「南米の先住民の神は生贄を求める」恐怖の報酬(1977) しろくまさんの映画レビュー(感想・評価)
南米の先住民の神は生贄を求める
冒頭、タイトルバックにマヤ文明の神様のようなレリーフが映る。原題はSorcerer。ニュアンスが難しいのだが、単なる魔法使い(wizard、女性形がwitch)よりも不吉なイメージ、そして占い師のような意味もある。
そして、この神様が、後から出てくるトラックのフロントフェイス(2台のうちポスターになっているほう)にそっくりなのである。
南米の先住民の神は生贄を求めるという…
これから始まる物語に、そんな不気味な陰を落とすオープニングだ。
南米の山奥、油田近くの村に住む、ヨーロッパやアメリカから流れ着いた殺し屋、テロリスト、強盗、破産した銀行家など、スネに傷ある男たち。彼らは一発逆転を狙い、高額報酬と引き換えにニトログリセリンをトラックで運ぶ仕事を引き受ける。
映画は始め、彼ら4人が、いかにして南米の山奥に住むことになったのかを描く。
誰もが法律や社会正義に反する行為に手を染めていて、映画は序盤、クライムサスペンスの様相を見せる。
本作は、とにかく終始、緊張感に満ち溢れている。そして後半、トラックに乗ってから、緊張感はさらにギアを上げる。
輸送ルートは南米の密林だ。
ポスターになっている壊れそうな橋のほか、崩れそうなガケ、豪雨、道を塞ぐ倒木、果ては武装したゲリラなど、ロールプレイングゲームのごとく、様々な障害が休む間も無く押し寄せる。
演出は説明的な場面やセリフを削ぎ落としたハードボイルドタッチ。しかし、クローズアップを多用し、画面は雄弁に、登場人物の苦悩や迷いを伝えている。陰影を強調したカメラも効果的だ。
さらに泥、雨、生い茂る木々、汗、巨大トラックの車体のきしみ、エンジン音、そして荷台のニトログリセリンなど。
すべてが匂い立つほどの臨場感を感じさせている。
加えて構図が見事で、絵になるショットが多く、見惚れる。
今回、観直して気付いたのは(前のバージョンとの差異かどうかはわかりませんが)、トラックを大事に撮ってるなあ、ということ。
登場人物に継ぐ役者と言っていいんじゃないかな。
出発前の整備の場面をていねいに描いているのもそうだし、その後、整備が完了し、出発前に、逆光でトラックを正面から捉えたショットなんか、「この人がこれから活躍しますよ」という感じで心が躍る。
ストーリーは登場人物たちに無情。まったく容赦しない。観ているほうの喉はカラカラに、凝視し過ぎて眼球まで渇く、それほどの超一級のサスペンス。マスターピースと言っていいでしょう。