「JAZZのカッコよさ」BLUE GIANT TSさんの映画レビュー(感想・評価)
JAZZのカッコよさ
原作未読者の視点で述べていく。
JAZZは静かでお洒落なイメージだったが、JASSの奏でる曲は良い意味で荒々しさや熱さがあって、素人ながら純粋にカッコいいと思えた。
特に良かったと思ったところは
・玉田の成長
・So Blueでの玉田のドラムソロ
この2点だった。
玉田は他のメンバーと比べて自分が劣っていると悩んだり、観客から自分だけサインを求められず落ち込んだり、等身大の青年という感じで感情移入できるシーンが多かった。
そんな中でも1人の観客が「君のドラムはどんどん良くなっている。」「成長する君のドラムを聴きにきている。」というような言葉をかけてきてくれるのは、結果だけでなく過程を見ている人もいるという希望を感じさせてくれる良いシーンだった。
そんな壁を乗り越えた玉田が魅せるドラムソロは熱い。
彼のそれまでのドラマも踏まえて感動できる今作で最も好きなシーンだ。
作画もあそこがダントツで良かったと思う。
ただ気になってしまったところが多々ある。
・3DCG
3DCGを使ったこと自体が悪いのではなく、使うのならもっとクオリティを高めてほしかった。
BLUE GIANTのキャラクターデザインが写実的な分、CGになった時の無機質感というか、人間ではない感がより目立ってしまっているように感じる。
2Dではすごく汗をかいていて熱量を感じるのに3Dになった瞬間汗の量が極端に減ったり、そもそもキャラクターの顔が変わっていたり、動きに緩急が少なく規則的すぎたりといった部分が気になった。
音楽がメインだから…という意見もあるが、“アニメーション”映画であるならばそのクオリティは大きな評価ポイントだと思う。
正直3DCGに切り替わる度にそこが気になって没入感を大きく削がれた。
・雪祈の扱い
メインの1人としてがっつり描かれてきた彼を、最終的に大が覚醒するための舞台装置として使い捨てにするような脚本が不満だった。
作中に出てきた“踏台“という言葉の伏線回収が、バンドとして切磋琢磨してそれぞれが成功を収めていくことではなく、誰かが生贄になって残ったメンバーが覚醒することだとは思わなかった。
彼の主な役割がSo Blueとのコネクション作りと大の活躍のお膳立てで、文字通り本当に“踏台”になって終わってしまったようで後味が悪かった。
・So Blueの観客の泣き顔
JASSと縁のある人たちが泣いているのを映すのは納得だが、他の観客の泣き顔を映しすぎだと思った。
彼らがそこまで泣く心理としてはもちろん演奏自体が素晴らしいこともあるが、「メンバーが交通事故にあったのに頑張って演奏している」というのもあるだろう。
しかし前述した通り、3DCG、雪祈の事故によってカタルシスを生もうとしている脚本が腑に落ちなかったので、私は感情移入できなかった。
感情移入できていない状態で観客がほぼ皆泣いているという画を見せられると、どうしてもお涙頂戴感を感じて気持ちが冷めていってしまう。
途中で僅かに子供が笑顔で楽しんでいるカットがあるが、そういった同じ感動でも違った発露のさせ方をする人間がもう少しいても良かったのではないだろうか。
・大の人間性
私は彼のルーツも知らないのでなぜあそこまで折れずに真っ直ぐでいられるのかわからなかったし、あまり共感もできなかった。
雪祈や玉田は自分の演奏で壁にぶち当たり乗り越える人間臭い描写があるため魅力的に感じるが、大にはそういう描写が無い。
天才なりの悩みや挫折を描いてほしかったが、やはり映画という短い尺では厳しいのか。
正直、玉田が主人公でその成長を追う2時間の方が私は感情移入しやすいと思ったし、あのドラムソロもより輝いたと思う。
総括
原作を読めば解消するのかもしれないが、映画だけだと引っかかる点が多々あり点数(2/19時点で4.2)ほどは楽しめなかった。
しかし要所での熱い展開は魅力的だし、音楽が良いのは間違いない。
音の良いドルビーアトモスで観て良かったと思う。