ある男のレビュー・感想・評価
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視線が形作る「自分」
いつも眼差しがある。そして眼差しが人を定義する。なぜか我々はそう思ってしまう。その眼差しから逃れるのは簡単ではない。眼差すのは他者だけではない。自分もまた自分を見ている。眼差しによって貼り付けられたラベルは「自分」ではないはずなのに、我々はそう感じてしまう。
自分の眼差しもまた誰かを異化し、傷つけているのかもしれない。せめてそう自覚すること、そして貼り付けられたラベルをその人の存在と同一視しないこと。映画からの問いかけに暫定的に答えるならば、その二つが思い浮かぶ。
見る価値のある映画だと思います。
何もないからそれが良い
話はサスペンスにしようとしているが、あまりにも内容が薄くて肉厚にならない。しかし最後まで観れるのはキャストの演技や演出が素晴らしいから。
ただの入れ替わりで事件性も少なく脚本段階ではこれが面白くなるのかって思っていたのでは。
ボクシングの経緯だけで物語作ったほうが面白いと。
城ケ崎?はどこ?
幼い子供を亡くし離婚して実家の文具店を継いでいる女性(安藤サクラ)
そこにある男(窪田正孝)が訪れ親しくなり結婚。
幸せな日々を過ごしていたが不幸な事故である男が他界してしまう。
夫の実家に連絡すると、ある男が違う人物であるとわかる。
ここまでは安藤サクラ視点で描かれています。
その後、夫の正体を知るため弁護士(妻夫木聡)に相談すると妻夫木聡の視点になる。
他人になりたい人がいるのは解るけど、成り済ました人の実家の話をするのか?
ここは天涯孤独で良かったのではないか。
他人になることで他人の過去まで手に入れたがった男に巻き込まれてしまった感じ。
親の罪や出生という自分ではどうしようもないことで他人から批判されている人たちが、違う人物になることで心の平穏を得ようとしているのか?
最後のシーンは、完結で終わって欲しかったな。さんざん本編で悩まされて最後は見た人にまかせますは、無責任だしせっかくの謎解きも台無し。
過去を引きずる者たち
芥川賞作家・平野啓一郎の原作の映画化。原作は、発刊当時に既読。ほぼ同じ展開でストーリーは流れる。平野作品からは、人にはいくつもの顔がある『分人主義』の様な考え方が感じ取れ、大どんでん返しや山場となるクライマックスがあるわけではなく、モノトーンの淡々とした描写ではあるが、人の内なる心情や葛藤にスポットを当て、心動かされる印象が強い。
そんな平野作品を、ヒューマンタッチな映像を得意とする、石川慶監督が、『愚行録』でもタッグを組んだ妻夫木聡を主演に、演技派の安藤サクラ、窪田正孝、柄本明等の俳優陣を揃えて映像化している。人々心の奥底にある願望と現実の狭間を、切なく、哀愁が漂う物語として仕上げている。
我が子が病死したことで、悲しみに暮れて離婚をし、実家に戻った里枝。そこに、林業に携わる大祐が現れて恋に落ち、再婚に至るシーンから物語は始まる。新たに子供も授かり、幸せな日々を送っていた最中、大祐は、仕事中の不慮の事故で死んでしまう。そこに、大祐の兄が供養に訪れるのだが、その遺影を見て、「これは大祐ではない」と言い切る。里枝が愛した男は、いったい誰だったのか…?そこから、大祐と名乗った『ある男』の正体を巡っての、ミステリーとしての謎が深まっていく。
その謎解きの調査をするのが、且つて里枝の離婚調停をした弁護士・城戸。城戸は、『ある男』に関わってきた、様々な人々を辿って、話を聞く中で、正体に近づいていく。そこには、已むに已まれぬ、幼少期のトラウマや育成環境等が混在して、『ある男』を生み出している過去と繋がりが、明らかになっていく。
主演の妻夫木聡は、在日朝鮮人としての宿命を背負う中、その葛藤と重ねる中で、『ある男』の調査にのめり込んでいく弁護士を演じている。安藤サクラは、乱れ髪を直しながら、哀しみを湛える演技に、女の色気を感じずにはいられない、相変わらずの安定感のある名演技。窪田正孝も、過去を引きずり、孤独さの中に猟奇的な影が見え隠れする青年役は、ハマリ役。そして、懲役囚を演じた柄本明の妙演もまた、大変印象深い。
人は、置かれたシチュエーションや相手次第で、その場に応じた様々な自分となる。それが自然な立ち居振る舞いとして赦され、受け入れて生きていくものであると、訴えかけてくるようなラスト・シーンだった。
「問題提起」の仕方
「死んだ夫は、実は(その身元とは)全くの別人だった」
ミステリーでは「実は別人」という設定、割とよくある「古典的手法」だと思います。
本作の予告を初めて観たとき、ふと思い出した作品(恐らく、私だけじゃないと思いますが)が『噓を愛する女(18)』です。ただ、『噓を愛する女』は前半のシリアスさに対し、解決していく過程では全くテイストが変わってコメディ要素が強くなり、観終わって正直「つまらない上に下手くそだな」と思った記憶があります。内容はほぼ覚えてませんけど。
では、果たして本作『ある男』はどうなのか?
まず、鑑賞前は「比べるまでもあるまい」と思っていました。その理由は何をおいても「石川慶監督への期待感、いや信頼感と言ってもいい」と監督を信じていたからです。しかし、、鑑賞しながら既に、その期待を下回っている印象を誤魔化すことも出来ず、観終わって今「残念ながら、あまり良くなかった」と感じています。
まず脚本も今一歩な感じですが、何より今回は「ミステリー」を意識的に強調するあまり、石川監督の編集がかなり「裏目に出ている」ような気がします。まぁ、今までの作品を振り返っても、割と「手数の多い」方だと思いますが、特に今回はこの作品の世界観に対し、やや「しつこい」と感じました。
そして、登場人物たちの行動の裏にある心理としての「差別」について、その「問題提起」の仕方がやや強引な割に中途半端で、妙に悪目立ちな感じもするし、反ってそれが「登場人物たちに対する行動原理」に対する言い訳がましい印象として残ります。
それにしても、「実は別人」という設定は「ギミック」として使われても「チート感」否めないし、どうやったらこのアイディアを旨く使えるんでしょうかね?
まぁそう考えれば、本作は健闘しているとも言えるのかもしれません。と言うことで、ギリ星3つかな。
家族のせいで差別されちゃう社会に物申す。
男の子の母親の里恵(りえ)は大祐(だいすけ)と再婚して、娘を産んで幸せに暮らしていたが、大祐が事故で突然亡くなってしまう。一周忌に初めて旦那の家族であるお兄さんを呼んだら、この写真は弟ではないと主張される。不思議に思った里恵は、昔、離婚調停でお世話になった弁護士の城戸に真相究明をお願いする。それから大祐の真実を明らかにしていくお話。
大祐は悪い奴なのかなってちょっと思ってたんだけど、窪田正孝君が演じてるからいい奴にしか見えなかった。それって俺だけかな?
何かしら事件が起きるわけではなく、真相を探しあてるだけの話なので、ハラハラドキドキはありません。でも、俳優さん達がとても良くて、結構、ウルウルしちゃった。
特に良かったのは、里恵役の安藤サクラさん、ずっと演技じゃなくて本気でドギマギしてる様に見えた。
自分の家族には犯罪者はいないし、在日外国人でもないし、老舗温泉旅館でもないので、登場人物達の生きづらさは分からないけど、辛そうなのは良く分かる。人生をやり直すって、別人にならなきゃできないのね。たーいへん。
ん?最後のシーン、もしかしてマジで?
絵
待ちに待った映画🎬✨
妻夫木聡さんの揺れ動く表情
笑ってるけど内心笑っていない感情
窪田正孝さん
やはり狂気な演技とても良い
優しいお父さんも善き
安藤サクラさん
子供を亡くして辛い母を演じてます
いつも素晴らしいな
ただ皆さん泣くシーン多いかなぁ
妻夫木聡さんの城戸
最後は
妻に浮気され、義理の父に在日をいびられ、自分の居場所がなくなり
谷口になりすます
あのBARだけだと思うが
それは逃げなのか、保身なのか
戸籍交換、なりすまし、親子が複雑に絡み合うなんとも巧妙な映画
驚愕のラスト3分!!!
さすが妻夫木聡さん!!
そうくるとは予想出来ませんでした!!
うーんなるほど、確かにな〜と思わせるラスト5分あたりの状況そして。。。!
ミステリーなだけでなく、人生についても考えさせられる作品でした。。
ある男って誰なのか??それを追うだけではなく、
あなたの人生は?
。。と問いかけてくる脚本でした。
役者としては小藪さんがまーあいい味出してました!!(笑)ここはちょっと楽しい(笑)小藪さん、もうまんまの性格やん!!って良かったのと、
いやーーやはりひとクセある人物をさせると柄本明さん上手い!!!分かってるけど、作品により悪徳政治家でも誰でも(今回は別に政治家ではありません。)一筋縄にはいかない人物、まーー上手い!!
とりあえず最後の3分の展開で、私はうわーーーーと思いました。ミステリー好き、多少世にも奇妙な。。っぽいテイスト(別にシンプルに現実世界の話だけですが)そういうの好きな方ならオススメです。
しっかりとしたドラマ
タイトルなし(ネタバレ)
なかなか引き込まれる好作品ではあったのだが、妻夫木が大祐なんじゃないの?っていう予感が当たってしまったので拍子抜け。意外性の付け方がパターン化しちゃってるから、こういう作品何本か観てると何となく感じちゃうんですよねー。素直にあゝそうだったのか!で観終わった方が楽しいですよね。
自己って何、自己ってどうやって作られるの?ってことでしょうけど~~~
素晴らしいストーリーと出演者の演技が堪能出来た
里枝(安藤サクラ)は離婚後に息子を連れて故郷へ帰り、やがて出会った大祐(窪田正孝)と再婚し、新たに生まれた娘と4人で幸せな家庭を築いていた。だが、大祐は仕事中の事故で亡くなってしまった。その一周忌に、長年疎遠になっていた大祐の兄に来てもらったところ、遺影に写っているのは大祐ではないと言われ、愛したはずの夫が全くの別人だったことが判明したのだった。そのため、里枝は以前離婚の際世話になった弁護士の城戸(妻夫木聡)に大佑の身元調査を依頼した。城戸は男の正体を調べていく中で様々な人物と出会い、真実をみつけていく、という話。
大佑は誰なんだろうという疑問に城戸の調査の面白さ、過去を調べるにつれわかってくる真実に深みが有って良かった。
調査の中に出会う清野菜名、河合優実も良かったし、詐欺師で服役中の柄本明のいやらしさ、もさすがだった。
弁護士の城戸もルーツに公にしたくない秘密が有ったり、妻にも秘密が有ったりするのも面白かった。
もちろん、妻夫木聡、安藤サクラ、窪田正孝の3人は素晴らしかったし、特に窪田のボクサー姿は体の鍛え方も凄かった。
里枝が前夫との息子と真剣に話をするシーンはグッと引き込まれた。あんなお母さん、いいなぁ、って思う。
人それぞれ、事情や人に言えない秘密があり、その葛藤を堪能できる素晴らしい作品です。
「ある男」というタイトルをずっと回収し続ける映画
上映開始から観終わった今も、ずっとどきどきしているんですよ。私は映画が大好き過ぎて、どれだけ大好きかと言うと、映画を擬人化するとして、映画が恋人だとしたら、私の愛が重た過ぎて多分半年も経たないうちにフられるでしょうなというぐらい、とても重たい愛が出て来てしまうぐらい好きで…。でもそれは勿論、例えば男好きな人が、男なら誰でも好き〜という訳じゃないのと一緒で、映画の中でも、好き・嫌いが勿論あります。
で、本題に入りますと、「ある男」はもう、それは本当にもう、がっつり好きでした。大好きです。多分初めて知ったばっかりなのにもう重た愛が発動しております。で、今どきどきしているという訳です。(何じゃそりゃと思う人いるかもしれませんが、人が、好きになる人それぞれ好みがあるように、映画も人それぞれなのでご了承を)
石川慶監督始めとした製作陣&俳優陣の方たち…全ての人が素晴らしい一本の作品を作ってる事に、脱帽しかないのですが、そんな敬意を忘れてしまうぐらい没頭して観てたなあ。映画っつーのはこうも丁寧に作れるものなんですね…作った事は無いので分からないけど、なんか丁寧な伝統芸能の技を観てる感覚と近いぐらいの作品だったよ。丁寧の種別で言うと、凄腕の料理人が、人間が食べる為に殺した生き物を、死を無駄にしない為にも骨から毛から余すとこなく美味しく料理する、あの丁寧さに酷似しています。
予告編を観ている人は何となくのストーリーが分かると思いますが、愛していたはずの夫が、亡くなった後、違う人間の名を名乗っていた事が発覚して、弁護士に調べてもらう…というお話です。私はこの手のストーリーは正直あまりそそられないっちゃそそられないのですがね、上映開始直前まで、まだ終わってない仕事を置いて会社を後にしたのを若干そわそわ負い目を感じてたのですが、始まった瞬間一目惚れした時みたいに没頭も没頭してしまいましたよ。いやあ…丁寧だなあ…とても丁寧に作られているし、開始数秒で心掴んでくるよね。一人一人の人間が、登場人物が、嘘が無いというか…演技って所謂虚構のはずなのに、この作品に出て来る人達は全員その登場人物の生い立ちを生きてて、まじで感動した。職人技ってこの事なのかな。
妻夫木聡…優しい人間を演じたら右に出る者がいないくらいピカイチなのに、優しさの中にある自己嫌悪やトラウマや罪悪感を垣間見せるのを演じさせてもピカイチですね。かっこ良い。
安藤サクラ…安藤サクラが流してる涙と同じ分量の涙を、劇場で流しました。母として強く生きる姿も、子供も含めた周りの人に少し寄りかかる(頼りにする)姿も、全てが愛おしかった。抱きしめたくなる人を演じていた。かっこ良い。
窪田正孝…元々、影のある人間やストイックな人間を演じるのがとても上手い俳優さんだとは思っていたし、「ふがいない僕は空を見た」で初めて観てからずっと我々を裏切らず真っ直ぐな演技と如実に年々凄く良くなる繊細な演技を見せてくれて…。かっこ良い。
清野菜々…相変わらずこの人も嘘が無い演技が上手いなあ。笑っているのに、笑顔を随時見せるのに、興味深々にチャレンジしたりするのに、心の奥底で本当は、寂しい、悲しい、逢いたい、という気持ちをひた隠しにしている役。顔いっぱいの笑顔なのにふいに見せる、隠している部分が見えてしまう時、こちらは彼女の何倍も泣いてしまったよ。涙を溜める瞳が多分一生心から離れないと思う。かっこ良い。
仲野太賀…数秒でこちらに色んな過去や想いを伝えてくれる演技をするのは神の領域だよ…。さすが石井裕也監督に、日本では数少ない、「その人自体がもう映画」と言わしめた人だね。かっこ良い。
柄本明…ここ最近の柄本明の中でいちばん好きでした。勿論ベテランもベテランなんだからそりゃ上手いよ。しかしこの作品の柄本明は誰もが惚れ直す柄本明だった。妻夫木演じる弁護士との掛け合いのシーン最高。掛け合い方…数秒の狂いも無いのに一切わざとらしさ無しのやつ。これも職人技なのか、それとも映画の神降臨なのか…。かっこ良い。
一人一人への想いを書いていると多分今日眠れなくなってしまうので自分の健康面を考えて一人一人への想いは一旦終わりにして…。
この作品のいいなと思うところは、俳優陣の演技力をひたすらに信じているところだけじゃなく、ちゃんと見た目や中身を取り入れた、言わばもはや当てがきなんじゃ?と思われるような脚本なところ。簡単に言えば、映画は、現実を描いているようで、普通の生活じゃ考えられないとても綺麗な男性女性が揃えられて観せてくる作品物なんだから、観ているこっち側としては【登場人物達はストーリー内容を真剣な顔で演じてはいるけどさ…その前に、「わーイケメンだな!」「うお美少女きた」とか、一発目でまず思うよね…?人間なんだから…】という違和感を抱えて観ることには多からず少なからずあるんだけど、この作品は大袈裟ではないがそれをきちんと出してくれててそこも無茶苦茶魅力的だなと思った。そこ凄く好きなポイント。観たら分かるのでそれを是非感じて欲しいです。
そして、人が生きてく中で、日々の生活やニュース番組や記事を読んで感じる、差別・偏見などの嫌〜な気持ちになる事を練り込んで、生々しい「人間の嫌な部分」とそこから生まれる「違和感」「事件」「展開」から、すーっと心に響く「感動」「涙」「人間愛」を、余す事無く、かと言って押し付けがましくも無く自然な感じに私の心に届けてくれるところもかなり好きでした。
あともうひとつ、アートとかアート系な何かと言うものは私が言えた筋合い無いのですが…冒頭と終わり方、最高過ぎでしょう。鳥肌立っちゃったよ。ある種冒頭から最後の最後まで、ずっとこの作品名の「ある男」というタイトルを回収して回収して、ある男を表現し続けているんだね、この作品は映画は。ストーリーも何もかも感動に次ぐ感動なんですが、ここもですか…(帽子で換算すれば約5000くらい脱帽してるはず)ってもう、感動に対して感動疲労(造語)した困憊な私でした。
これ観た後、色んな場面を思い出すだけで思い出し泣きします。というか、タイトルを思うだけで思い出し泣きします。
あーほんと面白かったな。出来るなら、劇場内で一緒に観ていた人達全員とハイタッチして劇場を後にしたかったぐらい面白かったな。最高の夜ってのはこの事ですよ。今夜も自分の激重な愛に自分でひいております…。感想終わり。
よく見えない。釈然としない。
最後、城戸がバーで自身の人生であるかのように偽って話した内容は、原誠の第二の人生、「谷口大佑」としての人生だった。谷口の人生を継ぎ、谷口として生きた人生を尊重するような言葉に思えた。偽りの人生だが、幸福に満ちた彼の約4年間を肯定し、讃えているかのようだった。少々難解な本作の着地点としては、かなり鮮やかに思えた。一方で、いきなり城戸が原の人生を語る描写は、とても暗示的かつ婉曲的で、観客を混乱させるものだ。本作において、あらゆる描写は直接物事を言い表さない。常に暗示的で、時にはメタファーとして、物語の行方をくらませる。
故に本作は、どうも主題の掴めない物語だったと思う。自身のバックグラウンドに悩まされる者たちが、名前を変え、別の人の人生を歩む。そんな姿に、城戸は「在日」というレッテルを貼られる自身の境遇を重ねる。だが、そんな彼の心象描写も少なく、彼がどうしてそれほどまで悩み、何に思い至ったのか、一貫して晒されることはなかった。思えば、城戸だけでなく他の人物も、感情が露わになることはあっても、どの感情もその出どころはいつも分からなかった。だからなのだろう。誰かに同情することも、誰かに惹かれることもなかったように思う。
結局は「名前に囚われるな」とか、「名前なんて関係ない」みたいな主題なのだろうと思うが、やはりどこか空虚だ。もしかしたら、身構えすぎていたのかもしれないと思う。複雑に見えた構成だが、実はもっと単純で、難解なミステリーではない。目を向けるべきは、谷口大佑の正体ではなく、それにつながる語りであり、作中に散りばめられた社会的な問いかけだ。「死刑囚は変われる」「死刑囚の息子は死刑囚の息子なのだ」「また苗字が変わるの?」他にも色々あった気がするが覚えていない。物語の結尾に結びつくような結びつかないような、そんな多くの語りが本作ではたくさん見られた。それに意味を見出そうとするから、判然としなく、靄がかかってしまう。ただそれとして受け入れれば、実に単純なストーリーに見える。私は、そう思うことにした。
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