劇場公開日 2022年6月3日

「作家としての安彦良和が解釈する寓話的ファーストガンダムとドアンの業を背負うアムロ」機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島 ミラーズさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0作家としての安彦良和が解釈する寓話的ファーストガンダムとドアンの業を背負うアムロ

2022年6月11日
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鑑賞方法:映画館

ガンダムは、いわゆるTV版のファーストガンダムから劇場版とZガンダムとその劇場版と『逆襲のシャア』までが、一番好きな人間なので、オリジン・シリーズで安彦良和氏がアニメに復帰したのを歓迎しているが、オリジンのガンダムは安彦良和氏のテイストで描かれたガンダムであり素晴らしいと思う半面戸惑いもある。

冒頭で最初のガンダムシリーズの15話の翻訳との注釈が入ってから、いきなり本編に入る構成だが、一見さんの為に簡単な背景説明があった方が良かった様な気がする。(そこもネタバレだ!と怒ってSNSに書き込む相当にアレな人も出そうだが)

個人的に心配だった、CGのメカ作画も割と良好で、手書きアニメだと、細かいディテールの書き込みが大変で省略される傾向部分を、CGモデルとして作り込むことで再現されており、メカアクションの見せ場も予想より良好なり、ドアンザクとガンダムなどの殺陣もオリジンシリーズより進化しており、割と初期のガンダムシリーズに見られた誇張の効いた動きに近くて、実際には金属製のロボットにしては柔軟性ありすぎ(多くのロボットアニメも)だが、アニメのメカアクションに必要な要素であり映画としては、中々の満足のいく出来。

キャラクターの作画は、安彦良和氏のオリジンシリーズの絵を再現されており、元ジブリのアニメーターでもある新海誠作品でもメインの作画を担当した田村篤氏の健闘が貢献していると思う。(食事の場面に少しジブリ味を感じる)
子供達を筆頭にキャラクターの表情も芝居も豊かで、とても上質な出来。
特に子供の動きは安彦氏のデザインを、子供達の描写や絵に定評のある名アニメーターで『耳をすませば』の監督でもある近藤喜文氏のテイストも少し感じている。
ちなみに田村篤氏はジブリ入社時に近藤喜文氏の指導を受けていると以前観たジブリ広報動画証言あり。(しかし近藤喜文監督は亡くなるのが早すぎで本当に残念だと思う)

ネタバレあり

前半の導入部でアムロとブライトの関係や心境を、ブライト側から見せる場面は、有名なセリフ(殴られたあとのアムロ)とも共に安彦氏の解釈が入っているのは新鮮で興味深いが、その後中盤までガンダムを探すアムロと島の住人達のドラマがメインになり最近のアニメ映画などと比較するとあまり大きな起伏がないので、人によっては、退屈する可能性はあると思うか、個人的に描写も作画もオーソドックスだが、画造りに力があり飽きずに観れると思う。

後半で、三途の川の様な光景(破壊されたMSは死者)の海底で溺れて、死にかけてから蘇生したアムロが、海底基地に侵入してきた、ジオンのパイロットを、警告も無くガンダムで踏み潰して殺害する場面は、ショッキングで、最初は違和感でしたが、思い起こすと『逆襲のシャア』でも、偶然に出会った宿敵でもあるシャアが丸腰にも関わらずその場で射殺を試みるところなどの合理的思考(シャアは勝負こだわるロマンチスト)があり、今回の映画で、テレビシリーズの捨て回と一部で揶揄されている15話の『ククルス・ドアン島』を映画として定義する意味として、アムロを兵士として覚悟を再定義してると思う。
(兵士は軍属で、命令によって敵を倒す(殺す)者で、思想や信念を担う戦士とは異なる)

ジオンの優秀な兵士であるドアンは、兵士としての血生臭い戦場から抜け出して、難民の子供達を世話しているが、未だに過去(象徴としてのザク)を捨てきれず、業を背負った男で、今回はアムロがそれを受け継ぎ、ザクを捨てる事でドアンを解放する物語でもある。
その過程でアムロは明確に生身の人間をガンダムで殺害する事で業を背負う。

ちなみに瀕死の状態から蘇って敵を倒す復活と再生パターンは、過去に多くの活劇に取り入れられている手法でキリストの復活が、元ネタとも言われている。(クリント・イーストウッドの映画は殆ど、このパターンを取り入れている)

元々アムロは戦争に巻き込まれて、止むを得ず生きる為に戦い、少年兵としてニュータイプに覚醒して行くが、ララァと出会うまで流されていて明確な大義・思想を持たない珍しいキャラクターだが、終盤にはニュータイプを戦争道具として使うジオン(ザビ家)打倒を明確な意思で持つ戦士へと変わる。
補足ですが当時のロボットアニメの主人公としてです。(現在のキャラはもっと複雑な背景を持っている)

この後のアムロは、戦士としてのちの『逆襲のシャア』にて家庭を持たず(小説版では結婚もして子供もできる)に、戦場に消えてしまうのと、対象的にドアンは、子供達と生活を続けていくコトも暗示されたエンディングになっている。

声優について
今回のキャスティングは、オリジナルからアムロ役の古谷徹氏ととカイ役の古川登志夫氏が、衰えぬ声と演技を披露してくれて、他の配役もいわるゆるプロの声優キャストで、お馴染みのホワイトベースクルーもオリジンからの登板者で占められていたので、ノイズがなく安心して観ることが出来たのは、多分安彦氏の見識だと思う。(Zガンダムの時のゴリ押し芸能人キャストは勘弁)
特にククルス・ドアン役の武内駿輔氏の若手なのにベテランの風格と頼り甲斐のある声には脱帽する。(もっとも2021年10月期のテレビアニメ『先輩がうざい後輩の話』に偶然ハマっていたので存じておりましたが)

気になるところは、サザンクロス隊の扱いが、一応強敵感を出していて、ジムやガンキャノンを血祭りする場面があるので、一応次第点だと思ってますが、掘り下げは弱くステレオタイプなキャラ(サイコな奴とか)も見受けられるもあり、扱いも含め少しヒネリがあっても良いと思う。
ドアン達の生活場面にもう少し濃密かつリアル見えるカットが入っていた方が、難民設定にも更に深みが出たと思う。(住んでいる灯台の状況を前半にも入れたり食料や物資の不足や補充などを描写はもう少しあってもいいと思う)
一つの映画として観ると、キャラクターもあまり変化なく、アムロ以外は割とコメディリリーフになっており、ヤギ🐐の件は急にギャグ調になるのはどうなんだろうと思う。変化については元々が連続ドラマなので、ここで変化が多いとのちに辻褄問題がでるので、仕方がない部分もあるが。

メカについて
CGのメカ作画も割と良好なのだが、ガンダムとザク以外のWBのモビルスーツが殆ど役立たず状態なのは残念で特にガンキャノンの2体はもう少し見せ場が欲しかった。(最初の子供達との絡みを発展させて、子供を守るとか描写とかでもあれはヨシ!)

監督について
安彦良和監督の久しぶりの本格的映画作品としては、十分な出来で佳作だと思うが、今回の安彦氏の演出はオーソドックスで、テンポよりじっくりみせる手法なので、その辺が賛否分かれるがと思うが、子供達を描くのに昔から定評があり、原作者としても『わんぱく大昔クムクム』や『巨神ゴーグ』などの少年少女が主役の作品を手掛けており、漫画家の時の歴史大河人間ドラマ的方向のガンダムと融合していると思う。
個人的には本作と対象的なバイオレンスな見せ場とアクションを満載した初劇場監督作のSFアニメ『クラッシャージョウ』もお勧めかな。

余談ですが『巨神ゴーグ』の主役の少年に当時ギャグアニメのキャラを演じるコトがほとんどだった声優の田中真弓さんをシリアスな役柄の主役に起用して、その後の躍進に繋がったのは慧眼でした。(それ以前は、人気がなくイベントに出るとヒドいヤジを受けていたと本人の証言あり)

ファーストガンダムを簡単に知るには、80年代のテレビ版を元にした映画版3本(Netflixなどで配信されてるオリジナル公開版が絶対的のお勧め)の第1作目を観ると今回の作品に入りやすい。

本作は作家としての安彦良和が解釈する寓話的なファーストガンダム再定義とドアンの業を背負うアムロの物語を上手く纏めて、計らずも近年の戦争難民の問題ダブり観る価値は充分にある作品だと思う。

おまけ
映画版以外のファーストガンダムのテレビ版で個人的にお気に入りの回について

第8話「戦場は荒野」
民間人を下ろす為に一時的に休戦するストーリーにジオン軍兵士と故郷に向かう母子のドラマをコンパクトにまとめた人間ドラマ。
第14話「時間よ止まれ」
本国に帰還する為にガンダムに爆弾を仕掛けた、若いジオン兵とそれを除去するアムロのドラマ

どちらもククルスドアンの島にも通じる良質な戦争場秘話。

第23話「マチルダ救出作戦」
輸送部隊を襲うモビルスーツ「グフ」と要撃輸送爆撃機「ドダイYS」部隊の機動力に大苦戦するガンダムに、新型機Gファイターとのコンビで戦闘場面は作画の中村一夫氏の太く力強い絵柄とマッチしてグフとの死闘を盛り上げるアクション編。ところどころあるキレの良い動きや、ダイナミックな殺陣は、劇場版にない見せ場。(中村一夫作画はカッコいい)

第25話「オデッサの激戦」
劇場版では殆どカットされたオデッサ作戦の戦況を左右した裏側とホワイトベース部隊の激戦を描く回で、かなりの内容が詰め込まれていて、2~3回で語れる要素を、20分にまとめた力技が凄い。(しかし皆アムロに頼り過ぎ)

第39話「ニュータイプ、シャリア・ブル」
ジオン側のニュータイプとして登場するシャリア・ブルの政治と戦争の思惑に翻弄される男の姿を本筋と絡めて描いた良編。(安彦良和氏の漫画版とはシャリア・ブルの扱いとかなり性格が違う)

ミラーズ