「原作の多世界解釈」渇水 ハクちゃんさんの映画レビュー(感想・評価)
原作の多世界解釈
原作とセットで体験して初めて価値がわかる作品。
つまり、映画だけ見てもこの作品の良さは味わえないわけで、それは映画としてどうなのか?と苦言を呈したくなる。
とは言え、原作を読んでトラウマ級の鬱展開をくらった経験のあるものとしては、この映画版はひとつの救いだった。
原作では、小出家の姉妹二人が線路に横たわって自殺を図ったところで話が終わる(妹は電車に轢かれて即死、姉は吹っ飛ばされて重体)。全く救いがないエンディングだが、現実世界を見れば、それが起こり得ない悲劇だとは言えない。だから原作者がそのようなラストを選択したことは理解できる。芥川賞の選評では「成功作と思われたが、ラストの姉妹の自殺で失望した」などと評されていたが、あまり適切な選評には思えない。
映画版では、主人公の岩切が「流れを変える」と宣言して、はたから見れば奇行とも思えるようなショボいテロをする。その結果、皆に少しだけ明るい未来が見えたように思えたところで映画は終わる。映画版だけを見ればなんとも中途半端なラストだが、岩切の決断が、実は原作のようなラストになることを防いでいたのだと思えば、その決断の価値は計り知れない。つまり原作の悲惨なラストと、映画のまぁマシなラストを横並びに比較して始めて、岩切のショボいテロ行為が感動的なものだと理解できる。
恐らく本映画の制作者達は、原作との対比、原作のアナザーストーリーとしてこの映画を作ったのだと思う。エヴァンゲリオンみたいに。
だが、こんな映画はありなんだろうか?
個人的には制作してくれたことに感謝しているが、30年前に発表されたほぼ無名の原作を読んでいなければ、内容を深く理解出来ないなんてのは、作品として無理があるだろう。
勿論、この作品が今の時代に必要とされていることは良くわかる。昨今のトー横界隈に流れ着いた子達が、最終的に命を断つという行動に陥らざるを得ない現代だからこそ、この作品を映画化しようとしたのだとは思う。だが、伝わらなければ意味がない。できれば映画単体で、自分が味わったような深い感動を与えてくれると良かった。
エンドロールで原作って有ったので、読めば印象変わるかなぁと思ったが、そういうラストなんですね。鬱になりそうなので読むの止めときます。
映画で最後、プールに二人が飛び込む時に、妹の身長的に大丈夫なのかな?まるで自殺を暗示してるみたい。って思ったんですけど、原作のそれをマイルドにしたんですかねぇ。