「その疫病は伝染する…」死刑にいたる病 豆腐小僧さんの映画レビュー(感想・評価)
その疫病は伝染する…
阿部サダヲはどちらかというとコミカルな作品のイメーシがあるが、その演技の幅は広い。この作品を見るにあたり昨晩、白石和彌監督の「彼女がその名を知らない鳥たち」観直した。そこでは歪で醜く純粋な無償の愛の体現者を演じたが、本作では最悪のサイコパス、まさに純粋悪として観客を釘付けにすることだろう。
実は本作での榛村/阿部サダヲの登場の比率は少ない。岡田健史演じる雅也がメインとなり話は進んでゆくサイコスリラーなのである。しかし、ラスト近くの阿部サダヲの演技によって、結局この映画は「阿部サダヲのものである」ことを知らしめてしまうのが凄い。恐るべし阿部サダヲ!
演出として特筆すべきは、拘置所の接見室での描写だろう。これがなかなか凝っていた。
接見室のガラス越しに映るシリアルキラー榛村の体の上に雅也の顔が重なり、榛村が雅也を侵食し、取り込むような様は鳥肌が立つ。やがて接見も終わりに近づき、ガラス越しに重なる両者の両手はゆっくり引き離れ、榛村の侵食から開放される雅也。しかしその時にはすでに榛村の病に犯されるのだ。
そしてその病とは…裁かれ死にゆく榛村が自身の分身をこの世に残すというもの。自分の意志を残すべく獄中から巧みに人を絡め取り侵食する最悪の疫病…それが榛村だったのだ。
雅也は一時、本当に取り込まれてしまうかに見えたが、最後にそのからくりに気づき抗い、その思惑を打破してゆく。そしてゆっくりと席巻室のガラスに重なる二人の姿は離れてゆく。雅也は榛村になることはなく榛村は落胆する。
…しかしラスト、更なるどんでん返しが待っている。そこで雅也は榛村の分身は確実にこの世の中に残されていることを知り、驚愕と絶望で作品は終わる。それはもしかしたら他にももっとにもいるかもしれないとさえ思わせる終わり方だ。そう、死刑に至る病は確実に伝染してゆくのだ。その辺詳しくは映画館でぜひ体感して頂くといいだろう。
あと裁判ウォッチャーの阿曽山大噴火が傍聴人のエキストラに紛れて数度登場してるのはご愛嬌w