「すごく面白かったけど二度と観たくない映画」死刑にいたる病 s sさんの映画レビュー(感想・評価)
すごく面白かったけど二度と観たくない映画
侮っていました。そこまで期待していなかったのですが、期待を上回る満足度と、そして怖さでした。
W主演のおふたりはさすがでした。
阿部サダヲ演じる連続殺人犯・榛村は根っからのサイコキラーですが(だからこそ)、表面はすごく穏やかで、語り掛ける口調もやわらかく優しい。目に光がないだけで。全体的に、事件現場の片田舎の緑が映えていますし、必要以上に重苦しい雰囲気や演出はないのですが、その穏やかさが逆に恐ろしい。
雅也役の岡田健史も見事でした。彼は、危ない膨れ方をした熱を抱えていて、それがいつ爆発するか分からない、その危うさが恐ろしかったです。あと雅也の家族も、ヒリヒリしていて噛み合っていない。父親の所為でもありますが、すごく嫌な雰囲気です。暖簾越しに佇む父親がすごく怖い。
必要以上に重苦しくない代わりに、穏やかなシーンや一息つけそうなシーンも一瞬もないです。その代わり、途中でだれることなく、上映時間中集中して入り込むことができました。
ただ、謎の人物とされる金山には唯一入り込めませんでした。 ミスリードの為なのか、冒頭の怪しげなシーンと本人の境遇がいまいち繋がらず。鑑賞後にふと思い返して、 榛村の所為でおかしくなってしまったと思えば、まあ分かるか…と思えるくらい。難しい役だとは思いますが、ちょっと私の咀嚼が追い付けなかったです。
ストーリーもとてもきれいにまとまっていたと思います。 ところどころ気になる点(榛村の23人はさすがに無理があるのではとか、事件資料の撮影してた音はさすがに気付かれない?とか)はありますが、その細かいところをつつくのが野暮に思えるくらい、本編が面白い。
特にキーとなる面会室の演出は、主役おふたりの演技を底上げするように重なっていて、見ごたえのあるものでした。特に雅也の目つきの変化がすごい。動揺から羨望にすら思える明るさにもなり、最後には光を失って淡々と手にした顛末を語る。退屈にも過剰にもなりそうなところを、いい塩梅で見せてくれたと思います。原作・映画のタイトルの意味も、個人的には最後の面会室の榛村を見ていて腑に落ちました。
最後のオチも余韻に引かれて、結局榛村の手の中で、自分では一歩線を引いていたと思っていてもそうではない、その後味の悪さがよかったです。
榛村の被害者をいたぶる拷問のシーンは本当に嫌ですし容赦ないです。前評判で描写の遠慮のなさは覚悟していましたが、それでも耐え難いシーンでした。血しぶきが飛ぶとかではなく、ただただしっかり映すところを映しているから嫌なんですよね。
予告編と映画冒頭、血の付いた桜の花びらが水面に浮かんでいると思っていたシーン、あれが被害者の剥がした爪だったと分かった時、本当にドン引きしました。やられました。PG12で大丈夫なのか不安になる描写の連続です。
めちゃくちゃに面白かったですし、不満もありませんが、タイトル通り二度と観たくない映画です。
全てを知ったうえでもう一度見ると面白いんだろうなぁというのは想像できますが、あまりにもしんどく疲れるので…あとは色んな感想を読んで楽しみたいと思います。