ある男のレビュー・感想・評価
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おもしろかった
ずーんっと伝わってきた
原作既読です。
原作が良かっただけに、映画にも興味津々だった一方で、原作既読であるが故にがっかりさせられた映画も多かったので、迷いつつも結局鑑賞。
で、結論は、観て良かった!
平野啓一郎氏の小説は高尚過ぎて凡人の私には読みにくい部分も多々ありますが、そんなハードルの高さを映像化することで取り払う一方で、原作のエッセンスを見事に表現されてました。
出自や国籍、肩書、経歴等、決して本質ではないところで人は人を判断する。
そこに何の意味があるのか?
まともな人であれば、そんなの何の意味もないと簡単に答えるだろう。
でも、自分の結婚相手の出自が実は偽物であったなら…。
名前など単なる識別記号でしかない。
それまでの人生など関係ない。
その人を好きになり、だからその人と家庭を持ち、そして幸せに過ごした。
それでいいじゃないですか、それ以上気にしても意味なんかないですよ…とはなかなかいかない人間の性。
ただ、終わってみれば、やっぱり大した問題ではなかったということに気づく…。
作中には様々な差別発言が登場するが、こういう人達、現実の世界に実はたくさんいる。
で、そういう人達がこの映画を観た時に、どんな風に感じるのだろう?と、聞いてみたくなった。
キャストは実力派揃いで、それぞれの演技も素晴らしかった。
迷っている方には、是非鑑賞するのをお勧めします。
事実とは何か?本当に必要なのか?
隠したい過去がある。どうしても消したい過去がある。悪いヤツに金を払ってでも、社会的に生まれ変わりたい。他人の過去に基づいて生きる。その選択が縁あった人を幸せにし、自分も人生で初めての幸福感に浸った。偽りの過去から生まれた幸せは偽物なのか。真相を知ることの必要性は、その時、今となっては虚構とも言える、あの幸福感と引き換えにできるほど価値のあるものなのか?妻夫木聡の演技がとてもクールで原作の主人公を上回るリアリティーを現している。安藤サクラの演技は圧巻です。そうか…こう涙が溢れるのか…。我々の想像力はかなり貧困です。過去を思い出して泣くとき…こんなにも唐突に涙が溢れるのです。原作者の思いを監督と脚本家が見事に映像化したこの作品は、キャストの感性が全面に溢れる優れた作品ですぞ😭
さくらが一番苦労した。
差別と過去に立ち向かう
しっかりした作品
演出と役者の力で圧倒された
出自・家系、血、民族、過去、自分自身というドロドロ系ミステリー。
『蜜蜂と遠雷』でも見せた、過度に説明せず、淡々と事象を積み上げる石川慶監督の演出技法に感嘆。
役者の力も加わって、圧倒されました。
私は人生で、何回、柄本明に驚かされればいいのであろうか?
僕がはなちゃんに話す!
究極のアイデンティティ
これは他人の人生を辿りつつ、自分探しをする男の物語だと解釈しました。よく「自分探し」とは云いますが、結局よく解らず終わりそうなもんです。だって、もともと何もないんですから。何もないところから生きる意味を見つけたり紡いだりするもんじゃないのでしょうか。
主人公「城戸」は在日であることにコンプレックスのようなものを抱き、形式的な幸福を手に入れているように見える。しかし、偽「谷口」(←曾根崎←原)の正体を突き止める過程で自分が本当はどう生きていきたいか薄々気付き、嫁の不倫LINEを偶然見てしまうことで、自分も自分を偽りながら生きていたのではないかという事実を突き付けられてしまう。偽「谷口」は「谷口」になることで短いながらも穏やかで充実した人生が全うできた。本当の「谷口」は「曾根崎」になり一度は人生をリニューアルするものの、恋人が会いに来ることでどうしていくのだろうか…まだ旅の途中である。
「誰」が「何者」であるかという定義付けは主観と客観いずれも正しいものである。自分で感じたもの、他人が感じたもの、全てはどれも紛れのない事実なのだから。
重い…ただただ重い
重厚で見応えのある作品
ん?そっち
期待しすぎました
私とは何者なのか‼️❓極限の果てに見るものは❓‼️
原作では、弁護士の配分が多く、ある男と五分五分くらい、のようですが、映画ではほぼある男。
戸籍ロンダリングですが、如何にして、よりも、なんのために、です。
ある男は、ある意味わかりやすい、加害者遺族が生い立ちの負から逃れるため、人間性が素晴らしい、のに、とゆうことで。
ただ、あれほどクリソツなら、死にたくなるだろう、でも、子供ができてから鏡の呪いは逃れたのかな。
ある男はシンプルなので、実は、興味のほとんどはイケメン韓国人3世弁護士にある。
人種差別に激昂し、妻や子、姑との距離感がとても不安定で、これぞミステリーなんて思う。
ロンダリング囚人との会話と最後のバーの話はリンクしてるのだろうか。
ならば、バーのでの子の話は上は今の妻との子で、下の子は、妻を成敗した後の、ロンダリング後の子とゆうことか、なら、弁護士でありながら性格が不安定な理由もわかる。
想像を掻き立てるミステリー、是非。
ただ、差別問題としては、やや、時事的に、不釣り合いな気がします。
平野啓一郎の最新分人主義を知るために、どうぞ。
◎おそらく今年のベストワン作品
平野啓一郎が2018年に発表した小説を原作とするヒューマンミステリー。物語を貫く「自分は何者なのか」という根源的な問いかけは想像力をかき立て、自らについて考えさせてくれます。純文学作家という印象の強い平野ですが、そのエンターテインメントの要素を「完璧な構成だった」と、石川慶監督は絶賛。映画化したものが本作です。
愛していた男が実は別人で、いったいその男は誰だったのか。映画やドラマで何度も取り上げられてきた設定ですが、群を抜いています。ドラマの密度やリアリズム、精緻な演出と役者のたたずまいに目を離す隣がありません。骨太なエンターテインメント作品といえるでしょう。
男の後ろ姿の向こうに、鏡に映したように同じ男の後ろ姿が描かれている意味深長な絵画(ルネ・マグリットの「複製禁止」)。冒頭と終幕に映し出されるこの絵に、映画のテーマが端的に示されていると思います。それは“私は何者なのか?”という哲学的な問いかけ。
石川慶監督が表現する奇妙な味わいは、長編デビュー作で同じく妻夫木聡主演の「愚行録」に通ずるものがあり、今作のテーマに見事にはまっていました。
離婚を経て、子連れで故郷の宮崎に戻った里枝(安藤サクラ)は、自ら切り盛りする文房具店で客として出会った森の伐採現場で働く大祐(窪田正孝)と再婚。娘も生まれて4人で幸せに暮らしていました。しかし、大祐が不慮の事故で亡くなり、法要に訪れた大祐の兄谷口恭一(眞島秀和)から、遺影の男は弟ではないと断言されるのでした。つまり夫は戸籍を偽り、「大祐」という男性になりすましていたことになります。では夫は何者なのか? なぜ他人を偽って生きていたのか?
里枝は、離婚調停で世話になった弁護士の城戸章良(妻夫木聡)に夫の身元を調べるよう依頼します。
冒頭からはしばらく、宮崎での2人の日々が描かれます。少し長い気がしますが、夫婦が育んだ愛の深さを実感させる効果をもたらしていました。そして、城戸が登場して以降はミステリー仕立てに転調。城戸が「X」と呼ぶことにした里枝の夫の謎に、各地の関係者を訪ね歩いて迫っていくなかで。この調査にのめり込んでいくのでした。
本物の大祐の容姿も判明しますが、「殺された」「拉致された」、Xは「重罪を隠したかったのでは」などと、関係者が臆測で語るセリフの差し込み方がうまいのです。先の読めない展開に引き込まれました。
極めつきは詐欺師・小見浦(柄本明)と城戸が刑務所で面会する場面。在日韓国人3世の城戸を小ばかにし、おちょくる小見浦の言動はとにかく胸くそが悪かったです。
一方、真実をにおわせる言葉も残します。尺は短いですが、物語の鍵を握るこのシーンはすさまじい印象を残すことでしょう。この2人だからこそできたのであろう名演が見られました。
城戸は、あることをきっかけに、Xと過去の事件とのつながりを見いだします。別人として生きたXに同情、共感とも呼べる感情を抱いていくのです。そしてついに、謎が明らかになり、衝撃的な最終盤につながっていくことになります。
自分ではいかんともしがたい、血の重さとは?悲しみに満ちた真相に近づくにつれ、城戸はその男の人生にアイデンティティーを揺さぶられ、自分の生き方と深く向き合うことになっていくのでした。
石川監督は、この作品の核は「私とは何か」という問いだと考えたそうです。形而上学的な主題だがミステリーの中に取り込むことで、「広く観客に見てもらえる作品にしたかった」と狙いを語っています。
今作に限らず「愚行録」 「蜜蜂と遠雷」など、小説を原作に映画を撮ってきました。長大であるなど映像化が難しい作品も多く、「内容を変えざるを得なかったが、そこから出発できるのが自分には心地よかった。とはいえ、読後感は絶対に変えないようにしている」とのこと。
今作もヘイトスピーチや死刑問題。さらにいくつもの差別の実態、家柄や家庭環境から派生する家族の問題など、原作にある社会派の要素を盛り込でいます。但し題材や核心を重層構造で見せながらも、美しい映像とその透明感が柔らかさとぬくもりを照らす。緩急が巧みなのです。だからこそ物語の核になる「他の人になりたい」という願望に温かな視線が感じられ、「大祐」らの生きる懸命さが切々と伝わってきたのでした。
そんな「大祐」の真の姿を理解したのは終盤の里枝と長男悠人ではないかと思いました。全てを受け入れつつも、「大祐」との幸福な日々を思いだすのです。「大祐」がつらい過去や他人になりたいという思いの中で、充実した日々を味わった数年をこの家族は知っているのです。きっと、それを大切に生きていくことでしょう。
城戸の感情の変遷のほか、鏡に映る自分の姿に動揺するXの様子、里枝の長男が再び名字が変わることに戸惑う姿など、自身のアイデンティティーが揺らぐ人物の様子を重視して描いたように見えました。何があろうと過去と向き合うべきか。忌まわしき思い出は消し去って生きてもよいのか。上質なミステリーとして楽しめつつ、現代社会における大きな問いもさりげなく突きつけていました。
ところで、ある人物の過去を探るうちに、思わぬ謎と真実が浮かび上がってきます。そんな形式の人間ミステリーは「砂の器」に代表されるように、かつての日本映画のお家芸でした。一級のスタッフ&キャストを得て、この伝統的なジャンルに挑んだ石川監督、大勢の登場人物が重層的に絡む物語を繊細かつ巧みに映像化したものと評価しています。
最後に、主要人物を演じた3人は、それぞれ異なるアプローチで役に臨んだそうです。窪田は元ボクサーという設定に合わせ、撮影前に体作りをきっちりしてきました。窪田の演じる「X」が抱える父親からのトラウマの言い知れない凄みは、助演男優賞ものです。
安藤は自宅を兼ねる文房具店のセットを見るところから始め、次第に母親の空気をまとっていったそうです。「子役と2人、(カメラの前に)座った瞬間に親子になる。そうなるとカット割りができず、親子の場面は長回しにならざるをえなかった」と石川監督は語っています。
さらに「愚行録」でも主役を演じた妻夫木には、石川監督は絶大な信頼を置いていました。「ある男」の行方をたどる狂言回し的な役回り、様々な人々の気持ちを受けとめる役ですが、狂言回しにとどまらず、本作に隠された主題の”当事者”になっていく展開に引き込まれます。「最後にダーツと話を自分に引き寄せる腕力が必要になる。大変な役をやってもらった」と石川監督は感謝していました。
素晴らしい俳優が集まると、監督は何もやらなくていい。彼らが同じ空間にいるだけで独特の空気ができるものでしょうか。改めて役者の力を見せつけられた作品でした。
欲をいえば、結末の衝撃性がもうひと押しほしかったですが(^^ゞ
みんないろいろ抱えてるよ。出来るなら…。
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