「深く考えずにいられなかった」かがみの孤城 R41さんの映画レビュー(感想・評価)
深く考えずにいられなかった
しばらく前に地上波で見たのだが、酒を片手にボーっと見ていた。
ここ数日この作品のことが頭に浮かんできたことで再度見ることにした。
背景画に比べ割と平面的で漫画チックな人物画ではあるが、この物語にはどうにも惹き込まれてしまう魅力がある。
惹き込まれ過ぎて、このレビューはかなり偏っているかもしれない。
この物語がまず提示したのは、
キーを探して願いを叶えてすべてを忘れてしまうか、それとも単に孤城で経験した記憶を残すのかを選択させること。
重要なのは願いを叶えることなのかそれとも特別な経験を憶えていることなのか?
主人公のこころは最後に、アキを救出することを最優先事項にしてそれを願いとした。
記憶は消されたはずだが、最後の北島先生や帰国したと思われるリオン、少なくとも彼ら二人には記憶が残っているのではないだろうか?
狼様は孤城の主 つまりそこはすべて彼女の思考領域かもしれない。
病室にかけられたセーラー服
行きたかったあの中学校
彼女は死の間際リオンに「神様にリオンの願いを叶えてくれるように頼んでみる」と言ったが、神はその願いの代わりに「ある種のゲーム」を彼女の夢の世界の中と一緒にプレゼントしたのかもしれない。
ドールハウスの城 狼と7匹の子ヤギ 思わせぶりな「7」という数字や時間軸のズレなどのおおよそ統一されていないものはすべて小学生の彼女の「夢」なのだろう。
狼様である彼女が7人を呼び寄せたのは、アキ、つまり北島先生を通して皆繋がっていたからだと考えるが、そこにある時間のループ現象というSFならではのパラドックスがある。
さて、
狼様は、現実世界で襲われそうになっていたアキのピンチを救った。
ここだけに「介入」が存在する。
アキに起きた出来事はアキのルール違反を引き起こすことに繋がる。
しかし、最初にルール違反をしたのは狼様ではないのだろうか?
さらに、
もし狼様が神様に願いを聞いてもらったのに、神様はその願いとは違ったものを提示し、かつルールを定めたのであれば、そもそもこれらの出来事は狼様によるものではなく、神様による狼様へのプレゼントなのではないのだろうか?
その過程で狼様は現実世界のアキの状況を救い出してしまった。
そもそもそんなことがわかってしまうことと、介入できたことに狼様は「何か変だ」と思ったに違いない。
アキを助けるシーンはこの世界の主である狼様にとって「意外」な出来事だったことが伺える。
リオンが持ってきたケーキも、狼様にとって泣きたい思いがあったに違いない。
リオンがこころに話したように、彼の願いは「姉を返してもらう」ことだった。
当然その事を狼様はわかっていたはずだ。
ここに彼女と神様のやり取りが伺える。
神様は彼女に、「もし誰かがそう言ったのであれば、命を奪うことはしない」とでも言ったのだろう。
当然彼女の正体は誰にも知られてはいけない。
リオンを贔屓するのも許されない。
中学生 不登校
狼様よりも年上の彼ら現役中学生たちの思考 言動 生活環境 苦悩…
狼様が「もっと生きたい」というすべての生物に共通する最初の願いを強く持っているにもかかわらず、リオン以外の人には願いなどないに等しいという現実を知る。
彼女が心から望んだあの学校にさえ行きたくないのだ。
おそらく狼様はこの現状に対し非常に驚いただろう。
こころの願いも、クラスメートを削除するということだった。
さて、、
命日の3月31日
その前日までを期限としたことは、神さまとの約束の期限だったのだろう。
しかしその途中で、リオンは狼様の正体に気づく。
この不思議な場所を神様から提供されて、コントロールしていたと思っていたが意図していなかった多くのことによって一番変化したのは、もしかしたら狼様の願いだったのではないだろうか?
医者から見ても彼女の死は確定的だった。
彼女の生きたいという願いと余命 そこに介入した神様
神様は彼女の理想の世界をそのまま具現化させて、彼女の願いである「もっと生きたい」ことを前提に、プレーヤーを集めてゲームをさせたのだろう。
神様は彼女に、彼らの生活、思考、言動と孤城で出会った仲間たちとのコミュニケーションを通して、彼らの変化を彼らと一緒に体験させたのかもしれない。
自分勝手な願いが、仲間を助けたいという思いに変わったとき、その協力するパワーの中で彼女もいっしょに力を合わせることができたに違いない。
神聖で崇高な「もっと生きたい」という思いさえ、もしかしたら自分勝手な思いだったことを彼女は最後に理解したのかもしれない。
それよりももっと崇高な願い「誰かを助けたい」思いというものが存在することを知ったことが、彼女の気持ちを安らかにしたのだろう。
彼女は最後にリオンの前でマスクを取った。
その思いは生きたいと願う先にあったもっと尊い思いだった。
この瞬間、病室の彼女にもたらされた平安が彼女を包み込んだのだろう。
彼女は思考の中で神と対談し、すべてを理解して旅立った。
つまり「クラウドアトラス」と同じロジックがここにある。
誰もがいつかその日を迎えるが、誰一人神が伝えたかったことを理解せずに逝く人などいないのかもしれない。
この作品に関し深読みするのが正しいのかどうかわからないが、いま生きている彼らよりも、死の間際の彼女に何かを教えようとした神の介入こそ、この物語の核心のように思った。
彼女の願いによって神の介入があり、その中でプレイした彼らにも希望というものが見えたのだろう。
なかなかジーンとくる物語だった。