「観客も、阿部サダヲの狂気に取り込まれる」死刑にいたる病 といぼ:レビューが長い人さんの映画レビュー(感想・評価)
観客も、阿部サダヲの狂気に取り込まれる
予告編からして面白そうで、公開されてからの評判もかなり高い。地元の映画館では上映していなかったので、片道3時間掛けて隣県の映画館にて鑑賞いたしました。
結論ですが、狂気に満ちた映画でした。観ていてキツかったです。
阿部サダヲ演じる連続殺人犯・榛村大和が大学生の筧井雅也に冤罪の証明を依頼するという内容ですが、阿部サダヲさんの醸し出す狂気性に、主人公の雅也だけでなく我々観客も当てられていきます。
そして待ち受ける衝撃のラスト。ラストシーンは原作と映画とで若干異なるらしいですが、本当に素晴らしいラストでした。
ただ、爪剥ぎやアキレス腱切断のようなゴア描写が容赦なく登場します。PG12というのが信じられないレベルの、目を背けたくなるような描写がたくさんありますので、そういうのが苦手な方にはオススメできないですね。お気を付けください。
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高校で落ちこぼれてFラン大学に進学したことで学歴主義の父親から疎まれ、鬱屈した日常を送る大学生の筧井雅也(岡田健史)。彼の元にある日1通の手紙が届く。手紙の差出人は、24件の殺人事件を起こし、うち9件の事件で立件されて死刑判決を受けていた凶悪殺人犯の榛村大和(阿部サダヲ)であった。中学時代に榛村の営むパン屋の常連で彼と面識のあった雅也は、東京拘置所に収容されている榛村と面会することにした。面会室で榛村は「立件された事件のうち、一つだけ自分の起こした事件でないものがある」として、雅也に冤罪の証明を依頼するのだった。
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阿部サダヲさんの芸名の由来は阿部定という女性です。彼女は愛人の男性を殺害し、その男の局部を切断して大事に持ち歩いていたという所謂「阿部定事件」を起こしました。なんだか本作に登場する連続殺人犯の榛村と似てますよね。榛村も被害者に拷問を行ない、剥いだ爪を瓶に入れて大事に保管していました。「好きな人の一部を自分の手元に置いておきたい」という台詞も、劇中の終盤に登場しますので、どことなく阿部定事件を思わせるような部分がありますよね。
本作の主演である阿部サダヲさんの演技は本当に素晴らしかったです。彼の名前の由来からしても演技からしても、他の人が演じるのが全く想像できないですし、ベストのキャスティングだったと断言できます。
細かな描写も素晴らしかったですね。他のレビュアーさんも挙げていますが、取調室のシーンで仕切りガラスに反射する雅也と榛村が段々と重なっていく描写とか、本当に良かった。個人的には雅也の母親も岩田剛典さん演じる金山一輝も、自分で物を決めることができずに相手に委ねるようになっているのが榛村の影響が強く残っているからだということが分かります。主人公の雅也に関しても、自宅でオレンジジュースを飲む様子が描写された直後に、中学時代に榛村のパン屋でオレンジジュースをサービスしてもらったという描写が出てきます。雅也もまた、榛村の影響が今でも残っているのだということが分かります。
また、雅也と付き合うことになる灯里と仲良くなったきっかけであるサークルの飲み会。あれこそまさに「疎外感を与えてから近づく」という榛村の人心掌握術です。もしかしたらあの時点で既に灯里は榛村に完全に操られていたのかもしれないと考えると、本当に恐ろしくなりますよね。
そしてストーリーも素晴らしかった。
榛村と面会を重ねるごとに彼の狂気性に当てられ、自覚もないまま榛村に陶酔していく雅也。最初は凶悪連続殺人犯である榛村に対して警戒していた雅也が少しずつ榛村に飲み込まれていく描写は本当に素晴らしかったし、そして恐ろしかった。印象的なのは赤ペン瀧川さん演じる榛村の担当弁護士と雅也の対比構造。佐村弁護士の下でアルバイトとして働きながら捜査を進めていくことになる雅也でしたが、独断での強引な捜査によって佐村弁護士と対立することになります。榛村の言うことを完全に信用している自尊心の強い大学生の雅也と、過去の経験と積み上げた知識によって榛村と一定の距離を置く佐村弁護士の考え方やスタンスが対立的に描かれているシーンです。
佐村弁護士が言う「彼(榛村)の言うことを信じすぎてませんか?」という台詞は、雅也の視点で事件を調べていくうちに、「榛村の言う通り最後の事件は冤罪だったのかもしれない」と考え始めた我々観客に向けて放たれたものなのかもしれませんね。
そして、ラストに待ち受ける驚異の展開。全く想像もしていなかった展開ですが、決して唐突ではなくてしっかり伏線が張られているので納得感があります。「日本映画史に残る衝撃のラスト」というキャッチコピーは伊達ではありません。私は完全に騙され、「やられた!」と心の中で叫びました。
今年は日本ノワール映画が豊作ですね。先日鑑賞した『さがす』も歴史に残る名作でしたし、本作も紛れもなく名作です。コメディ色の強い俳優である佐藤二郎や阿部サダヲがシリアスなキャラクターを演じることでギャップもありますし、単純に演技力が高いです。
グロに耐性があるのなら、観ておいて損は無い名作です。オススメです!!!