劇場公開日 2022年5月6日

  • 予告編を見る

「面会室のアクリル板にうっすら映し出されるふたりの顔」死刑にいたる病 えすけんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0面会室のアクリル板にうっすら映し出されるふたりの顔

2024年1月4日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

怖い

知的

難しい

ある大学生・雅也のもとに届いた一通の手紙。それは世間を震撼させた稀代の連続殺人鬼・榛村からだった。「罪は認めるが、最後の事件は冤罪だ。犯人が他にいることを証明してほしい」。過去に地元のパン屋で店主をしていた頃には信頼を寄せていた榛村の願いを聞き入れ、事件を独自に調べ始めた雅也。しかし、そこには想像を超える残酷な事件の真相があった―(公式サイトより)。

原作は「イヤミス(読後、嫌な気持ちになるミステリー)」に分類されたというが、本作も後味は悪い。しかし、後味の悪さはだいたい、わたしたちが普段、蓋をしているなにかが描かれていることに由来する。

例えばそれは、大人になっても抜け出すことが難しい生育環境の影響であったり、成長の過程で自己が肯定される喜びを逆手に取った洗脳だったり、結局のところ、自分は何者でもないのだという空虚感だったりする。阿部サダヲ演じるシリアルキラー・榛村(はいむら)は、自分が生きるために「必要」と位置づけ、これらを駆使し、悪行を繰り返す。

印象的だったのが、本作でメインともいえるほどたびたび登場する榛村と雅也の面会室でのシーン。ふたりを仕切るアクリル板に双方の顔がうっすら映し出される演出が多用されている。例えば、ロードムービーの金字塔「パリ、テキサス」では、拘置所の面会室のような小部屋で裸を晒す戯女として働く失踪した妻と、彼女を探し当てた夫がアクリル板越しに電話で話す場面があるが、そこにうっすら映し出される双方の顔は反対を向いていた(はず)。

長く分かり合えなかったふたりを表す象徴的なシーンだが、本作では榛村と雅也はアクリル板越しに同じ方向を向いているように映し出されている。Fラン大学に通う何者でもない雅也が一時的に、榛村に傾倒しかかったようなタームとの符号を思わせ、白石監督のきめ細かな演出が光った。

阿部サダヲの狂人っぷり、水上恒司の小声っぷりは言わずもがな好演だったが、本作で初めて知った宮崎優は良い俳優になりそうな気配がした。

えすけん