「団地やジュブナイル・ファンタジーに乗ったのはいいが、漂流したまま…」雨を告げる漂流団地 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
団地やジュブナイル・ファンタジーに乗ったのはいいが、漂流したまま…
『ペンギン・ハイウェイ』『泣きたい私は猫をかぶる』に続く、スタジオコロリドの長編最新作。
『ペンギン・ハイウェイ』は好きで、本作も魅力的な要素をたっぷり。何より気鋭のアニメスタジオの最新作。期待していたのだけれど…
タイトルからも分かる通り、団地が舞台。『ペンギン・ハイウェイ』に続いて監督した石田祐康が最もこだわった点だという。
確かに団地って、何か描ける。『団地』『海よりもまだ深く』『クロユリ団地』『中学生円山』などなど、団地を舞台にした作品は様々なジャンルを基に意外とある。
団地って、何か思い出が詰まってる。これは『海よりもまだ深く』のレビューに書いたと思うが…、私自身は団地に住んだ事無いが、その昔、祖父母が団地に住んでいて、日曜になると両親と共に会いに行っていた。近くに公園もあり、団地自体が格好の遊び場であり、団地は私の幼少期の思い出の一つになっている。
ノスタルジーを感じさせるだけなら、何も実写でいい。劇中でも触れられていた祖父との思い出とか、かつて住んでいたが今は取り壊しが決まった団地とか。
そこにアニメーションならではのファンタジーとジュブナイルを加味。
題材や設定だけなら、これはもう“当たり”!
夏休み。小学生の男子女子6人が、とある事から“おばけ団地”と呼ばれる団地へ。すると不思議な現象が起こり、大海原の異世界へ。ここは一体…?
この団地は航祐と夏芽がかつて住んでいた思い出の“家”。かつては姉弟のように仲良かったのに、航祐の祖父の死をきっかけに関係がギクシャクし、団地からも引っ越し…。訳ありの仲。
そんな団地に乗って、大海原を行く。冒険というより確かに漂流という言葉の方が合っているが、その風変わりな設定に童心ワクワク。
この団地にずっと居るという謎の少年・のっぽ。異世界で出会った謎めいた同世代は、ジュブナイル・ファンタジーの王道。
少年少女たちが織り成す友情、喧嘩、協力、淡い関係。出会いと別れ…。
団地漂流は快調なものだけではない。食糧調達、漂流団地だけではなく、“漂流学校”や“漂流デパート”の近接でピンチ。行く手を阻む嵐…。漂流ジャンル必須のサバイバル。
不思議な体験や危機を乗り越えて、少年少女たちは元の世界に戻れるか…?
一つのジュブナイル・ファンタジーとして悪くはない。
アニメーションならではの世界観や表現も活かされている。
が、難を感じたのは演出や脚本、キャラ描写、今一つ釈然としない描写などなどなど。
キャラにどうも感情移入や共感出来ない。
特に、夏芽。「大丈夫」と顔で笑うが、実際は大丈夫じゃない事ばかり。航祐との関係、クラスメイトとの関係、母親との関係。何もかも過去の思い出の中に残ったまま。
それが原因で時折皆を危機にさらす。団地が沈み始め、当初はイカダに乗り換えて避難しようとするも、残ると言い出したのっぽを見捨てられず、土壇場になって自分も残る思わぬ行動に。出会った友達を見捨てられない純粋な気持ちからかもしれないけど、それが原因で皆を危機に。迷惑な自分勝手少女に感じた。
航祐のキャラも焦点が定まらない。クラスメイトもステレオタイプ。令依菜なんて夏芽を邪険にし、人一倍ギャーギャーうるさい。
お決まりのように喧嘩して、仲直りして、また険悪になって、絆を深めての繰り返し。イライラすらした。
何か、何も学んでないと言うか、それでご都合主義のように友情物語を見せられても…。要は、キャラ一人一人に魅力が薄いのだ。
最たるは、のっぽ。掴み所が無い。人間でない事は展開していくにつれ分かるが…、正体は謎のまま。
終盤に登場した遊園地の少女も、そもそも漂流団地や大海原異世界も、謎のまま。
青い光や辿り着いた地も、“?”。
一応何となく予想は付くが…、のっぽや遊園地の少女は子供たちを見守ってきた存在の具現化。異世界大海原は現実と虚構の境。漂流団地は過去にしがみつく思い出のメタファー。最後の地は、別れ。
見る人に解釈を委ねているのかもしれないが、そんな知的なものは感じられず、丸投げ状態。
もうちょっとこの部分、しっくり来る理由付けが欲しかった。
だって見た後も拭い切れないこの不完全燃焼感。
う~ん…。
題材や設定はいいだけに、何か非常に残念。惜しい。
作品自体が漂流し、見ているこちらも漂流してしまったような…。
近大さん
厳しい評価の映画に対しても、本当にいつもちゃんと〝映画〟という媒体への慈しみが溢れてますね。
私には絶対届かない素晴らしい感性で、またまた映画よりも感動させられました。