「優しさの仮面の下」PLAN 75 シューテツさんの映画レビュー(感想・評価)
優しさの仮面の下
本作は早川千絵監督長編デビュー作という事らしいですが、間違いなく名作だと思えるが好き嫌いは結構分かれると思える非常に厳しい内容の作品でした。
テーマ自体は今までにも似たような作品は沢山思い浮かびますが、自分がこの年齢にどんどん近づいているせいもあるのか、これ程切羽詰まった感覚で観たのは初めてかも知れません。
基本、もしこうなったらというSF設定だと思うのだが、余りにも現実社会に近くリアル過ぎるので、この設定(75歳以上になったら、死を選択できる制度)自体を絵空事と思えなく息苦しさまで感じられる程でした。
逆の尊厳死を求める側の作品も過去何作もありましたが、国の制度として尊厳死を勧めるというのは、全く意味が違ってきて、それは国家としての今までの政策の誤り(失敗)を国民になすり付けるという意味となり、いくら社会としての正論であったとしても国家的な暴力であり許されるべきものではない筈なのに、これが日本人の国民性をも利用した優しさの皮を被った残酷さ非道さを見せつけられられ、ある意味恐怖映画の要素も感じてしまいました。
本作は説明台詞を一切排除して、観客は映像だけで物語を理解しなければならない様に作られています。
私は基本的にはこのやり方に賛成なのですが、私が観に行ったのは平日で客層の大半はこの作品のタイトルの様にほぼ70歳以上の方ばかりが目立ち、66歳の私が若く感じられる程で、そういう客層にはこの作り方はひょっとしたら不親切だったかも知れないと思いました。
ラストの主人公の行動や、ヒロムの行動の意味が理解出来たかどうか?、一瞬でもスクリーンから目を離すと、重要なシーンを見落とし理解出来ない部分が多々あったように思えました。
本作の倍賞千恵子の代表作でもある『男はつらいよ』シリーズが何故国民的作品に成り得たのか?を考えると、あれ程の名作でありながら非常に分かりやすかったという事です。それは作品の源流と同様の“優しさ”で作品が作られていたからだと思います。
本作の場合は監督のデビュー作であり、作家としての才能に溢れた作品ではありましたが、客層(高齢者)に合わせた優しさがもう少しあれば完璧だと思いました。
ここで客層と言ってしまいましたが、本作の場合高齢者対象の作品という事では決してありません。
むしろ、本作の主要登場人物のヒロム、瑤子、マリアなどの年齢層こそが本来のターゲットの客層であるべき作品でした。
本作の様な政策(過去の失策に対する尻拭い政策)が現実化した場合、当然その職務に就くのは彼等世代であり、彼等はこの職業に対してどういう考えや気持ちで就くのか?、これこそが本作の最も重要で核心となるべきテーマなのです。
という事で本作は是非、若い人達に観て貰いたい作品であり、くれぐれも“優しさ”の仮面に騙されず、本来の人間性について考えて頂きたいと切に願います。
追記.
もし私がSFとして物語を作るなら『PLAN 75』ではなく『PLAN 15』にすると思います。
自殺大国の日本なら15歳から死の選択権を与え、どの世代が一番多く希望するかで、今の国の実態が分かり、国の完成度・成熟度を測る通信簿作成という皮肉を込めたストーリーにしてしまいますが、これだと『世にも奇妙な物語』テイストになってしまいますが、テーマは分かりやすいかなと…(苦笑)