「小さなテロ」渇水 ブレミンさんの映画レビュー(感想・評価)
小さなテロ
水道料金を滞納している人々の家の水道を止水する水道局員ととある姉妹との物語です。
自分はあまり自宅にいないので、水道代がかからない生活をしているので、滞納なんてした事もないんですが、今作に出てくる人たちはかなり滞納している人たちが出てきます。しかもわりかし逆ギレする人たちが多いのも特徴的でした。
メインは水商売で生計を立てるシングルマザーと幼い姉妹の一家、他にも家庭の事情や経済的問題、身勝手な理由で滞納する人たちがぞろぞろ出てきます。滞納している理由に同情できる人はほとんど出てきません。というか滞納なんて余程のことがない限りしないと思うので、それなりに問題がある人が滞納してるのかなぁとなんとなく現在とリンクしたなと思いました。
主人公も過去に家庭を置き去りして過ごしていた事をこうかいしつつも、流れるように仕事をしている事で色々中和している人物だなと客観的に思えました。
水道を止める事には抵抗は無いけれど、生きている意味を実感しているようには思えないのもなんだか辛い描写だなと思いました。
姉妹の健気に生きる姿が美しくも見えて、それでいて痛々しくも見えてしまいました。最初は水を汲んだり、節約に励んだりと、ダメな母親を頼らずとも強く生きているのですが、後半になってくると万引きに手を出したり、他人の家から水を盗んだり、犯罪紛いのところまで手を出してしまっていたので、母親に近づいていってしまうのではないかと危惧してしまいました。
姉妹と主人公と同僚が一緒にアイスを食べたり、金魚の水替えをしたりするシーンは微笑ましかったです。
母親は全くを持ってダメ親なので、子供たちの面倒は見ているようでほとんど放置していますし、金稼ぎの水商売ではなく、恋愛としてに軸を移してしまっているので、完全に子供達のことは置き去りにしているのもダメだなぁ、救いようがないなと思いました。
終盤、流れを変えたくなったという変化と共に、主人公が姉妹と一緒に小さなテロを起こします。止めている水道を解放してばら撒くのはなんだか爽やかな絵にも見えました。結局取り押さえられて警察へ突き出されますが、どっちかって言うと児童を連れ回した方が事件性としてはデカいのかなと思うと、しっくりこない部分もありました。
出所までのスピードだったり、突然の留置所へのぶち込みだったり、色々と急で雑だなと思いましたが、オチへの持って行き方は良かったなと思います。
姉妹も行くべき場所が決まり、同僚は守るものが出来て、主人公は息子と再会する、ヘビーな内容だった中盤からは想像できない光の射すラストでした。
役者陣の演技も素晴らしく、生田斗真さんの死んだ魚のような目をした、それでも流れを変えるために生きる表情の変化が素晴らしかったです。
門脇麦さんもダメな母親の熱演が最高でした。そこまで登場シーンは多くないですが、とても印象に残りました。
最近観た「なぎさ」にも出演されていた山﨑七海さんも良い味を出していました。儚げな表情、背伸びして妹を守ろうとしている姿がとても良かったです。これからの邦画界を担っていく存在になっていくと思います。
良いところもあれば、引っかかるところもある作品でした。水道代が無料になれば良いのになという気持ちはありつつも、水道局の人たちの生活のためにしっかり支払った方が良いんだろうなという何重にも考えさせられました。
鑑賞日 6/4
鑑賞時間 13:50〜15:40
座席 G-1
ラストの解釈は私は反対方向だったのですが、岩切が仕事を通して出会った姉妹とのつながりは、彼女たちをある意味で現実に向き合せ、一方では人のおもいやりを感じさせることができました。両親に見捨てられたのと同様の傷をかかえながら、なんとか妹を守る姉の姿はつらかったですよね。他作、ミステリと言う勿れで〝子供のときばかでしたか?〟と問うセリフがありますが、それを思い出しました。思う以上にわかってますよね、こどもは。