「私は生きている」カラーパープル sankouさんの映画レビュー(感想・評価)
私は生きている
スピルバーグ監督のオリジナル版は、冒頭からセリーが背負わされる過酷な運命が容赦なく突きつけられるので、観ていてとても心が重くなった。
その分、今回のミュージカル版は少しファンタジーの要素が入ったために、そこまで憂鬱な気分にはならなかった。
特に前半はセリーとネティー姉妹の絆が強く印象づけられる。
利発で垢抜けた妹のネティーとは対照的に、セリーは内気で頼りなく地味な存在だ。
しかし物語が進むうちにセリーが忍耐強く、慈悲深く、実はとても聡明な女性であることが分かってくる。
大まかな筋はオリジナル版と同じだが、ミュージカル版はより逆境に抗い、自立していく女性の強さにフォーカスが当てられた作品だと感じた。
ただ、ひとつひとつのシーンのドラマティックさではオリジナル版の方が勝っていると思った。
個人的にはとてもミュージカル向きの作品だと思っていたが、なぜか歌唱シーンもダンスナンバーもあまり印象に残らなかった。
キャラクターの魅力もオリジナル版に比べて乏しいとも感じた。
ただオリジナル版よりもセリーがありのままの自分を受け入れ、自分の生きる道を見出していくまでの過程がとても丁寧に描かれているのは良かった。
散々に醜いと言われ続けてきたセリーが、初めて自分に対して自分は美しいのだと認めるシーンは感動的だ。
そしてミスターのキャラクターも後半になって印象に残った。
ダニー・グローバーが演じたオリジナル版のミスターは、やはり非道い奴ではあるのだが、どこか不器用で憎めない部分もあった。
一方、こちらのコールマン・ドミンゴ演じるミスターはどこまでも冷血で擁護できる要素がひとつもない。
しかし、彼は自分が孤独になって初めて自分がセリーに対して行った仕打ちの残酷さを思い知る。
オリジナル版ではさらりとしか描かれなかったが、彼はセリーへの償いのためにネティーを呼び戻そうと働きかける。
ミスターがセリーの洋品店を訪れ、絶対似合わない派手なパンツを買うシーンも印象的だった。
改めてスピルバーグ監督の構成の上手さを実感させられはしたものの、今の時代に必要な要素を持った『カラー・パープル』であるとも感じた。