劇場公開日 2022年1月21日

  • 予告編を見る

「満を持して封切られた邦画新時代、片山慎三監督のしぶとさが光る」さがす たいよーさんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5満を持して封切られた邦画新時代、片山慎三監督のしぶとさが光る

2022年1月26日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

怖い

興奮

知的

邦画のこれからを片山慎三監督に託したくなる、そんな今年のベスト。あらゆる角度が浮かび上がらせる人間の渇望が、この3字で帰結する。世界に行く監督の片鱗を観た。

私がミニシアターにハマりたての頃、初めてポレポレ東中野で観た作品が『岬の兄妹』だった。その頃は、嫌なモノを観たのに、不思議と人間の臭みがあることを感じた記憶。我ながら選球眼があるな…と自負。笑 それから。商業デビューとなった今作。更にパワーを蓄えてとんでもないモノを生み出してくれた。

すごく導入はシンプル。何度も劇場で観た予告にある様に、父は懸賞金300万円をかけられた犯人を見つけたと言う。そして、姿をくらました。娘が父の名を聞いて辿り着いたのは、父が見つけた指名手配犯で…。その続きを見ていく度に訪れる衝撃と秘密、そして、その言葉の意味にただ言葉を失う。

片山慎三監督の面白い所は、映画に何層ものカラーを重ね、単なるドラマで片付けない所だ。邦画好きなら聞いたことのある、高田亮と小寺和久が脚本に名を連ね、重層的なプロットに更なる色を加える。その中にいくつもの工夫が施された画が展開されており、作品の太さを上げていく。内容は重くなるはずなのに、関西弁特有のテンポと柔らかさが飽和する。よって、そのドラマのギミックにひとつひとつが衝撃としてガツンとくる。そしてラストまで切らさない。そこが監督の最大の強みであり、邦画の在り来たりを塗り替える強さを兼ねている。

また、西成を中心としたロケーションにも感服する。これまでも格差や個々の生きづらさを街の中に落とした作品はあっただろうが、今作は違う。あくまで因果であり、この構造の問題のみを痛烈に写し出す。あくまでドラマの中で起きた事に終始するが、その色の引き具合が何とも絶妙。作品の面白さを増幅すると共に、本質を突いてくるのだ。

そして何より役者が素晴らしい。佐藤二朗は「パブリックイメージとは違う役」と自らパンフレットで言っていたが、今は彼以外ハマらない。監督が当て書きしたという脚本に、彼が持つユーモアとシリアスさが混じっていて、妥協がない。その鋭さが作品の幹となって価値観を揺らしてくる。また、伊東蒼も見事。『空白』では穴を開けた彼女だが、今作は父が作った穴をさがす役どころ。細かな仕草や表情が台詞の想像を掻き立てる。その中に等身大な姿を浮かばせ、幼さも滲む。次の清原果耶になると言っても過言ではない。更に、清水尋也や森田望智も憑依ぶりが凄い。凄くスタッフ自身も「託した」キャストによって出来たモノだと感じる。単に、「モネ出てた3人」とかで片付けちゃダメなやつ。笑

グルグルと、手を変え品を変え、映画の色を多岐に魅せる。その器用さとブレない強さが今も衝撃と共に回る。ああ、コレは誰かと語りたい…。

たいよーさん。