「密度も熱量も異様に高いあっという間の3時間!主演のふたりの大暴れにインドの歴史まで組み込んだ貪欲さに脱帽です。」RRR 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
密度も熱量も異様に高いあっという間の3時間!主演のふたりの大暴れにインドの歴史まで組み込んだ貪欲さに脱帽です。
声を合わせて主人公たちをみんなで応援しながら劇場で見る。「応援上映」という方式があります。音楽ライブのような楽しさを味わえますが、ふさわしい作品は限られることでしょう。インド映画にはピッタリですね。伝統の歌とダンス、派手なアクション。シンプルな勧善懲悪の物語。そしてスクリーンからほとぱしり、観客を巻き込んでいく主人公たちの激情。応援上映でもヒットしたS・S・ラージャマウリ監督の「バーフバリ」2部作がそうでした。今回のラージャマウリ監督の新作も、要素は全てそろっています。
1920年、英国植民地時代のインド。冒頭で、無数の群衆が弾圧の抗議のため警察署に押し寄せます。インド人警察官ラーマ(ラーム・チャラン)はたった一人でその中に飛び込み、大人数と組み合い、格闘しながら群衆のリーダーを掴まえて生還するのでした。
場面は変わって、南部の村を英国人の総督スコット(レイ・スティーヴンソン)と部下たちが訪れます。総督の妻キャサリン(アリソン・ドゥーディ)は村の少女を気に入り、強引に連れ去って行くのでした。
ゴーント族の村の闘志ビーム(NTRJr.)は少女の奪還のため総督の公邸があるデリーへ向かいます。一方、総督襲撃の情報を得て、ラーマは襲撃者たちを逮捕する捜査の責任者に立候補します。ラーマには秘めた目的があり、そのために実績を上げて出世することを急いでいたのでした。
そんな主人公の2人、ラーマとビームの出会いは、デリーの川にかかる鉄橋を走行中の燃料運搬列車が爆発。川の真ん中で火に包まれた子供が助けを求めているときでした。偶然居合わせたふたりは目と目を合わせただけでわかりあい、無言で完璧に連係し、命がけの大アクションで少年を救いあげるのです。普通なら、橋から飛び降りて子供を救うことになるでしょう。けれども火に包まれた状況なかで、ふたりは手順を重ねていきます。ふたりが一本のロープを持ち合い、それぞれ馬とバイクに乗って、ロープの端をつかんで橋の両側から飛び出し、クロスして少年を救出するのでした。
このことがきっかけでビームとラーマは、義兄弟のような絆で結ばれた友となります。しかし、お互いの正体を知るよしはありませんでした。
こうしてふたりの友情とライバル関係の始まるのです。やがてお互いの正体を知るときが訪れるのです。ふたりは友情と使命のはざまで苦悩することに。
物語は一度は2人が、運命のいたずらで反目し合いながらも、強大な支配者に挑む姿を描かれていきます。
インド映画史上最大の製作費を投じたという触れ込みの映像世界は、視覚効果と圧倒的な物量によるスペクタクルの連続です。。
ふたりが出会うきっかけとなった子供を救う序盤の場面では、いきなりフィナーレに匹敵する激しいアクションを見せつけて、のっけから度肝を抜かれました。本作では手数が違うのです。救出の過程で幾つもの見せ場をつくっています。
さらに救った後にもう一つ見せ場があって、最後に2人ががっちりと手を結ぶ。ふたりの関係の始まりが、一言のセリフもないままけれんをこってりと積み上げた濃厚な視覚サービスで、物語に引き込まれる仕掛となっていたのでした。
、その後もビームとラーマが、総督の公邸で開催されるパーティーに令嬢の招待で訪れたとき、社交ダンスを蹴散らして、ふたりが披露する激しいダンスが見物です。驚異の持久力を見せつけるのでした。
その後ビームは野獣の群れとともに総督の公邸を襲撃します。ラーマとは激烈な一騎打ちを繰り広げるのでした。
このとき捕まってしまったビームが脱獄するとき、友を助けるためラーマは英国に反逆し自分が捕まってしまうのです。
敵だと思っていたビームは、ラーマの思いを知って後悔します。そして単身ラーマが監禁されている収容所に救出に向かうのでした。
救出の最中に足を痛めたラーマをビームは肩車したまま、押し寄せる英国の大軍をだったふたりで迎え撃つのでした。
もう冒頭からラストまで、普通の作品ならクライマックスとなる派手な見せ場の連続です。象徴的なのは、序盤に見せるマスゲームのシーン。巨大な人柱の大俯瞰など、画面には人がぎっしりで、密度も熱量も異様に高い。主演のふたりの大暴れにインドの歴史まで組み込んだ貪欲さに脱帽です。
人によっては、本作のやり過ぎ、あからさま、ご都合主義を批判する人もいることでしょう。確かに物語にご都合主義的な部分もあるものの、途中のインターバルを挟んで、2時間59分の上映時間はアッという間に過ぎ去りました。
アクションの連続でも飽きないのは、それがあくまで2人の激情の体現として描かれているからでしょう。幾多の辛苦を耐え忍んだ主人公たちが、怒りのパワーを大爆発させるクライマックス。カタルシス満点の英雄譚です。
さらに、実写とCGが巧みに組み合わされ、あり得ないアングルや動きを可能にして興奮を盛り上げていきます。スローモーションやストップモーションも実に効果的。もはや実写というより、実写とアニメーションの中間のように思えてきます。それを不自然に感じさせないほど、主役2人の生身の動きは素晴らしかったのです。彼らの超人的な肉体が映像にリアリティーを与えているとおもいました。
コロナ禍で応援上映は難しくなりましたが、観客たちの心の大合唱が聞こえる気がしました。
最後に、ラーマとビームはいずれも実在のインド独立の闘士ですが、ストーリーは完全な創作であり、その活躍にはヒンドゥー教の聖典である叙事詩「ラーマーヤナ」が重ね合わされているそうです。神話的英雄の冒険が、これ以上ない名手の手によって、壮大かつ繊細に描かれるのです。
すでに米国でも大ヒットし、アカデミー賞候補と噂され、インド映画の歴史を変えるかもしれません。ただひとつ気になるのはこれがインドの「国民映画」として作られているまさにその点です。
インド独立の神話はあまりにたやすくヒンドゥーの神話になってしまうのです。ヒンドゥー至上主義のイデオロギー的にはそれでいいのでしょう。だがこの映画で寿がれるインド独立の英雄には、ガンジーもネルーも無関係にされてしまったことが気になりました。