「探し物ってなんだろう?」さがす マルホランドさんの映画レビュー(感想・評価)
探し物ってなんだろう?
物語の更生が現在から始まり、過去にさかのぼるが、一回さかのぼって現在まで見せていく構成の中にちゃんと伏線があって、合間合間の答え合わせが面白い。あの場に父親がいたんだという驚きも含まれていてもしかしたら画面の端に映っているのではないか?とついつい探したくなるようなストーリーテリングだった。一昔前にSNSで自殺志願者を募り実際に殺した事件があったが本作はそれを下敷きにしているのかなと思い、予告で思い描いていた内容とのギャップはとても凄まじく思えた。
人は常に何かを探している。生活の安心感、居場所、目的。この話はみんなひたすらに何かに飢えているけれどまるで雲をつかむようにもがいている人々の葛藤を描いているようにも思える。その一つが「愛」なのではないか。刑事が事情徴収して「そこまでするかね?」と同僚と話し合うシーンがあるがそれはこの物語自体がそこまでした結果思いがけないものまで見てしまう人々、ということを表しているのかと思う。
また全編にわたる生命の躍動感というのも大きなポイントになっていて、死にたいと願う人が出てくるがそういう人ほどなかなか死ねない。そんな皮肉めいたこともこの映画は真剣に描いていて、中でも殺しを志願するムクドリという女性は本当になかなか死ねないし、死なない。死のうと思えば思うほどそれに執着して、3回目の「自分を殺してほしい」と鬼気迫る演技がALSの奥さんと重なるところは死にたいけどその選択を迫る=必死に生きようとしているともとれるし這いつくばってそれをつかみ取ろうとする描写は見事だ。その躍動感は大阪の日常にも通ずるところはあって、人々に活気があり、相手との距離感が近いところを見るともしかして脚色されてるんじゃないか?と思うときはあったがどうも本当の風景のようだ。人々が交わす会話が嘘とは思えないくらい自然なものを感じてそこがいい。おばちゃんから自転車を借りるがそれを気にせず『ちゃんと返してや』というところも本当にそう返答しそうで自然に感じた。なんだかそれが温かみのある含みでまた良い。
父親と娘の卓球のラリーはボケと突っ込みであることもわかる。どうしようもない父親を持つ娘の苦悩だがその実の父親を健気に心配して決して見放そうとしない。娘の突込みは手厳しいがそれでもその裏に愛情を感じる。娘は最後まで父を信じ続ける。両者の呼吸は阿吽の呼吸で球がなくてもぴったり息があってラリーを続けることを見てわかるように絆は確かにあるのだ。最後の通報の決断は父親も想定外だったのだろう。しかしちゃんと更生してほしいと願う娘の想いは余りにも一途でそれでいて美しい。
日常に何か物足りなさを感じ、それでも生きようと思っている人は少なくないと思う。そういう人に響く作品だと思うし、またこの映画のことを振り返って思い出したくなるし、ずっと噛みしめたくなる一本だ。