「美しいものは誰のものでもないものである。」渇水 penさんの映画レビュー(感想・評価)
美しいものは誰のものでもないものである。
原作は未読ですが、30年前の原作当時とは違って、今はさらに貧富差が拡大し、コロナも加わって、一人親世対の困窮度はさらに高まっているようです。当たり前になっているので、『私だけ感』が弱まっているからなのか、『苛烈』と言われている原作からイメージされるものとは若干異なり、少し未来に希望をもてるような中身になっているところは、とても良かったと思います。
本作を観て、昨年9月に起こった、中学生姉妹の列車事故を思い出しました。運転手が『二人抱き合っているように見えた』というあの事件です。最近の国会で野党が子供達の心の安全と命を守るために対応が必要との訴えのときに持ち出したのがこの事件でしたが、答弁に立った大臣の声が心なしか涙で震えているように見えたのがとても印象的でした。
美しいものは、誰のものでもないものである。
日本のある詩人がこんな意味のことを言っていました。
生きてゆくのに必要なもののうち、太陽の光や、青空や、空気はただなのに、何故水に料金がかかるのだろう。この映画にもそんな台詞がありました。雨水を濾過して清潔な状態にし、運搬するのには、コストがかかるのだから、それはしょうがないよなとつぶやきつつ、よくよく考えると、電気とは違って、それがないと命の維持が最早不可能になるような性質のものなのだから、基本的人権を守るためのベーシックインカムの一部として現物給付することもできるのではないか・・・なんていう夢想に走ったりします。(以下ネタバレあり)
ささやかな水テロ。そんな本気の抵抗の根っこにあった感情は、多分『抱き合って死んだ』姉妹たちの話を聞いて震えた大臣の感情と同じだったのだと思います。映画ではささやかすぎて、社会の仕組みをかえることは無論無理だったわけですが、その共感が姉妹のこころにある重要な変化を与えたように、国の政策にも変化を与えて、幼い命が無駄に散るようなことが一切ない世の中になってほしいものだ・・・そのように思いました。