「星に願わなくても」ピノキオ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
星に願わなくても
主題歌『星に願いを』は映画始まる前のロゴマーク時に流れる。名曲中の名曲。スタンダード。スタジオの顔。
作品も『白雪姫』『ファンタジア』と並ぶ名作中の名作。私もクラシック・アニメーションの中で最も多く見ている。
その後も別会社や新解釈などで幾度も映像化されているが、やはり一番と言ったらこれ!
1940年製作。永遠に愛され続けるディズニー『ピノキオ』。
そんな名作を実写映画化。
実写版の『ピノキオ』はあるにはあるが、本作はあのディズニーアニメを実写リメイク。
ハードルは高いってもんじゃない。『シンデレラ』『美女と野獣』『アラジン』などの比ではない。下手したらオリジナルやスタジオそのものに泥を塗る。魔法でも掛けないと無理。
魔法は掛けられないが、VFXを駆使して実写化したのは、ロバート・ゼメキス×トム・ハンクスのゴールデン・コンビ。
アニメの世界観をそのまま再現。アニメと同じピノキオやクリケットが動いている。さすがはVFX時代の申し子、VFXのクオリティーは素晴らしい。
さすがは名匠。ディズニー実写リメイクに新たな名作誕生…
…何故だろう。
アニメのイメージは壊していないのに、この何とも言えぬビミョーな感じ。
アニメを見た時のようなワクワク、ドキドキ、温もり、感動、幸せが感じられなかった。
何故だろう。
何だかつくづくと、アニメをアニメのイメージのまま実写化する難しさを痛感させられてしまった。
ピノキオもクリケットも正直ジョンもフルCGでアニメのビジュアルのまま登場。
が、アニメだからあのビジュアルがいいのであって、実写だと違和感しかない。
特にクリケット。実写(リアル)の世界に思いっきりデフォルメされたコオロギ。
かと言って、リアルだったらそれはそれでまたヤだ。『リトル・マーメイド』のセバスチャンやフランダーのように。
わがまま言ってるのも分かるけど、う~ん、難しい所…。
再現したのはビジュアルだけではなく、リアクションや動き。
オーバー過ぎ。これもアニメだから愉快なのであって、実写だと子供だけが笑いそうなただのドタバタ。
ちなみに私はこういうの、あまり好きじゃない。
話は概ね踏襲。現代的にアップデートした箇所も少なからずあり。
アニメと基本同じなのに、何故か実写になって引っ掛かった部分も。
命が宿ったピノキオにゼペットが「そろそろ学校行かんとな」。いやいや、“そろそろ”ってその日の夜じゃん。
で、学校行く事になるんだけど、昨夜命が宿ったばかりの全く無知の木の人形を一人で学校に行かせるなんて、よくよく考えたらドイヒー。
騙されて悪質人形劇団へ。捕まって“おもしろ島”へ。いずれも何とか逃げ出して、自分を探しに行ったゼペットを探しに海へ。見つけるも、巨大クジラに飲み込まれて。助かり、ハッピーエンド。
大冒険だが、これ、たった一日の出来事。
昨日生まれて、今日大冒険して。これが長い苦難を経たのなら分かるけど、達成感もない。
不思議な事にアニメでは時間経過など感じなかったのに、実写ではどうして…?
これもアニメと実写の違い…? それとも演出や編集の問題…?
すでに多くの方が指摘してるのであれこれ言わず、ちらっとだけ。
ブルー・フェアリー。
またこんな指摘するのも人種差別に当たるんだろうけど、やっぱりどうしてもねぇ…。
それから、今回ブルー・フェアリーが登場するのは序盤の魔法を掛ける時だけ。ラストには登場しない。
これは次触れるとして、今回あのオチだから。
要は、夜空の星から魔法ビームだけで良かったって訳で、登場の必要無かったって事。じゃあ、わざわざ人種変えたりして、アンタ何しに出てきたん?
そして、オチ。ブルー・フェアリーも賛否両論だが、ここが最大。
ピノキオが色々翻弄されて、騙されて怖い目にあって、冒険して、それでも頑張ったのは、人間の子供になる為。
ラスト、人間と同じ…いやそれ以上の勇気と心を見せて、ブルー・フェアリーの魔法によって念願の人間の子供に。
頑張れば願いは報われ、夢は叶えられる。“ディズニー”という存在自体を体現するメッセージ。
しかし今回、驚くなかれ、人間の子供にならない。
えッ、何で…?
じゃあ、ピノキオが頑張ってきた意味は…?
様々な体験や冒険を経て、ピノキオは変わった。
全く無知の木の人形から、本当の人間の子供になった。心が。
心が一番大事なのだ。
見た目など関係ない。
ありのままの自分でいい。
大事な事、素晴らしい事、素敵な事を言っているのは分かる。
でも…
そ・う・じ・ゃ・な・い・ん・だ・よ!
ち・が・う・ん・だ・よ!
じゃあ、『美女と野獣』の実写だって最後、人間の姿に戻らず野獣のままで良かったじゃん。
見た目など関係ないなら、人間と野獣の姿のままいつまでも幸せに暮らしましたとさって。
それと何が違う?
これはファンタジーなんだから、理想的なハッピーエンドでいいじゃないか。
そのハッピーエンドをファンタジーでオブラートして、どんな意味が込められているか。それに気付かぬほど見る側もバカじゃない。
それとも現ディズニーは、こうはっきりと描かないと分からないだろうと、バカにしてんの…?
何だか言ってる事とやってる事と色々矛盾を感じた。
文句も多くなり(本当はまだあるんだけどね)、改めて自分はアニメ版が好きなんだなぁ…とも再確認させてくれた。
星に願いを。
これってただ願うのではなく、その願いや夢の為に頑張る事も込められている。
頑張ったのは頑張ったけど、結局そのままでいいんなら、最初から星に願わなくても良かった。