劇場公開日 2022年1月21日

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「スリリングな展開に目を離せない」さがす ありのさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0スリリングな展開に目を離せない

2022年3月6日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 物語は前半と後半でざっくりと切り分けることが出来る。
 楓の捜索を描く前半は、正直な所、割とコメディライクな演出があり、今一つ本腰を入れて観るという所までいかなかった。
 ただ、後半から物語の視点は楓から失踪した父・智に切り替わり、時間軸も過去に遡って彼の失踪後の足取りがサスペンスフルに解き明かされていく。ここから画面にグイグイと引き込まれ、結果的に最後まで面白く観ることが出来た。
 実はこの映画、オープニングからして奇妙な始まり方をするのだが、この場面を含め前半のストーリーは全て後半の伏線になっていたことに気付かされる。まずは、この巧みな構成に唸らされた。

 また、今回の事件の裏側からは、ネット社会の闇、格差社会の弊害、介護ケアの限界といった問題が透けて見えてくる。ある種ジャンル映画でありながら、そのカテゴリーに収まらない、社会派的なテーマを扱った所に見応えを感じた。作品に奥行きがあり鑑賞後に色々と考えさせられた。

 監督、脚本は「岬の兄妹」で鮮烈な長編監督デビューを果たした片山慎三。前作は社会から疎外されながら生きる障碍者兄妹の悲惨な日常を描いたインディペンデント作品だった。好き嫌いがはっきりと分かれる問題作だったが、その彼が本作で本格的に商業映画デビューを果たしている。

 前作ほどのインパクトはないものの、人間の業や社会の病巣に迫ったところは前作同様、野心的である。商業映画だからといって作風をマイルドに収めるのではなく、描きたいテーマをとことん追求した所に氏の作家性が感じられた。おそらくこの作家的資質は、自身が助監督を務めたポン・ジュノや山下敦弘といった映画作家から強い影響を受けているのだろう。

 演出は粗削りだった前作よりも洗練されており、進化の一途をたどっているという印象を持った。
 例えば、序盤で楓が万引きをした智を迎えにスーパーに駆け付けるシーン。監視カメラの画面を巧みに使いながらさりげなく表現して見せるあたりは中々スマートだ。
 あるいは、智の尋ね人のチラシを剥がすと、その下に連続殺人犯の指名手配のポスターが現れる、といった演出も中々心憎い。
 ラストのロングテイクも見せどころを分かっているという感じで引き込まれた。

 一方で、前作「岬の兄妹」の学校のシーンのように、明らかにギャグとして演出しているようなシーンも散見される。
 例えば、自殺願望者ムクドリが中々死ねないというのは、シリアスな場面を壊すような破壊力に満ちているし、連続殺人犯の青年を保護した島の老人のキャラクター造形、並びにその顛末はほとんど悪ノリに近いユーモアが感じられた。ある種ブラックなテイストと言えるのだが、このあたりはポン・ジュノ監督譲りかもしれない。

 加えて今回は抒情性を漂わせた演出もわずかに見られる。楓と智の父娘の情愛もさることながら、個人的には智とムクドリの関係にそれを強く感じた。特に、トイレで智がムクドリに服を着せてやるシーンには思わず涙腺が緩んでしまった。なぜなら、その手前で描かれた智と妻の関係性が、このシーンに重なって見えてしまったからである。これは作劇の上手さも奏功しているよう思う。

 一方、唯一本作で不満に思ったのは楓と母親の関係である。劇中に楓と母親が絡む描写は一切なく、果たして母の死を楓がどう受け止めたのかよく分からない。おそらくひどく悲しんだのだろうが、具体的な描写がないため、その心中は推し量るしかない。ドラマの根幹を成す一つだと思うので、ここはぜひ描いて欲しかった気がする。

 ともかくも、このように片山監督の演出は更に洗練されており、それによって作品の重厚感も前作より数段増しているという印象を持った。確かに万人受けする映画とは言い難い。しかし、今後の氏の活躍がますます期待できそうなクオリティの高い作品であることは間違いない。

ありの