劇場公開日 2022年10月21日

RRR : インタビュー

2022年10月20日更新

S・S・ラージャマウリ監督、超絶アクションに取り入れた野生動物の動き

S・S・ラージャマウリ監督
S・S・ラージャマウリ監督

極上の映画体験が、ついに日本上陸を果たす――「バーフバリ」シリーズのS・S・ラージャマウリ監督が、英国植民地時代のインドを舞台にした映画「RRR」は、2人の男の友情と使命がぶつかり合う様を豪快に描いた一級のアクションエンタテインメントだ。

1920年、英国軍に捕らわれた村の少女を救い出す使命を背負った“野性を秘めた男”ビーム(N・T・ラーマ・ラオ・Jr./通称NTR Jr.)と、英国の警察官で“内なる怒りを燃やす男”ラーマ(ラーム・チャラン)。敵対する立場の2人は互いの素性を知らぬまま唯一無二の親友となっていく。インド激動の時代で、彼らが選ぶのは友情か? 使命か? 家族、誇り、そして一国の未来をも背負った2人の友情と壮絶な戦いが描かれる。

バーフバリ」シリーズで歴史的な成功をおさめたラージャマウリ監督。「全ての作品に当てはまることですが、私はひとつ作品を撮り終えたら、それは一切忘れて、新鮮な気持ちで『私を若くさせてくれるストーリーは何かな?』という風に次回作について考えています」という。長い間、考え続けていたのは「2人のスターを中心に作品を撮りたい」ということ。伝説的な人物2人が実際には出会ってないが、もし出会って、友情関係が生まれたり、様々な交流があったら、すごく面白いんじゃないかと思いました。そのアイデアが浮かんで、実在する2人のヒーローと映画界におけるスーパースター2人を一緒にしたら、すごく面白いのではないか」という結論に至ったようだ。

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主人公A.ラーマ・ラージュとコムラム・ビームは、どちらもインドの独立運動の英雄として、今でも人々の尊敬を集める実在の人物。だが、ラージャマウリ監督の指摘通り、実際にはこの2人は出会うことはなかった。本作は「この2人の人物がもし出会ったら?」という大胆な発想から誕生し、それをテルグ映画界の2大スターNTR Jr.ラーム・チャランの初共演作として実現させた作品。なお、ラーマには「ラーマーヤナ」に登場するラーマ王子、ビームには「マハーバーラタ」の主人公である5兄弟の次男ビーマというインド2大叙事詩の登場人物のイメージも重ね合わせて描かれている。

「子どもの頃からさまざまなストーリーのヒーロー、いわゆる異なる世界からですね。例えば英語の映画、あとテルグ語の映画を見て、頭の中で勝手に自分でシーンを作りだすんですよ。もし、この2人のヒーローが会ったらどうなるのかなと。もともと知らなかった2人に友情が生まれるというのは観る側としてもとてもいい気持ち、気分になりますよね。そこが『RRR』の発想の源」と語ったラージャマウリ監督。その脳内ではどのようなヒーローが出会っていたのだろうか。

「本当に大勢いましたが、特に気に入っていたのは、インドの叙事詩『ラーマーヤナ』と『マハーバーラタ』。これらの作品に登場するキャラクターを入れ替えたりしていました。どちらの作品も登場人物が多く、インドではそれぞれのキャラクターのコミックがあるほどなんです。コミックを読み、また別のコミックも読んで……その後、自分なりのストーリーを考えるということを常にしていました。時には、自分自身もストーリーの中に登場していましたね(笑)」

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原案を務めたのは、ラージャマウリ監督の実父で「バーフバリ」「マガディーラ 勇者転生」でもタッグを組んだV・ビジャエーンドラ・プラサード。今回の共作では、どのように仕事を進めていったのだろうか。

「ここまでが父で、ここからが私――そういう形で、ストーリーの構成をわけるのはなかなか難しいんです。『バーフバリ』に関しては、2人の発想が混じり合ったという形で、その時は父がキャラクターを考えていました。私のアイデアは『そんなキャラクターたちが一堂に会したらどうなるだろう?』というもの。それらが編み込まれたような感じですね。『RRR』に関しては、私が明確なキャラクターのアイデアを持っていて、父に『このようなキャラクターが登場するストーリーを考えてもらえないか?』と持ちかけました。劇中では、盛り上がりの場面となる核のシーンがいくつかあります。それらのビーズに糸を通し、筋が繋がるようにする。そういう『太い糸』の役割を父が果たしたと言えるかもしれません」

S・S・ラージャマウリ(Rajamouli)、ラーム・チャラン(Ram Charan)、NTR Jr.の名前にある「R」を3つ重ねた仮題として企画がスタート。当初の読み方はトリプル・アール。その題名がファンの間で好評を博したため、そのまま本題名となり、読み方も「アール・アール・アール」に変更となった。英語では蜂起(Rise)、咆哮(Roar)、反乱(Revolt)の頭文字を取った形になっているが、テルグ語、タミル語、カンナダ語、マラヤーラム語では「怒り」「戦争」「血」を意味する「R」の入ったそれぞれの単語がサブタイトルとして付けられている。

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描かれるアクションは“見たこともない”という感想を抱くものばかりになるはず。そもそもこのような新鮮味のあるアクションを、どのような発想で生み出していくのだろう。唐突に舞い降りてくる“閃き”なのか。はたまた何かからインスピレーションを得ているのだろうか……。

「直接的であれ、間接的であれ、何かしらの“見たもの”に触発されていると思います。私はドキュメンタリーを見るのが好きなんですが、特にディスカバリーチャンネル、ナショナル・ジオグラフィックといった野生動物が出てくる作品が大好きなんです。獲物を狙っている、もしくは追手から逃げようとする。動物たちの伸縮性……特に“伸びる方”です、彼らは限界まで延びる。その際には、何かしらの強い感情が伴っています。このイメージを組み込めたらどうだろうかと考えるんです。極限極度のストレッチ状態。これを人間の身体で表現した場合、一体どうなるのだろうかと思うことがあります。人間がそのような動作をする場合は、非常に強い感情が働いているわけです。感情を伝える、感情に注目させる。そういったアイデアが、今回のベースにあるんです。“限界”を試したいという気持ちが、確かにありましたね」

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特にこだわったのは、冒頭で描かれる「ラーマVS群衆」のバトルだ。

「私は自分に大いなる挑戦を課したわけです。どうしたら1人が何千という人と戦えるか、まずそこから発想を始めました。だけどファンタジーではなくて、なるべくリアルにしたかった。1人がまさに大群、人々に囲まれる。これはまさに挑戦でした。何カ月も取り組んで、色々な演出、アクション演出を考えました。この課題に対する一番の解決法、適当な方法はなにかと。しかし納得できなくて、これは別の形でやるしかないかなと考えていた時、振付家のキング・ソロモンが解決策を提示してくれました。何カ月もずっと取り組んでくれてて、私にシークエンスの一部をどういう風に戦うか、エキストラを使って見せてくれたんですよ。それを見て、とても嬉しく、納得することも出来ました。『RRR』だけでなく、私のキャリアの中で一番難しい撮影でしたね」

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また、ダンス・シーンに熱狂する観客も多いはずだ。なかでも「西洋VSインド」を表現した「Naatu Naatu」は特筆すべきシーン。インド映画界屈指のダンサーでもあるNTR Jr.ラーム・チャランの見せ場となっている。同シーンのため、振り付け担当のプレム・ラクシータは、100通り以上のパターンを考案。「その振り付けが2人の俳優にとって適切な感情表現なのか、という部分を調整することにも時間を費やしていました」というラージャマウリ監督。12日間の撮影期間のうち8日間は、戦争が始まる前のウクライナで撮影。編集を含めると、数カ月の期間を費やした場面となっている。

「私が演出していくそれぞれのシーン、パフォーマンスであれ、会話であれ、アクションであれ、ダンスであれ、全ては何らかの感情をストーリーで表現する、伝えるための手段です。今回の『Naatu Naatu』ダンスシーンでも、それを表すための表現をしていました。私は、示唆的ではなく、感情を全面的に強く表現したいスタイルを持っているので、例えば、観客を笑顔にするのであれば、微笑みではなく、笑ってほしい。称賛するのであれば、ただ手をパチパチと拍手するだけではなく、大声をあげて興奮してほしい。そういったものを届けたいと思っています。また、この作品で、NTR Jr.ラーム・チャランを起用したからには、絶対にダンスのシーンはお約束というか、期待されるわけです。そこで、観客が望んでいるシーンを提供するために、単なるダンスシーンを入れて『いいね、よかったね』というだけではなく、そのシーンに至るまでのストーリーと共に、感情を伝える手段として喜んでもらいたい。それが、この『Naatu Naatu』ダンスシーンで成し遂げたいことでした」

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映画界を代表する名匠たちが次から次へと絶賛しているという事実も見逃してはいけない。ドクター・ストレンジ」のスコット・デリクソン監督は「とんでもない最高のジェットコースタームービー!」、「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」シリーズのジェームズ・ガン監督は「最高だった!」、「アベンジャーズ エンドゲーム」を手掛けたルッソ兄弟のジョー・ルッソは「『RRR』のアクションは誰しもがすごい!と熱狂できる。物語の中心にあるのは深く重厚な友情の物語。言葉の壁を越え、世界中の人が共感できる作品だ」とコメント。ロサンゼルスでは1カ月間にわたり、ラージャマウリ監督作の上映会が実施され、ラージャマウリ監督自身も渡米し、上映後のQ&Aやメディア取材に対応している。

「本当に気持ちが昂る期間でした。『RRR』はインドで受け入れられていますが、『これが西洋に伝わるのか?』という疑問はあったんです。インド人が好むものもわかりますし、特に東側。『バーフバリ』が日本で大ヒットしたことからも、東洋の感性にアピールすることができているということが確認できていました。ですが『RRR』がアメリカや西洋で受け入れられているという事実には、正直驚きを隠せません。ニューヨークやLAでは、たくさんのファンの方にお会いしました。西洋のオーディエンスを十分理解できた……とはまだ言えないのかもしれません。しかし、私の映画に何かしらの訴えかけるものがあり、それが受け入れられているということが非常に嬉しいんです。ストーリーを伝える仕事において、世界で多くの人に受け入れられている、楽しんでもらっている。これ以上期待するようなことは何もありません」

最後に尋ねたのは、今後の展望について。「アクションアドベンチャーは見るのも好きですし、私の得意ジャンルでもあります」と前置きしつつ、新たなチャレンジを示唆してくれた。

「サスペンススリラーにもぜひ挑戦したいと思っています。それと、私はアニメが大好きなんです。いつかアニメーション作品も手掛けてみたいですね」

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