劇場公開日 2022年11月3日

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「敵と味方を超えた大きなひとつの流れへ」パラレル・マザーズ 文字読みさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0敵と味方を超えた大きなひとつの流れへ

2022年11月14日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

2021年。ペドロ・アルモドバル監督。同じ日に女の子を生んだ二人のシングルマザー。ところが、年上のカメラマンの女性の方は交際相手(実は不倫)に指摘されたことから子どもの肌色に違和感を持ち始め、DNA鑑定をすることに。100%血縁はないという結果に、産院での取り換えを疑うが、言い出せずにいるうちに、もう一人の若い母親と再会。なんとそちらの娘(実は自分の娘)は死亡していたことが判明する。その母親と同性愛的な関係にもなって苦悩する主人公。しかし、ついにすべてを告白する日がやってきて、という話。
子どもの取り違えと一方の子の死となれば、敵対しそうな二人の女性だが、同性愛にまでいたる親密な感情を育てていくというのがポイント。異性愛も同性愛も関係なく、人間の親密な感情が積み重なっていく。ここでのキーワードは嘘をつかないこと。たとえつらいことでもごまかしてはいけない。ごまかさずに対面して話をすれば誰もが仲間になっていく。
作品のもうひとつのより大きな枠組みは、主人公のカメラマンが取り組んでいる祖先の記憶回復運動。スペイン内戦で虐殺され、埋葬もされなかった曾祖父らの遺骨の掘り返しと記憶の継承を進めている。ここでも遺骨の確定にDNA鑑定が用いられるのだが、確定された遺骨たちは敵と味方に分かれて殺し合ったスペインという国の過去を「ごまかすことなく」語り直すことを可能にしていく。

文字読み