「ロシアのウクライナ侵攻に気づけなかったのか」ドンバス 地政学への知性さんの映画レビュー(感想・評価)
ロシアのウクライナ侵攻に気づけなかったのか
この映画は2018年の映画である。ロシアによるウクライナ侵攻、ロシア側がいう特別軍事作戦が開始される4年前の作品だということになる。
タイトルはもちろんウクライナ東部地域のことだが、場所はどこか特定していない。ここで起こっている日常がドラマの形でウクライナ側の視点で淡々と映し出される。
ナレーションは全くないため、この地域がどのような場所なのかを知らないと全くわからない内容である。
はじめはプロパガンダとして使われるニュース映像の撮影の様子らしき場面であった。ウクライナ側の砲撃の被害をニュースで語る住民の様子だが、準備された俳優たちによる演技であることを主張しているようだ。
最後にはこの俳優たちもウクライナによる虐殺事件というプロパガンダ・ニュースを撮影するために殺されてしまうのであるが、この俳優たちの人間関係は良さそうではなく、映画出演の手当も払われないうえに、実際に殺されて、そのニュースが利用されるという死人の骨までしゃぶるような非人間的なロシア側の残虐性を訴えている。
ほかにも,ある実業家が盗難された車が見つかったと連絡を受けて当局に行ったら、その車を接収するから同意書に署名しろと脅迫される場面、住まいを失った前線に近い地域の住民の過酷な環境とロシアと戦うために不屈の精神でその環境に住むことを受け入れている様子、ウクライナ人を心底憎みロシアを歓迎する住民の様子なども描かれている。
ロシア側につく住民の様子では、親族がウクライナ側の行為で犠牲になったことで深い憎悪を持っていることを映し出すことで、ロシア系住民の意も汲んで全体のバランスを取っているかにも見える。しかし、これはプーチン大統領が言ってきた「ロシアとウクライナは兄弟(のようなもの)」という言葉に対する皮肉なのだとも理解できる。
また、ロシア側につく住民は、横柄、下品、乱暴、残酷な人間に仕立てている。ドキュメンタリー的なつくり込みではあるが、ウクライナ側の世界に向けたプロパガンダ映画の要素を多分に含んでいることは否めない。