「2018年ぐらい(映画製作された頃)のウクライナ東部、ドンバス地域...」ドンバス りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
2018年ぐらい(映画製作された頃)のウクライナ東部、ドンバス地域...
2018年ぐらい(映画製作された頃)のウクライナ東部、ドンバス地域。
ロシアによる実効支配が続いており、親ロシア派により「ドネツク人民共和国」「ルガンスク人民共和国」が立ち上げられた(国際的には承認されていない)。
そこでは日々暴力が続いており、一例を挙げると・・・
ウクライナ側からの砲撃などあり、親ロシア側では事件現場にエキストラ俳優を起用して、プロパガンダニュースを流している、
大規模産婦人科病院では物資が不足しているが、あるところにはある、それを暴きに来た警察は一芝居打って、横流しに一枚嚙んでいる、
ドイツからやってきたジャーナリストは、戦車上の親ロシア派軍人たちにインタビューを試みるが、誰が上官かわからない、そのうち、反ドイツ意識丸出しの広報担当らしき軍人が登場するが、一方的にやり込められている目の前で砲弾が爆発する・・・
といった笑うに笑えないブラックでシニカルな場面が繰り広げられます。
ドキュメンタリー畑のセルゲイ・ロズニツァ監督による劇映画なのだが、ひとつひとつのエピソードは事実に基づいているので、笑うに笑えない状況となっており、それをドキュメンタリー映画よろしくほぼワンエピソード・ワンショットで撮っている。
似たような傾向の作品としては、エリア・スレイマン監督・主演のフランス・パレスチナ合作映画『D.I.』(2001)がこんな感じだったかしらん。
劇中、何度も登場する言葉は「ノヴォロシア」。
「新しいロシア」という意味で、ドンバス地方を含めての「ノヴォロシア連邦」を意味している。
もっとも背筋が凍るエピソードは、捕縛されたウクライナの給食兵が街頭で晒し者にされるエピソードで、親ロシアの市民たちがやってきて、最終的にはリンチ同然となっていく様子。
ドンバス地方におけるウクライナと親ロシア派との対立は根深いものがある。
もうひとつは、盗まれた自動車が発見されたというのでやって来た男性が、警察に自動車を接収され、無理やりに委託書を書かされるエピソード。
「お前はどっち側だ」と脅され、命と引き換えに強奪されるのだが、いやはや、突如として権力を握った者がどうなるかはこのエピソードをみればよくわかる。
事務所を出ると、男の周囲には同じような境遇の男性が何人もいて、知り合いに助けを頼んでいるので、まぁ、ここはコメディだとわかるわけだが。
で、最後に、巻頭に登場したエキストラの人々が再登場。
そして・・・
と、ここは書かないことにします。
世界情勢によって、もともとは「悲劇的な状況でのシニカルな喜劇」映画だったのだが、「笑うに笑えない喜劇的悲劇」映画と変貌した映画なのだが、もしかすると、世界はもともと「笑うに笑えない喜劇的悲劇の世界」なのかもしれないと改めて感じた次第です。