劇場公開日 2022年1月21日

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「複数のジャンルをミックスした構成」さがす 悶さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0複数のジャンルをミックスした構成

2022年6月1日
PCから投稿

【鑑賞のきっかけ】
本作品は、映画ファンの間で評判が高いのは知っていたものの劇場での鑑賞は逃していた作品。
今回、動画配信が始まったので、早速、鑑賞してみました。

【率直な感想】
<どんなジャンルの映画なのか?>
題名が「さがす」であり、公式HPなどのあらすじからすると、父と娘の二人暮らしのところ、佐藤二朗演ずる父親・原田智が失踪するお話。
失踪ものは、ミステリのサブジャンルとして定着しているものなので、「ミステリ」作品か?と思いつつ鑑賞開始。
冒頭、男の姿が、リストの「愛の夢」のBGMが流れる中、映し出されます。
私は、このシーンは重要なのではないか、と感じました。
「ミステリ」作品であるとするならば、本編が始まる前のちょっとしたシーンに、後の展開で重要となる事柄(いわゆる「伏線」)が潜んでいることが多いからです。
本作品でのこのシーンの意味合いは、このレビューでは敢えて触れません。

さて、本編が始まると、父親が早々に失踪し、娘が彼を必死に探し始めることで、やはり「ミステリ」作品と感じられる展開となります。
じつは、あらすじ紹介には触れられていないのですが、本編開始直後のシーンで、原田智がスーパーで万引きをしてしまい、娘が身柄を引き取りに行くのです。
結局、商品が低額だったので、代金を支払うことで店との示談が成立し、帰宅を許される。
これはその後の展開として重要です。
つまり、父親の失踪届を警察に提出するが、「事件性」がないということで、捜査はしてくれなさそう。
娘は、「事件性」を探り当て、警察に訴えるが、真面目に取り合ってくれない。
なぜなら、失踪した父親は万引きをしていたから。
犯罪者なので、優先順位は低いということです。
これで、この物語は、「ミステリ」ではあるけれど、警察が介入してこない中での、「父親探し」の物語となるのだ、と感じました。

<多様なジャンルを包含>
さて、上記までだと、本作品は、「ミステリ」作品となる訳ですが、じつは、失踪の直前、父と娘のやり取りの中に、親子ならではの、心の交流が描かれ、「人間ドラマ」としての要素も取り入れていることが分かります。
また、時間軸を遡り、現在は、一緒に暮らしていない、父・原田智の妻との心の交流が描かれるシーンが展開し、ここは、「シリアスな人間ドラマ」になっているのです。
さらに、あらすじ紹介で想像がつくと思われますが、「サイコ・ホラー」を思わせる展開も用意されています。

このように、本作品は、単純な「ミステリ」作品ではなく、「人間ドラマ」などの要素も取り込んだ、ミックスジャンル的な作品であるということができると思います。

<評価の難しい点>
それでも、後半は、「ミステリ」作品の要素がどんどん強くなっていき、特に、ラスト30分くらいになると、意外な展開が連続し、この作品のオチは果たして?という見どころ満載のものとなっていきます。
この辺りは、本作品が高く評価されている理由だと思われ、私も評価したいです。

しかし、私としては、「人間ドラマ」パートが、「ミステリ」パートを純粋に楽しむのを妨げてしまったように感じられ、少し残念な気持ちを抱いています。

つまり、物語展開が意外であればあるほど、前半で描かれていた人物像と乖離していってしまう。
特に、主人公の父・原田智の選択した行動は、とても意外であったけれど、では、この人物の真の姿、本音としての人生観、世界観は何だったのだろう?
そんな疑問が生じてしまい、それが解消されないままラストを迎えました。

【全体評価】
「ミステリ」「人間ドラマ」「サイコ・ホラー」とそれぞれの要素が強烈なインパクトで観客を惹きつけるという点では優れた作品と思いました。
先述の「前半で描かれていた人物像と乖離」という部分は、原田智の人間性が様々な出来事の中で変化した、つまり、そういう人間の心の移り変わりがテーマと捉えることも出来るかとは思います。
ただ、私は、ネタバレになるので書けませんが、ストーリー全体を通してみると、その心理状態にどこか腑に落ちないものを感じてしまい、主人公の気持ちに完全により寄り添うことはできませんでした。
この点が、少々残念な部分でした。

悶
琥珀糖さんのコメント
2022年8月16日

共感とコメントありがとうございます。
そしてフォローして頂きとても嬉しいです。
私も悶さんをフォローしたいと思ってました。
ありがとうございます。

ご質問の
〉ミステリー好き!
はい、大好きです。一時期翻訳ミステリーに凝っていました。
本を読むより映画を観てしまいますが、米澤穂信が最近は
好きな作家です。
この映画「さがす」
私も配信されてたので観ました。
悶さんのレビューを拝読して少し分かったのですが、
〉ミステリー要素の人間ドラマの2つが混ざり合っている。
佐藤二郎の後半の行動・・・ラストも、
(卓球シーンは上手いと思うましたが)
原田智の人間性が壊れてしまいますね。
そのあたりが原田に共感出来ない理由。
悶さんのレビューで解き明かされた気がしています。
拙レビュー、もしお時間ありましたら読んで頂けたら嬉しいです。
悶さんのような緻密な思考力が私には不足していますので、とても勉強になります。
よろしくお願いいたします。

琥珀糖