フェルナンド・ボテロ 豊満な人生 : 映画評論・批評
2022年4月26日更新
2022年4月29日よりBunkamuraル・シネマほかにてロードショー
単なる画家の人生じゃない、秀逸なビジネスモデルの誕生と発展に関するドキュメンタリー
丸っこい、ふくよかな画風で有名なフェルナンド・ボテロの作品は、好き嫌いが分かれる類のものでしょう。正直、私もこれまであんまり興味がありませんでした。ファインアートというよりはカリカチュア、あるいは漫画というカテゴリに分類される類のものだと勝手に思っていました。
ところが、この映画を見て、俄然ボテロに興味を抱くようになりました。画風はともかく、ひとりの画家のサクセスストーリーとして、非常に面白く、かつ共感を覚える内容になっています。
麻薬のカルテルで有名な、コロンビアのメデジンに生まれたボテロは、子どもの頃から絵を描くのが大好きで、画家になることを夢みていました。十代の頃、自宅で楽器のマンドリンの絵を描いていた時に、何かインスピレーションが天から降りてきて、ふくよかなマンドリンの絵ができた。これが、何でもふくよかに描く画風の始まりだと本人が語っています。
ボテロの絵画は、肖像画が圧倒的に多く、どの人物も徹頭徹尾丸くふくよかに描かれています。誰が見ても一発で「ボテロの絵だ」って分かる。この「ボテリズム」は、ビジネスモデルとしても秀逸です。まず、オリジナルの絵がすでに特徴的。丸いので、子どもにも人気があります。次に、カバーバージョン。すでに名画として誰もが知ってる「モナリザ」もボテリズムによってまったく違った見栄えになって、見る者をなごませます。ヘビーメタルだってビートルズだって、レゲエのミュージシャンがカバーしたら、何でもレゲエに変換されちゃうのと同じことです。
3つめが、彫刻にも応用可能な点。鳩や猫や馬や人間など、ボテロ作のスカルプチャーは世界中にあって、これらも一発で「ボテロだ」って分かります。ボテロ作品の、ユニークかつ応用性の高さは大変イノベイティブ。天才的です、フェルナンド・ボテロ。
ただし、あの独特の作風に対してはアンチも少なからず存在するようで、映画に登場する学芸員が「ニューヨークにボテロの彫刻が多数並んだときは、町が侵略されているような、嫌な気分になった」なんて語っています。生理的に、ボテリズムが嫌いな人がいるのも理解できます。
まあでも、身も蓋もない言い方をすれば、「売れたもん勝ち」じゃないかと。映画にはボテロの娘や息子も登場しますが、みなリッチに見えます。ファミリービジネスでボテロの作品に携わっているんでしょう。当のボテロ自身は「売れたとしても、売れなかったとしても、私は絵を描き続けるんだよ」って語っていて微塵も偉そうなところがありません。
そう、ボテロは存命の画家なのです。1932年生まれなので、今年90歳。今はモナコに住んでいるみたいなので、大金持ちです。「やっぱ最後は南仏で筆を置くんだよね」ってマチスとかシャガールを思い出しましたが、彼らはニース近郊です。映画に出てくるボテロのアトリエは、モナコの高層タワーマンションです。
2022年のGWは、渋谷でボテロの展覧会も開かれるようですが、私は、日本じゃなくて、「メデジンでボテロを見る」というのを、自分の旅行リストに追加しました。コロンビアには行ったことありませんが、訪れる目的ができました。非常に重要な目的です。
(駒井尚文)