EO イーオーのレビュー・感想・評価
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手堅いプロの技術、豊かな寓話
ともかく撮影技術の面では現在の世界最高峰に連なる作品。目を引かれるのは周到に組み立てられた照明だけど、本当に斬新なのはサウンドデザイン。水滴が落ちる、木々の間を風が吹き抜ける、車のタイヤのきしみ、どれもきちんと考えられ練り上げられたサウンド。
そして物語は、映画史的伝統にしっかりと根ざしていて、複雑な記号の網の目が豊かな読みを可能にしている。文学や哲学の研究者が見ると夢中になるのでは。とりわけ、映画の終盤でロバのイーオーが湖にかかる高い橋をわたって、天国へ向かう途中のような静かな庭園に至る場面は、近年まれな美しいショットだと思う。
ブレッソン『バルタザール』からの広義の翻案だけど、そこに現れる暴力や悪意がむき出しで苛烈なのも、まさにいまの時代の映画として撮られた証拠。
喋らずとも大きな瞳が雄弁に語る
1頭のロバの目を通して描かれる、人間のおかしさと愚かさ。ある者は友人のように接してくれたかと思えば、ある者は野良ロバとみなして荷物の運搬に使おうとする。一方が幸運を呼ぶシンボルと崇めれば、もう一方は不運をもたらした厄介者扱い。1頭の動物を主軸に描く人間模様といえばスピルバーグの『戦火の馬』もあったが、本作ではよりシニカルだ。
セリフはしゃべらずとも、どこかしら憂いを含んだ大きく映し出されるEOの瞳が、物語を幻想的かつ雄弁に語らせる。「自分の役柄に想定された意図に従って仕事をし、監督のビジョンに口をはさまない優れた俳優」とロバを称賛するスコリモフスキ監督。『15時17分、パリ行き』で、88歳(製作時)のクリント・イーストウッドが実際に起きた銃乱射事件を、俳優ではなく当事者本人を起用して撮影したように、84歳(製作時)の奇才の手にかかれば、動物すら名優にしてしまう。
奇才には、年齢などただの数字でしかないのだ。
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