「「爪、綺麗だね。」「剝がしたくなる? 私わかるなあ。好きな人の一部を持っていたいって気持ち。」」死刑にいたる病 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)
「爪、綺麗だね。」「剝がしたくなる? 私わかるなあ。好きな人の一部を持っていたいって気持ち。」
冷静なのか冷淡なのか、終始感情が揺れることなく落ち着き払う榛村(阿部サダヲ)。
生気もない青年が、次第に力強く、何かを得たかのように変貌していく雅也(岡田健史)。
対照的だった二人なのに、次第に榛村に導かれるように雅也の中の何かが共鳴していくようで、ゾクゾクが止まらなくなっていった。そう、ガラス越しに向かい合う二人の影が重なっていくのがその暗示のように。しかしそれは、榛村に"操縦"されていたのだった。雅也も、映画を観ている僕も。「死刑にいたる病」とはをうまくタイトルをつけたもので、ああ自分にはこの人の・・と思い込ませる仕掛けがあったわけか。
そしてその操縦は、ひとりふたりで済むことはなく、しかも、ずっと続いているってのがおぞましい。解けない魔法のような榛村による巧妙な操縦が、今も。それを目の当たりにして、得体のしれないものに出くわした気分の雅也。ああたしか、「凶悪」の山田孝之も、ラストこんな気分だったような。白石監督の仕掛けの妙かな。
なお、ロケ地は主に地元宇都宮。いたるところに既視感ある風景。だけどいませんよ、あんなパン屋さん。でも、いやだなあ、桜の花びらが人の爪に見えるようになったら。事件の真実を求めようとした雅也のように、何かに追い立てられるように、几帳面で高校生に優しく声をかけるパン屋さんがいるんじゃないかと近所を探してしまう衝動が起きるかもしれない。
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