「赦しを乞う男」ザ・ホエール 琥珀糖さんの映画レビュー(感想・評価)
赦しを乞う男
ブレンダン・フレイザーの演技は、怪演とか名演技・・・
という表現の先。
別次元の凄みがありました。
アカデミー賞主演男優賞にこれほど納得したことはありません。
自室から離れることも、階下の一階へ下りることも、
自由に歩くこともままならない鯨のように肥満した男。
ぶよぶよ肥満した見た目とは真逆の頭脳明晰にして知的な男チャーリー。
そもそも彼が肥大化した原因は、同性の恋人の死にある。
その男性アランの死因が宗教にあった。
チャーリーの友達で看護師でアランの妹でもあるリズ。
この辺り宗教に無知な私には理解できないのですが、
その「ニューライト」という宗派は、この世の終末論と
その結果にキリストが再臨する・・・
と説く新興のカルト的キリスト教の宗派。
同性のチャーリーを愛したアランの心はそのカルトに癌ように
蝕まれて遂には身体中に癌が回って死んでしまった・・・とリズは言う。
そしてチャーリーはアランの喪失を埋めるために過食に走って、
今は殆ど身動きが取れないのだ。
私はチャーリーの死生観にある意味で共感した。
彼は肥満による鬱血性心不全で余命は4〜5日と思われるのだが、
頑なに治療を拒否している。
救急車を呼んで治療・手術などしたら何万ドルもかかる。
チャーリーは15万ドル位を元妻に預けている。
その金は娘のエリーに残したいのだ。
そのお金を自分の死期を延ばすために消費したくないのだ。
この考えには私も賛成する。
どうせ死ぬなら治療費はドブに捨てるようなもの。
家族に残すかはともかく、もっと有意義に使ってほしい。
この映画は元々は舞台劇を映画化したものだそうです。
成る程、場面はチャーリーの部屋が殆どです。
スタンダードサイズの窮屈な画面。
とても暗い。
多分チャーリーは醜悪な自分を見たくないのだ。
共演者はチャーリーの部屋のドアを開けて登場する。
「ギルバート・グレープ」にも過食で200キロ以上に太った母親がいて、
ギルバートの母親も夫の自殺のショックから過食を始めたのだ。
ラストでギルバートは死んだ母親を家と遺体と丸ごと焼き払ってしまう。
ダーレン・アロノフスキー監督の名作「レスラー」でも、主人公は、
レスラーでステロイド剤の多飲で心臓発作に見舞われる。
彼も昔、家族を捨てた過去を持つ男。
この映画でも捨てた娘との繋がりが男を支える。
(ミッキー・ロークはこの演技でゴールデン・グローブ賞の主演男優賞を受賞)
(忘れられていた老スターの再生になった)
ダーレン・アロノフスキー監督の宗教観は特殊で、過去作で物議を醸した。
「ノア約束の方舟」や、特に「マザー!」
「マザー!」は観た人にしかその特殊さは分からないが、
ユダヤ人でユダヤ教で育てられた監督は独特の宗教観を持っている。
この「ホエール」ではカルト教の架空の宗派「ニューライト」が、
大きな役割を振り当てられている。
突然チャーリーの部屋をノックして、「白鯨」について書かれたエッセイを
朗読させられる羽目になる宣教師のトーマス。
そしてやはり「ニューライト」の宣教師だった恋人のアラン。
アランは看護師のリズの兄でもある。
アランは父親に背き男性の恋人チャーリーとの肉欲に溺れたことを恥じて、
家出して何年か後に湿地で死体で発見される。
その事がチャーリーを苦しめ過食に至ったのだ。
(しかし、チャーリーは肉欲の次は、食欲・・・7つの大罪のうちの
(2つも当てはまる)
白鯨の感想エッセイにチャーリーは深く拘るには理由が2つある。
《語り手は自らの暗い物語を先送りする》
鯨に共感するのがひとつ。
もう一つはラストで分かる。
愛する娘エリーの書いたエッセイなのだ。
この一節も興味深い。
「語り手は悲しみや苦しみを《先送り》している」
出来る事なら「死」もずうっと「先送り」したいものだが・・・
チャーリーは、キチンと死と向き合い、
決着をつけて逝ったと、
私は思う。
失礼します
目の心配を頂き、大変恐縮しております ありがとうございます
年に何回かアレルギー性の結膜炎になってしまう持病みたいなモノです
映画にまるで関係無い話をしてしまい申し訳ございません
ギルバートグレープと言う映画で過食した過食した母親が出たように家族や大事な人の死をキッカケにして寂しさを埋めるために摂食障害に至るケースは実際あるそうです。話が逸れますが精神的に病んでしまい薬の副作用で体重増加もあります。
失礼します
共感ポイントありがとうございました
死生観の件、私も賛同します と同時に、では自分がその覚悟を持てるかと言えば自信がありません どうして生に縋るんでしょうね・・・
彼の自暴自棄には"覚悟"を強烈に印象づけます 暴飲暴食等、1日位で音を上げます だって胃に詰め込む量なんてたかが知れているし、やれば胃が痛いです 痛ければ自然と痛くならないよう意識がセーブに働きます そう、"痛い"という肉体的シグナルを無視できる或る意味意志の堅固さ、甘やかさない精神には頭の下がる設定です
希死念慮位では、ダラダラと無駄な経済的損失が積み重なるばかりでしょうね・・・
甘えた内容、大変失礼しました
不適切内容をご判断致しましたらご指摘願います 私の方からサイトへ削除申込させて頂きます
共感を有り難うございます。
確かに、チャーリーは「死」だけは先送りしないで、向き合いましたね。この末期段階ならば…ではなく、はっきり治療拒否=先送り否定だった訳ですから。
そんなチャーリーに射した光は救いだったのか、ただの諦念だったのか。いつまでも、何かを考えさせてくれますね。
「いつも数回読み返してしまいます」などとおっしゃられると、うれしくて、プレッシャーがかかり過ぎになります 笑