劇場公開日 2022年11月3日

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「DNA」パラレル・マザーズ ミカさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0DNA

2022年11月14日
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鑑賞方法:映画館

知的

幸せ

「やられた」
またもや、この何とも言えない不思議な感情を味わってしまった。

多様性やジェンダーという概念が今ほど認識されていなかった1999年に、アルモドバルは「オール・アバウト・マイ・マザー」という作品で、ジェンダーや血縁を超えた女性とLGBTQとの絆と連帯を描き、多くの人達の共感を呼びました。

本作は「オール・アバウト・マイ・マザー」の世界観を引き継ぎつつも、「僕の母に似ている」とか「肌の色が黒い」などの血縁に関する描写が多々あったので、私は少々意外に感じました。特に、男性が自分の子供を気にする様な描写はあのアルモドバルにしては珍しいです。しかし、物語が進むに連れて、アルモドバルが血縁を全面に出した理由が分かりました。

物語は、ジャニスと彼女の子供のDNA検査を中心に進み、ジャニスの曾祖父のDNA検査でラストを迎えます。DNAを通して、スペインの過去〜現在〜未来の連続性を表現している様に感じました。

スペインでは、スペイン内戦下で主にレジスタンス側に居た人達が殺害され、その遺体が今でも大量に埋められています。私は本作で初めて知ったのですが、その埋められた犠牲者を庇護する法律「歴史記憶法」が2007年に成立したとのこと。この「犠牲者の権利」を犠牲者が得るには、DNA検査が極めて重要になります。DNA検査は、この犠牲者の権利を示唆していたのですね。

歴史は忘れない。
全てが繋がっている。

犠牲者の権利の運動は、スペインだけではなく、アルゼンチン、コロンビア、メキシコでも広がっています。人間の尊厳の問題だからだと思います。

私はいつも映画や本などに触れると、私が生まれる遥かずっと前の先人達の思想の積み重なりを感じます。人類のみに与えられた特権は、文化の継承。

本作のパンフレットのインタビューで、アルモドバルは脚本の執筆期間を妊娠期間に例えていましたが、彼もまた、クリエイティブを介して未来に種を蒔く母と言えますよね。そして、沢山の先人達に影響を受けて作品を生み出している人類の歴史の中のひとりであり、連続性のひとつであるとも言えます。このことは、つまり私もあなたもアルモドバルも同じで、全人類に言えることだと思います。

スペインの民主化によってアルモドバルの才能は開花しました。仮に民主化が無ければ、アルモドバルは誕生していません。民主化に至るまでには、沢山の人達の闘いの歴史と犠牲がありました。この歴史があるからこそ、今は自由に映画を撮れますし、自由に鑑賞ができるのです。彼らの命を懸けた闘いに畏敬の念を表した作品だとも思います。

今まで父権的なものを拒絶し否定してきたアルモドバル。しかし、本作では男性を拒絶している様には見えませんでした。こういったアルモドバルの姿は、彼が歳を重ねてマイルドになったというよりも、父権的な社会が徐々にそうではない方向に変化してきている証明なのかもしれません。あとは、性別という概念がもう古いんでしょうね。

ミカ
マサシさんのコメント
2024年6月13日

意図的です

マサシ
きりんさんのコメント
2023年4月3日

やっと上梓。
ミカさんはアウシュビッツ行かれたんですよね。
僕もレビュー本文に関東大震災の時の日本人の罪を書いたのですが、スマホのAI検閲が厳しくてどうしても投稿が出来ませんでした。(そこを削除してようやくアップされました)。
投稿がハネられて頓挫している下書きが増えています。言いたいことが言えないです。

きりん
きりんさんのコメント
2022年12月20日

ミカさんのことですよー

きりん
talismanさんのコメント
2022年11月15日

ミカさん、この映画で女性は小文字の歴史を担ってると映像でも思いました。女性はその時、夫がどんな指輪をしていたか、どんなおもちゃで子ども(孫?)と遊んでいたかよーく覚えている。それが繋がるので涙でした。大文字の歴史は要らないと思います。

talisman
レントさんのコメント
2022年11月15日

ご無沙汰しております。相変わらずミカさんの感性は凄いですね。
わたしはレビューに書いた通り、表面的なことに引っかかって本作の真の意味をいまいち理解できませんでした。睡眠不足で観に行ったせいもあるかもしれません。最近なかなか映画鑑賞する余裕がない中、無理して行ったのがまずかったかもしれません。
「オールアバウトマイマザー」は中古DVDを以前購入しているので、また観てみたいと思います。

レント
グレシャムの法則さんのコメント
2022年11月14日

深いレビューありがとうございます。
少しズレた話になりますが、古代ギリシャでは、武張ったスパルタは、現代の我々が教養として認識するほどの文化遺産は残してないと思います。武張ったのが好きな人からは乱れているように見えるアテネや少し後のローマ、ルネサンス期のイタリア(ダ・ヴィンチだって、美少年が好きでした)は、人類の宝といえる数々の芸術・文化を育み、残してくれました。現代でも独裁的で強権的な国からは〝文化〟の匂いは感じられません。
〝自由〟を奪うのはいつも男たちです。

グレシャムの法則
talismanさんのコメント
2022年11月14日

ミカさんのレビューを読むことができて大変嬉しいです。スペイン内戦のことほぼ知らずでした。ジャニスが子ども関連で二回もDNA検査をする、その検査が自分の曾祖父と繋がっていること、映画見ている最中はわかってませんでした。あとアルトゥーロが自分の子どもにしては肌が浅黒いと言った言葉に私もミカさん同様にかなりドキッとしました。でも分かりました。共感できて嬉しいです。ありがとうございます

talisman