「あの夏、ぼくらは宇宙と出会った」ぼくらのよあけ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
あの夏、ぼくらは宇宙と出会った
ラストは思ってた以上のスケールや本格SFに。
でも、本筋は等身大。
夏、少年少女、団地、未知なるものとの出会いと別れ…。
SFジュブナイル・アニメーション。
27年ぶりの巨大彗星地球接近に沸く2049年の日本。
解体が決まった巨大団地に住む宇宙好きの小学生・悠真はワクワク胸を躍らせていた。
AIが発達。AIを搭載した人工衛星“SHⅢ”に憧れるも、家にあるAI搭載型家庭用オートボット“ナナコ”には不満気だった。
ある日、ナナコのシステムに不具合が。
…ではなかった。何者かにハッキング。
27年前、1万2000年もかけて地球付近にやって来た異星のAI宇宙船だと言う。“二月の黎明”と名乗る。
目的は惑星探査で、トラブルで故障した所をSHⅢに助けられ、団地の一棟に擬態し休眠していた。
帰還には3つのコアが必要。一つ足りない。
悠真と友達二人・銀之助と真悟は“彼”を還す為、コアを探す…。
SFアニメーションあるある。最初は突飛な設定や小難しい用語にちょい苦労。
“二月の黎明”は非常に高度な知能で小難しい事も言い、ここら辺ハードSFチックでもあるが、話自体はそう難しいものじゃない。
子供たちが未知の存在と出会って、交流し、尽力。
『ドラえもん』的な王道。
もう一つのコアを持っていたのは、同じ小学校に通う少女・花香。
彼女も加わり、皆で協力。大人には内緒。
そもそも、何故彼女の元にコアが…?
本人に心当たりナシ。実は、彼女の父、悠真の両親に関わりが…。
彼らの親たちが最初に“二月の黎明”と会っていた。今の悠真たちと同じく宇宙に還そうとするが、当時の彼らには無理で…。
大人になって、必ず約束を果たす。
が、いつしかその約束を忘れてはいなかったが、実行出来ないまま…。
親が果たせなかった約束を、子供たちが果たそうとする。
大抵こういう設定の場合、親は何も知らない分からず屋だが、当初は消極的であったり、とある事故から心配で口うるさくなるが、次第に“あの頃”の気持ちを取り戻す。
親にもフィーチャーされ、ラストは親子で協力。
ファミリー・ムービーとしても健全。
団地舞台のジュブナイル・アニメと言うと、昨年も『雨を告げる漂流団地』があったばかり。
あちらは設定や展開、キャラ描写に“?”が多かったが、こちらは上々。
AI宇宙船が一棟の団地に擬態というのが独創的。コミュニケーションのツールとして、屋上一帯に水を張り、ファンタスティックな描写。
団地ならではの危険やトラブル。
解体が決まっており、一時帰還を諦めた“二月の黎明”は“死ぬ”という事を受け入れる。
それに抗う子供たち。
AI故感情など持ち併せていないが、彼らとの交流を通じて、“感情”というものを知る。
AIや設定などは近未来。団地や子供たちのひと夏の不思議な出来事などはノスタルジック。
新しくも、何処か懐かしい。
ちと難点もあり。
花香と真悟の姉・わこは同級生。が、仲が悪く(と言うか、はっきり嫌い合ってる)、それ故花香は一旦、協力やコアの引き渡しを拒否する…。
どうやら花香はクラスで孤立。
わこは嫌がらせをするが、そんなわこも周囲から嫌われないよう無理して馴染もうとしている。
何だかここら辺の描写が今一つピンと来ず…。
花香や銀之助は片親で、何かしら複雑なものを抱えているが、その描写もちと希薄。
子供たちだけで団地の屋上に上がるのは危険と訴えているのだろうが、過剰過ぎる気も…。
でも最たる“う~ん”は、悠真の声。杉咲花が担当しているのだが、はっきり言ってミスキャスト。勿論杉咲花は実力派だが、男の子の役なのに、思いっきり地声丸出し。まだ変声期来てない?…いやいや、お粗末過ぎる。
悠真の母役の花澤香菜は、大人の女性/母親と過去の10代の少女の声を見事に演じ分け。売れっ子プロだから当然とは言え、さすがの巧さ!
人とAI。
現実のこの世界でもAI技術が目覚ましく発達し、その在り方を問う。
それを担うのは子供たちと“二月の黎明”であり、さらにもっと描かれるのは、悠真とナナコ。
家庭用オートボットとして万能のナナコ。が、ちょっと口うるさく、悠真はうんざり。
そんな時“二月の黎明”がナナコをハッキング。ナナコはハッキング中の記憶は無いようだが、実はそれは嘘。
最初にハッキングされた時から自身で調べ、知っていた。
“二月の黎明”や何より悠真の為に。協力もするようになり、ラストは“犠牲”になる。
それは、ナナコのメモリーが全て消えてしまうという事…。
ずっとナナコをウザく思っていた悠真だが、勿論それも嘘。家にやって来た時から、この“友達”が大好き。
他に方法はないのか…? これしかない。
嫌がる悠真。
意を決したナナコ。
遂に別れの時が…。
AIが人間のような感情を芽生えるのか…?
人間がAIに感情を抱くのか…?
そんな理想的な綺麗事…を、我々は、特に日本人は昔から慣れ親しんでいる。
人間とロボット/AIの絆、友情…。
AIの危険性や暴走を描いた作品も多いが、そんな未来より、AIとの良き共存を誰もが願う。
皆の思いが託された“彼”がいつかまた地球に戻ってきた時、そうあってほしい。