「サイコな怖さよりゴア描写の痛々しさが悪目立ち」死刑にいたる病 ニコさんの映画レビュー(感想・評価)
サイコな怖さよりゴア描写の痛々しさが悪目立ち
ゴア表現がきつめなので、サイコサスペンスというよりホラー寄りの印象だった。PG12作品だが、加害方法がいかにも痛そうなせいか、R15+と言われても驚かない。
阿部サダヲの目から光の消えた表情はよかったが、何か怖さが物足りなかった。漠然とした恐怖感は残ったが、よく考えるとほぼゴアシーンの怖さだった。
いわゆるサイコパスの犯人が、自分は手を下さず周囲を操って殺人をさせる犯罪ノンフィクションの本を何冊か読んだことがある(尼崎連続変死事件や北九州連続監禁殺人事件など)。読後の個人的な感想としては、他人を洗脳して行動までもコントロールするには、優しさだけでなく恐怖も植え付け、その匙加減を絶妙に調整する必要があるように思えた。
榛村はもともと、最終的に相手を力で拘束し、肉体を損壊して残虐な苦痛を与えることを目的とする殺人者で、だからこそ恐ろしい。そのために必要な人心操作の技術は、上記の事件の主犯とは違い、ターゲットに優しさや理解を見せてある程度近づけるレベルであれば事足りる。近づけたらその後は力ずくで目的を完遂するからだ。
だが本作では、彼が既に収監されているところから話が始まるので、榛村は雅也始め主要な登場人物に実力行使をすることは不可能だ。そうすると、面会室での挙動とと手紙と会話だけで今の榛村の恐ろしさを見せていかないとならないのだが、彼は人間を遠隔操作することは本来専門外で、トークスキルはほぼ相手を褒めるだけなので、警戒してもつい取り込まれてしまいそうになる魔性の話術のようなものが全く見えなかった。
そもそも、雅也に嘘をついてあれこれ調べてもらうことの目的がよく分からなかった。真面目な中高生の肉体損壊行為がなければ生きていけないとまで言い切る彼が、その目的達成に全く繋がらないあのやり取りをする意義は何だったのだろう。
榛村の普段の振る舞いは(言っている内容を除けば)終始あまりに普通の善人で、きつめのゴア表現との対比で異常さを表現したかったのだろうが、それ自体創作サイコパスにお決まりのキャラ設定だし、あそこまで狂気の気配がないとかえってリアリティに欠ける。阿部サダヲが特異な人間を演じることにも意外性がない。
もし、虐待を受けた人間の心の傷の深さを描こうとしていたのなら、直接的な残虐描写はせず、榛村と雅也や子供たちとのやり取り描写に重点を置いた方が伝わりやすかったかも知れない。
そんな感じで作品世界に上手く入り込めなかったので、後は細かいことばかり気になってしまった。
犯罪歴のある人間が、自分のパン屋に来る高校生を中心に地元ばかりで、冒頭で語られるような規則性を持って犯行を繰り返していたら、さすがに被害者が24人に至る前に捕まるのではないだろうか。几帳面そうな榛村が、遠景に人通りがあるようなその辺の道で、声を上げる女性を真っ昼間に車に引き摺り込んで殴りつけるのも性格に不似合いな脇の甘さで、唐突な感じがした。
雅也があんな怪しい手紙に始まった榛村の依頼をすんなり受けたのも違和感を覚えた。雅也の描写の流れからして、家庭が機能不全で大学でも馴染めてない人間は、あのレベルの話にも釣られてしまうということなのか。そういう動機付けだとしたら、偏見のようであまり好きではない。
その後、榛村に指示されて担当弁護士に会いに行き、そこでいきなりアルバイト採用される。裁判資料の管理があまりに甘いので、担当弁護士も榛村に洗脳されているのかと思ったが、弁護士は物語後半で殺人鬼榛村への偏見をあらわにするので、そういうことでもないようだ。何だか都合がよすぎて、雅也が裁判資料を見られる状況に持っていきたいという作り手の意図が悪目立ちしたように見えた。それに弁護士事務所の名刺が万能過ぎないか。
拘置所から出す手紙に差出人名を書いてなくても問題ないのか。傍聴席に阿曽山大噴火氏がいるなあ(これは結構気が散った)。ロッチ中岡に見えてしまう岩田剛典(頑張っていたと思います)。
岡田健史は、鬱屈した大学生の危うさが出ていてよかった。彼の存在感で見応えが補われた。
ニコ様、コメントさせて頂くのは初めてだと思います。”信頼関係を築く”や”トラウマになって”など、セリフで済ませてしまっていて描写が足りないと思いました。
ちょっとサービスしてもらったからって、女の子がおじさんに付いて行きません。あの女性も、榛村に会って恐怖の表情を浮かべましたが、トラウマを抱えていたならスカートを穿かずにパンツにするとか、そもそも地元を離れていたと思います。
金山の父親は痣を気にして髪で隠す息子を情けないと思うなら、坊主頭にさせたのでは?と思いました。細かくてすみません。
イイねありがとうございました😊。おっしゃるとおりの「机上の・・創作の犯罪」で詰めが甘すぎますね。引用されてらっしゃる「北九州の事件」は、関連文庫本も読んで、業の深さ、マインドコントロールの現実的恐ろしさに震撼しましたが、この作品は「蜃気楼」みたいでなんだかなぁ!と思いました。ド共感です。ありがとうございました😊😊。