「こんな邦画をさがしていた」さがす 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
こんな邦画をさがしていた
本作を見たかった理由が二つ。
“主演”と“監督”。
佐藤二朗と言うと、すっかり福田バカコメディでのアドリブ全開おふざけ演技が定着。笑えるが、最近はうんざり飽きてもきた。
本来は実力ある俳優の筈。ムロツヨシも然り。
福田バカコメディでは萎縮するようなお笑い担当に追いやられるも、ひと度福田バカコメディを離れれば…。
本作が長編2作目で、初の商業作。
デビュー作の『岬の兄妹』に衝撃を受けた者としては、片山慎三監督はまた一人新たな気になる存在となり、この新作も今年の期待作の一つだった。
佐藤二朗の実力をたっぷり堪能。他のキャストも熱演。
片山慎三監督の手腕はさらに飛躍。
話の面白さ、構成の見事さ。
期待は違わず。いや、期待以上!
大阪。二人暮らしの父・智と娘・楓。
智は卓球教室を開いていたが、潰れ、今は日雇労働。生活は貧しい。妻/母を亡くしたばかり。
たかだか20円足りないだけで万引きした父に、楓は呆れ…。
その帰り道、「指名手配中の連続殺人犯を見た。捕まえたら懸賞金300万」と智。
相手にしなかった楓だったが、翌朝、父が姿をくらまし…。
父をさがす娘。工事現場で父の名を騙っていた若い男…。
見覚えが。父の言っていた連続殺人犯・山内。
追うも、逃げられ…。
が、山内の遺留品からある小島に辿り着く。
何か事件があったようで、古民家で倒れていたのは…。
3幕+α構成。いずれも“さがす”がキーとなっている。
まず、楓の視点。
ここはシンプルに、父をさがす。
連続殺人犯を見かけ、捕まえると言っていたが…?
まさか本当にやるとは…。
呆れもあるが、心配も。何か事件に巻き込まれたら…?
警察は全く動いてくれない。自分でさがす。
学校の先生や同級生男子も協力してくれるが、音信不通だった父から突然連絡が。
“探さないでください”。
私は捨てられた…? 怒り、悔しさ、悲しみ…もうイライラして、ムシャクシャして、感情が抑え切れられない。
可愛い娘ではあるが、跳ねっ返りが強く、毒舌な面もある。
『空白』では薄幸な役柄だったが、本作では強かな関西娘を、伊東蒼が熱演。2作続けてKO級ハード・サスペンスで重要な役所。まだまだ10代ながら、確かな演技力と存在感は末恐ろしい。
そんな中で見つけた父に繋がるかもしれない手掛かり。指名手配の男。
商店街や路地裏チェイス、毒牙を向けられそうになるも、その果てに辿り着いた小島。
見る側も楓と一緒になって父をさがし、謎が謎を呼ぶ。
一回だけじゃなく二度見返すと、開幕ですでに父の計画が…など伏線張られ、それがしっかりと“真相”に繋がる。楓のラストの“見つけた”にも深みが効いてくる。
3ヶ月前、山内の視点。
彼もまたさがしていた。“ターゲット”を。
SNSを通じて自殺志願者をさがし、接触。
相手は死を望んでいる。だからこれは“人殺し”ではなく、“人助け”。
報酬も貰って、完璧なビジネス。
肯定的な事を言ってるが、実際は…
ただ欲望の赴くままに人を殺したいだけ。山内は快楽殺人者。
“人助け”などではなく、ゾッとするれっきとした“人殺し”。
また一人、死を望む格好のターゲットが。
が、思わぬ邪魔が入って失敗。
逃亡。逃げに逃げ、ある小島に流れ着く。
そこであった老人に施しを受けるも、殺害。
再び都会に戻り、ある人物と再会…。
この山内のキャラは実際の事件や殺人犯がモデルになっており、確かにあれやこれや彷彿させる。
最もらしい事を言いながら、異常な殺人鬼。殺した相手(女性)に白いソックスを履かせ、オ◯るという変態気質。
清水尋也が怪演。
13ヶ月前、智の視点。
ここで伏線が繋がり、事件の背景や計画の全てが明らかになる。
智は悲しみ、苦しんでいた。
妻・公子が難病“ALS(筋萎縮性側索硬化症)”を患い、他人の手を借りなければ何も出来ず、智は親身に介護をしていた。
智は介護にうんざりし、嫌気が差していた訳ではない。妻を愛しているから。
妻が苦しんでいた。自分の力で動く事が出来ない。娘と大好きな卓球ももう出来ない。
こんな人として生きているのか分からない身体なら、いっそ…。
妻は望んでいた。死にたい。
妻は懇願した。殺して。
勿論智は真に受けなかったのだが…
智は知ってしまう。SNSに上げられていた本当に死を望む妻の声を。
智は目撃してしまう。動かぬ身体で自殺を図ろうとした妻の姿を。
智は悲しみ、苦しんでいた。そして、さがしていた。どうすればいいのかを。
ある時妻の望み通り、妻の首に手を掛ける。が、思い直す。無音になり、智は激しく泣き喚く。
この時の佐藤二朗の演技が絶品。激しく感情揺さぶられた。
全編出ずっぱりかと思いきや、開幕早々姿を消し、前半は出番ナシ。が、後半からは…
十八番のユーモアもある。
人間味もたっぷり。
滲ませる悲哀は並みの役者の比ではない。
狂気も孕む。
圧倒的に場をさらい、その動向、演技から目を離せない。
間違いなく佐藤二朗のキャリアベスト!
うんざりしていた福田バカコメディでの迷演を払拭させる熱演を、遂に魅せてくれた!
年末の映画賞、私なら主演男優賞を彼に一票投じる!
妻より先に自分が壊れそうになりそうだった時、出会ったのが…
山内。
この出会いも偶然だったのか、それとも端から山内が“ターゲット”として近付いてきたのか…?
苦しみ、妻の事、全てを打ち明ける。
山内が提案する。勿論最初は断るが………、山内は言葉巧みに、悩みに悩んだ末に、彼にお願いする。
そして、妻は逝った。山内によると、最後は笑みを見せ、安らかに。
本当に、これで良かったのか…?
遺影と遺骨を抱えて、葬儀の帰りの智と楓。
娘は泣いている。本当の事は知らない…話せる訳ない。
もし、知ったら…?
これは“有料コンテンツ”であって、無料ではない。後日報酬を渡しに言った時、山内から誘われる。
一緒にやりませんか?
何を?…なんて愚問。決まっている。
人殺し。山内曰く、死にたい人の望みを叶える“人助け”。
冗談じゃない!
が、再び山内に丸め込められ、多額の報酬に揺らぎ…。
ここから智の歯車が狂い動き出したと言えよう。
驚くべき事に、世の中には死を望んでいる人が大勢いる。
そんな人を、山内が用意した複数のアカウントを使ってコンタクト。実行は山内が。
やってみたらそう難しくはないが、報酬が期待ほどでは…。
そんなある日、山内が連続殺人犯として全国指名手配に。
やはり、騙されていたのだ。人助けなどと言っといて、殺人に加担させられていたのだ。
じゃあ、妻も…? 妻が死を望んでいたのは確かかもしれないが、それをいい事に山内の快楽の為に妻は殺された…?
今更悔やんでも悔やみ切れない。山内は外道だが、それに加担した自分も…。
暫く経ったある日、山内と“再会”。
騙され利用されていたこちらが今度は騙し利用する番。
山内を匿い、以前彼が殺し損ねた女性が死を望んでいると“人助け”を持ち掛ける。
その自殺志願者から300万円、山内に掛けられた懸賞金300万円、計600万円を手に入れる計画。
とは言え完璧な計画ではなく、山内に疑われて必死さをアピールしたり、実行中思わぬトラブルが起きたりと、智の人柄のような不器用計画がユニーク。
開幕智が言っていた「指名手配犯を見た」はまんざら嘘ではなく、この時すでに計画を進行させていた事や、“楓パート”のすぐ裏で智が近くにいた事や、山内が智の名を騙っていた事や卓球教室に居た理由も明かされ、これらを知った上でもう一度見たくなる。
山内の指示で小島の古民家へ。
山内が“人助け”を終えた後、隙を付いて彼を撲殺。さらに自分で自分の腹を刺し、“自作自演”。
そして娘も自力でこの島に辿り着く。
全てが繋がり、智も念願の大金を手に入れ、めでたしめでたし…とはいかないのが、ミソ。
片山監督はあのポン・ジュノの下で映画を学んだだけあって、確かに演出、作風、バイオレンスやエロスのインパクト、構成力、物語の見せ方…韓国サスペンスの影響大。“邦画ハード・サスペンス韓国風味”って感じ。
でもそれを単なる真似事や二番煎じではなく、しっかり自分の作品にしている手腕が素晴らしい。
智の心の闇。
山内の心の病み。
楓の心のさ迷い。
メインキャラの掘り下げだけではなく、さりげない人のゲスさや意表を付いたキャラ描写も面白い。
例えば楓、先生の自宅で世話になり、空になったゼリーのカップをマンション入り口に置いていく。
シスターの慈悲あるとは思えない言葉。楓のあの行為も分かる気がする。
山内を泊めた小島の古民家の老人の趣味は、AV収集!
自殺志願者の女性・ムクドリが特筆。「私なんて要らない人間だから」と死を望みつつ、毒舌で面倒臭い性格。人の弱さ、脆さ、気の強さ、森田望智の好助演と共に印象的。
退院してから土に埋めたムクドリの報酬を取りに。が、300万円の筈がたった6万円…。
警察から疑いを掛けられるが、疑いも晴れ…。
犯人逮捕の功績として念願の懸賞金を貰い、卓球教室を再び開いて、また穏やかな生活が…。
ある物を見つける。“人助け”の時に使っていたアカウント。アクセスすると、まだ自殺志願者が…。
悩んだ末、コンタクト。懸賞金を貰ったとは言え、生活はまだまだ貧しい。今後や娘の為。
一度手を染め、しめた味。人間の哀れな性。
が、待ち合わせに現れず。これで良かったのかも…。
しかし智に、衝撃的な行いへの罰が待っていた…。
ラストシーンは、娘と卓球。
打ち合いながら、楓が意味深に聞く。
察した智。「お前だったんか?」
アクセスしてきた自殺志願者は、楓。
無論自殺を望んでいる訳ではない。
楓はある時手に入れた山内のスマホから、山内と父の“人助け”を知ってしまったのだろう。
父を試し、信じたかったのだろう。
が、父は現れた。
さがしてさがして見つけた父。その父は、許されぬ罪に手を染めていた…。
近付いてくるサイレンの音。楓が呼んだのか定かではない。
智は罪を認め、自首したのか。それも定かではない。
ラストは憶測や見た人の解釈それぞれだが、印象的な終幕が。
見事な球の打ち合いをしていたが(このシーン、本当に佐藤二朗と伊東蒼が打ち合いしてたら、凄い!)、再開した時、球ナシで打ち合う。
卓球は父と娘、亡き母も含めたこの家族の象徴。
これは何を意味するのか…?
私は今もその答えをさがしている。
この面白さ、巧みさ、見応え、余韻、演出・脚本・演技など作品のクオリティー。
個人的に、『流浪の月』と並んで今年の邦画のBEST候補!
こんな邦画をさがしていた。