劇場公開日 2022年6月10日

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「現代的な若者像を切り取りつつ、痛みを写す…畑の違う監督だからこそ生めた傑作」わたし達はおとな たいよーさんさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0現代的な若者像を切り取りつつ、痛みを写す…畑の違う監督だからこそ生めた傑作

2022年6月15日
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鑑賞方法:映画館

怖い

知的

幸せ

今年の暫定ベスト。言葉を「乗り物」と例えることがあるが、それはきっと思いがけないモノを引っ張ったり、閉じ込めることで生まれるから。加藤拓也監督はやはり、映画でも魅せてくれる。

確かに今作は『猿楽町で会いましょう』枠で間違いないんだけど、個人的にはそれよりトラウマな映画。人間の鋭利な1面をチラつかせつつ、現代的な若者像を作り上げる加藤拓也監督のセンスが素晴らしい。

本作は「隠し撮り」のようなアングルから、様々な出来事と変化を写していく。これはたぶん、映画畑ではないからこそ出来るモノでもあると感じた。演者の作り上げた空気をそのままパッケージ化しようと試み、空間全てに流れる緊張感を引き出すのは舞台に近い。しかも時系列はバラバラで、複雑化している。フレームの切り替えだけで判別をしろというのは確かに容易ではない。だが、静かにはびこるジェンダーバイアスと無垢なあの頃を観てしまったら、途方も無い感情に駆られる他ない。

私たちが見た誰かの姿は、出てくる彼女たちが知っているとは限らない。それによって感情が転がり増幅する。いままでの彼や友達との話、そこで作られた経験やキャラが多面的で人間的。そういう意味では、ラストの静かな凄さを今、ヒシヒシと感じている。

主演は木竜麻生さん。『初情事まであと1時間』では初心な大学生だったが、こちらで見せる感情のグラデーションが何とも凄い。喜怒哀楽に押し引き、時期をくっきりと浮かばせる変化は驚くばかり。そして、藤原季節さん。本当に嫌になりそうだった(笑)。そう思わせる造形の深さはさすがだし、邦画で重宝されるのも納得。森田想さんや山崎紘菜さん、石田ひかりさんなど、節々に光る豪華なキャスティングも作品の魅力を底上げしていた。

「妊娠」だけがきっかけだった、はず。その節々で問いただされる「おとな」は一体何を持って認められるのだろうか。漠然としたボーダーと、変わりゆく想いに触れながら、愛の行方をまた観たいと思ってしまった。

たいよーさん。