳ひとつで生き抜く
僕はボクシングが大好きである。拳ひとつで生きるボクサーを敬愛している。
この映画の主人公テディもまた拳ひとつでアウシュヴィッツ収容所を生き延びた。この映画のなかでユダヤ人が次々にガス室に送り込まれ、撲殺され、銃殺され、吊るされ、目を覆いたくなるほどの残虐な光景が描かれるが、そんな地獄のなかで彼のボクシングにユダヤ人たちは癒され勇気をもらい、またナチスの鬼畜どもも魅了され、彼に食料や医療を与えた。これは結果的に飢えた人達を救いもした(焼け石に水かもしれないが、その時には地獄のなかで大変な幸せを感じたと思う)。なぜ人は強いボクサーにひかれるのか。特にテディは防御に優れ、相手のパンチを「霧のように」かわすテクニシャンだった。収容所の中で彼のボクシングスタイルは何か暗示的でもある。
褐色の爆撃機ジョー・ルイスのライバルであり、ボクサーを引退した後に経済的に困窮したジョー・ルイスを匿名で援助し続けたとも言われるドイツの英雄マックス・シュメリングのスクラップ記事を見ながら収容所所長の息子が「なぜ偉大なドイツ人が負けたの?(多分ジョー・ルイスにだろうな)」という場面、何気に感動してしまった。ここで映画の中の地獄と現実の世界との繋がりを実感した。因みにこのマックス・シュメリング、実は反ナチスの人(ナチスはドイツの英雄を入党させようと何度も試みたが断固として拒否し続けた)で、収容所の所長が息子に「トレーナーがユダヤ人だから負けたんだよ」て言ってるのは別にジョークではない。史実に基づいて所長でもある父親にそう語らせたのだと思う。
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