劇場公開日 2021年12月3日

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「ひねりが効いて観ごたえがあった」スティール・レイン 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5ひねりが効いて観ごたえがあった

2021年12月6日
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鑑賞方法:映画館

 序盤の衛星写真に日本列島がなかったので、沈没したのかと思ってしまった。その後の写真にはちゃんと映っていたので、大きな雲に隠されていたのだろう。
 独島(竹島)が韓国の領土なのか日本の領土なのかは当方はわからないが、本作品では韓国の領土だとする意見が強いように扱われていた。日本の外務省のHPを見ると日本固有の領土だとされている。しかし韓国の領土だという可能性もある。そもそも世界史では領土は絶え間なく変遷している。どちらの国の領土なのかは歴史のどの時点を基準にするかによって変わってくる訳だ。中国はかつての歴史上の領土を取り戻そうとしているという報道がある。朝貢国まで入れるとインドシナ半島のほとんどが中国となる。沖縄も中国だ。

 尖閣諸島の領有権の問題は日中国交正常化以来、ずっと棚上げにされていた。国交が成立して相互に経済的な利益が生まれた以上、両国の間に戦争は考えづらく、あえて問題にするべきではないという大人の結論に達した訳だ。ところが東日本大震災の復興もままならないうちの2012年に、当時都知事だった石原慎太郎が尖閣諸島を買うなどという馬鹿げた発言をしたのである。右翼政治家の面目躍如だとでも思ったのだろうか。
 当然、その動きは中国の反発を招いた。尖閣諸島の領有が不問でなくなり、軍事的な問題になってしまった。中国の軍人が反発したのである。独島の問題と同じで、領有権を問題にするのは軍人たちだ。世界的に国家観が安定した現代では、軍人がいるから衝突が起きる。 他国との衝突に対応するのが軍人で、平和が続いてしまうと税金泥棒として非難される。場合によっては人員が削減され、失職する軍人が出るかもしれない。国際紛争は軍人にとって生き残るための唯一の術なのだ。だから軍需産業と一緒になって武器を作り、弾丸や爆弾を消費する。

 本作品は朝鮮半島とその近海が舞台だけあって、韓国政府と北朝鮮政府は多面的で複雑に表現されている。日本の描き方も客観的だ。いろんな方面に気を遣いながらの映画製作であったことが伺える。
 主人公はハン韓国大統領で、演じたチョン・ウソンは背が高く筋肉質の二枚目である。ハン大統領は失政もあるが、真面目に職務に取り組んでいる。支持率のために仕事をしていないところに好感が持てる。
 北朝鮮の三代目の若い指導者は実際と違って痩せていて、こちらも真面目に職務に取り組んでいるが、喫煙習慣が残っていたりと、いかんせん時代遅れである。インターネットでどれほど情報を得ても、生活習慣そのものが変わらなければ時代遅れなのだ。北朝鮮問題を解決するのは政治ではなく、文化交流であり経済関係であろう。
 トランプを模したと思われるアメリカ大統領は、実際よりもずっと洞察力があり、状況を瞬時に分析する。一方で、軍事では解決しないと知っているにも関わらず、米韓合同演習を実施する。大統領といえども軍部の圧力をすべて押さえつけられるわけではない。ビジネスマンのトランプは多分、心の底では軍人を軽蔑していたと思う。しかし軍事力は信じていた。

 本作品では軍隊も決して一枚岩ではないことを示す。人間の集まりだから当然だ。多様な人間が集まって、能力と適性によって部署に振り分けられる。同じ部署でも能力と適性に差があるのは民間企業と同じである。エキスパートがいて、ジェネラリストがいる。優秀な人と普通の人たちと低能の人がいる。2対6対2の法則は軍隊にも当てはまるだろう。
 北朝鮮海軍の人間関係が潜水艦内の緊迫した状況で描かれる。一蓮托生の潜水艦の中で、対潜哨戒機や他の潜水艦との魚雷戦が繰り広げられる一方で、軍人や要人の争いがあるのだ。これで盛り上がらないはずがなく、後半は目を離せない展開だ。
 韓国のアクション映画は、ハリウッドの一本道の作品と違って、ひねりが効いている。本作品もとても見ごたえがあった。ただハン大統領の知性に欠けた暴力的な奥さんはいただけない。もう少しマシな奥さんにしないとハン大統領が気の毒だ。

耶馬英彦